第31回 カナダ書籍レポート ー クリーバー海老原 章子
2020/12/22
世界の出版事情 ― 各国のバベル出版リサーチャーより
第31回
クリスマスまで残すところわずかとなりました。今年は新型コロナの影響で、例年とは違う12月を迎えていらっしゃる方がほとんどなのではないでしょうか。カナダもここにきて感染者数が激増しています。学校はオープンしていて、ショッピングモールやレストランは開いているものの、ほとんどのクラブ活動やアクティビティーは中止になっています。
そこで「クリスマスシーズンを子供たちが安全に少しでも楽しめることは、何かないだろうか」、そんな取り組みが図書館で行われています。北米ではクリスマスシーズンの前になると、アドベントカレンダー(Advent Calendar)が、スーパー、ブックストアやおもちゃやさんなどに登場します。これは1から24までの数字がついた小窓のあるカレンダーで、12月1日からクリスマスイブの24日まで、毎日ひとつずつ小窓を開けていくというものです。小窓の中にはチョコレートが入っているものが多いようですが、Legoやキャラクター商品など、ユニークなものが入っているものもあります。クリスマスイブまでの毎日、ワクワクしながら開けて楽しむのが伝統になっています。
カナダでは、このアドベントカレンダーにヒントを得た図書館の取り組みが話題になっています。この取り組みというのは、図書館スタッフが絵本をきれいにラッピングし、希望者に24冊ずつ貸し出します。そして子供たちは毎日1冊ずつラッピングを開けて、どんな本が入っているか楽しむのです。書籍は3つの対象年齢別にセレクトしています。この図書館では、11月に希望者を募ったところ、予想以上の応募があり、2100冊が貸し出しされたそうです。他にもいろいろな地域で同じような活動が広まっています。クリスマススピリットを感じる素敵なアイデアですよね。
今回は、このアドベントカレンダーのセレクションに入っていそうな絵本と、コロナパンデミックの自粛期間を利用してヒット作を生み出した、カナダ人作家の話題の一冊をご紹介します。

SLIMY SLICK:
The Nighttime Adventures of a Banana Slug (2020年)
著者:J.D. モンク
イラスト: ブルース・ジャンニーニ
邦訳なし:『スライミー・スリック』(仮)
作品について
大きなナメクジことバナナスラッグのスライミー・スリックの夜の大冒険。1日に自分の体重の15倍を食べると言われるバナナスラッグは、たいていお腹を空かしています。スリックは、大好物のユリの芽を探して夜の冒険に出発します。たった1メートル先にあるユリの芽、人間だったら数秒で着く距離をスリックは、ゆっくり、そして賢く移動していきます。その途中にはもちろん危険が待ち受けています。人間と犬に遭遇したスリック、さてどうする?
バナナスラッグについての豆知識が随所含まれ、子どもだけでなく大人も楽しめる一冊。例えば、飼い犬がバナナスラッグをなめてしまったら、要注意だそうです。また、いかにバナナスラッグが生態系に重要な役割を担っているかなど、さまざまな知識をお子さんと一緒に共有するにもぴったりの一冊です。
著者について
以前はカイロプラクターであったカナダ人作家のJ.D.モンク氏。退職後、このコロナ禍でいろいろなアクティビティーが制限される中、自宅で過ごす時間を利用して何かできないかと考えたモンク氏は、絵本作成を思いつきます。ハイキングで初めてバナナスラッグに遭遇したときには、「最も醜い生き物」だと思ったそう。何度か遭遇するうちに「スライミー」とあだ名を付けて呼ぶようになったとか。現在は自然溢れるバンクーバー島ビクトリア在住。初めての作品『SLIMY SLICK: The Nighttime Adventures of a Banana Slug』は、アマゾンで売上ランキング1位になるなどのヒット作品となっています。

SOUNDS LIKE CHRISTMAS(2019)
著者:ロバート・マンチ
イラスト:マイケル・マーチェンコ
邦題なし:『サウンズ・ライク・クリスマス』(仮)
作品について
おばあちゃんがクリスマスクッキーを焼く間に、クリスマスツリーの飾りつけを頼まれたのはリンカーンとジョージア。ライトやキラキラのボールの他にもびっくりするような飾りつけが…。
この絵本のおばあちゃんは、著者ロバート・マンチ氏のアシスタントを長年務めるシャロン氏、リンカーンとジョージアは彼女の孫がモデルになっています。マンチ氏ならではのユニークかつ心温まるストーリーライン。
作家について
ロバート・マンチ氏はカナダで最もよく知られる絵本作家のひとり。代表作には『Smelly Socks』、『So Much Snow! 』『ラブ・ユー・フォーエバー』などがあります。カナダ勲章授与。またカナダ・ウォーク・オブ・フェイムにも名を連ね、現在はカナダ、オンタリオ州グエルフ在住。

