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第32回 ハワイ書籍レポート ー マリ・ピンダー

2021/02/08

世界の出版事情 ― 各国のバベル出版リサーチャーより
第32回
 

 
ハワイ書籍レポート
当たり前が、当たり前でないことに気づく

マリ・ピンダー
(バベル翻訳専門職大学院在学中)


 

これまでのハワイ書籍レポートではノンフィクション作品を取り上げてきましたが、今回は趣向を変えてフィクションの紹介です。”The Descendants”は『ファミリー・ツリー』というタイトルで邦訳が出版されています。2012年にジョージ・クルーニー主演で映画化もされているので、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。私はこの映画を以前、飛行機の中で少しだけ観たことがありました。「ハワイが舞台になっている」という理由で親近感を抱いて観始めたわけですが、開始早々に主人公の妻は事故で昏睡状態となり、しかもその妻が不倫をしていた事実が発覚するなど、思っていたよりも内容が重かったため、すぐに他の映画に変えてしまいました。今回このレポートを書くにあたって原作小説を読み、重さの中にもとても現実的で、ハッとさせられることがたくさん描かれていたことを知りました。

主人公はハワイアンの血を引き、カウアイ島の広大な土地を先祖代々受け継いできています。信託が設定されたこの土地を、期限が切れる前に誰に売るかを主人公とその従兄弟たちが相談しているというのが物語の大きな流れです。ハワイあるある、とまではいきませんが、莫大なお金を得るためにご先祖さまが大切にしてきた物を売るというのはよくある話です。どこの世界でも土地持ちは強いと言われますが、お金欲しさにご先祖さまとのつながりをおいそれと売ってしまうというのはとても悲しいことです。しかし、観光業で成り立ち物価が年々上がっていくハワイでは、そうでもしないと生きていけないのも事実です。

もうすぐ、コロナウィルスの蔓延による外出禁止令がハワイで出されてから1年が経ちます。ハワイの失業者率は減ってきていると言われているものの、電気代の支払い猶予期間が延長されたり、失業者への手当が拡大されたり、様々な施策がとられています。きっとこのような非常事態の中で、歴史ある土地や物がお金にかえられているのだろうなと思います。いつも自分のそばに家族がいることや、受け継がれてきたものが決して当たり前の存在ではないことを再確認させられました。


  The Descendants (2007)
 著者:カウイ・ハート・ヘミングス
 邦訳:「ファミリー・ツリー」 (2012年)
     堤朝子訳
 






作品について
主人公のマシュー・キングは、オアフ島に住むハワイアンの血を引く弁護士で、1840年代から代々受け継がれてきたカウアイ島の広大な土地を所有しています。信託期限が切れる前に、この土地を誰に販売するかを従兄弟たちと協議しています。そのような中で、妻のジョーニーがボート事故で昏睡状態に陥ってしまいます。これまであまり家庭をかえりみずに仕事ばかりしていたマシューは、10歳と18歳の娘たちと向き合わなくてはならないことに。しかも、ジョーニーが不倫をしていたことを18歳の娘から聞かされます。当たり前だと思っていた家族の存在について深く考えさせられることになったマシューは、土地をどうするか含め、大きな決断を迫られます。

著者について
本書”The Descendants”は、カウイ・ハート・ヘミングス初の長編小説です。ハワイで生まれ育った彼女は、プナホウスクール(オバマ前大統領が卒業したことで有名な私学)在学中から書き物の才能を発揮していました。コロラドカレッジ卒業後、人文科学・舞台芸術・執筆の分野で有名なニューヨークのサラ・ローレンス・カレッジで修士号を取得しました。現在はオアフ島カイルア在住。




【プロフィール】
マリ・ピンダー
バベル翻訳専門職大学院在学中。ホノルル在住9年目で1児の母。ハワイで制作されているバイリンガル雑誌trimの翻訳をしています。日本にいた頃は、幼児向け英語教材の編集をしていました。

 
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