The Monster at the End of This Book (1982)
著者:ジョン・ストーン
イラスト: マイケル・スモーリン
邦題なし:『この絵本の最後のページに
こわいコワ~いモンスターがいる』(仮)
作品について
この絵本の最後のページには、こわいコワ~いモンスターがいる!? だから「ページをめくったらダメなんだよ」と言うグローバーは、ページをめくらないようにいろいろ工夫を凝らします。ロープでページを縛り付けてみたり、赤レンガで囲いをつくってみたり。それでも好奇心いっぱいの読者は最後のページまでやってきます。最後のページには、怖いモンスターが本当に待ち伏せているのでしょうか。ワクワクドキドキする展開は、お子さまへの読み聞かせにぴったりです。
著者について
米国の子供向けの人気教育テレビ番組『セサミストリート』のオリジナルクルーメンバーであり、24年以上に渡り監督・プロデューサーとして活躍したジョン・ストーン氏は、クッキーモンスターやビッグバードなどのキャラクターの開発に貢献しました。書籍としてはこの他に『Another Monster at the End of This Book』も出版しています。
【プロフィール】
クリーバー海老原 章子
バベル翻訳大学院法律翻訳修了。結婚後は夫の仕事の関係でマレーシア、トロント、
アラブ首長国連邦に居住。現在は、カナダBC州のナナイモに一家5人暮らし。これまでに担当した書籍翻訳は4冊。『アラブの奥さんは今日も命がけ: 恋愛、結婚、育児、そして……』が出版されました。
【記事で紹介されている作品】
第31回
カナダ書籍レポート
クリスマスシーズンにみる
コロナ禍の新たな取り組み
クリスマスシーズンにみる
コロナ禍の新たな取り組み
クリスマスまで残すところわずかとなりました。今年は新型コロナの影響で、例年とは違う12月を迎えていらっしゃる方がほとんどなのではないでしょうか。カナダもここにきて感染者数が激増しています。学校はオープンしていて、ショッピングモールやレストランは開いているものの、ほとんどのクラブ活動やアクティビティーは中止になっています。
そこで「クリスマスシーズンを子供たちが安全に少しでも楽しめることは、何かないだろうか」、そんな取り組みが図書館で行われています。北米ではクリスマスシーズンの前になると、アドベントカレンダー(Advent Calendar)が、スーパー、ブックストアやおもちゃやさんなどに登場します。これは1から24までの数字がついた小窓のあるカレンダーで、12月1日からクリスマスイブの24日まで、毎日ひとつずつ小窓を開けていくというものです。小窓の中にはチョコレートが入っているものが多いようですが、Legoやキャラクター商品など、ユニークなものが入っているものもあります。クリスマスイブまでの毎日、ワクワクしながら開けて楽しむのが伝統になっています。
カナダでは、このアドベントカレンダーにヒントを得た図書館の取り組みが話題になっています。この取り組みというのは、図書館スタッフが絵本をきれいにラッピングし、希望者に24冊ずつ貸し出します。そして子供たちは毎日1冊ずつラッピングを開けて、どんな本が入っているか楽しむのです。書籍は3つの対象年齢別にセレクトしています。この図書館では、11月に希望者を募ったところ、予想以上の応募があり、2100冊が貸し出しされたそうです。他にもいろいろな地域で同じような活動が広まっています。クリスマススピリットを感じる素敵なアイデアですよね。
今回は、このアドベントカレンダーのセレクションに入っていそうな絵本と、コロナパンデミックの自粛期間を利用してヒット作を生み出した、カナダ人作家の話題の一冊をご紹介します。
The Nighttime Adventures of a Banana Slug (2020年)
著者:J.D. モンク
イラスト: ブルース・ジャンニーニ
邦訳なし:『スライミー・スリック』(仮)
作品について
大きなナメクジことバナナスラッグのスライミー・スリックの夜の大冒険。1日に自分の体重の15倍を食べると言われるバナナスラッグは、たいていお腹を空かしています。スリックは、大好物のユリの芽を探して夜の冒険に出発します。たった1メートル先にあるユリの芽、人間だったら数秒で着く距離をスリックは、ゆっくり、そして賢く移動していきます。その途中にはもちろん危険が待ち受けています。人間と犬に遭遇したスリック、さてどうする?
バナナスラッグについての豆知識が随所含まれ、子どもだけでなく大人も楽しめる一冊。例えば、飼い犬がバナナスラッグをなめてしまったら、要注意だそうです。また、いかにバナナスラッグが生態系に重要な役割を担っているかなど、さまざまな知識をお子さんと一緒に共有するにもぴったりの一冊です。
著者について
以前はカイロプラクターであったカナダ人作家のJ.D.モンク氏。退職後、このコロナ禍でいろいろなアクティビティーが制限される中、自宅で過ごす時間を利用して何かできないかと考えたモンク氏は、絵本作成を思いつきます。ハイキングで初めてバナナスラッグに遭遇したときには、「最も醜い生き物」だと思ったそう。何度か遭遇するうちに「スライミー」とあだ名を付けて呼ぶようになったとか。現在は自然溢れるバンクーバー島ビクトリア在住。初めての作品『SLIMY SLICK: The Nighttime Adventures of a Banana Slug』は、アマゾンで売上ランキング1位になるなどのヒット作品となっています。
著者:ロバート・マンチ
イラスト:マイケル・マーチェンコ
邦題なし:『サウンズ・ライク・クリスマス』(仮)
作品について
おばあちゃんがクリスマスクッキーを焼く間に、クリスマスツリーの飾りつけを頼まれたのはリンカーンとジョージア。ライトやキラキラのボールの他にもびっくりするような飾りつけが…。
この絵本のおばあちゃんは、著者ロバート・マンチ氏のアシスタントを長年務めるシャロン氏、リンカーンとジョージアは彼女の孫がモデルになっています。マンチ氏ならではのユニークかつ心温まるストーリーライン。
作家について
ロバート・マンチ氏はカナダで最もよく知られる絵本作家のひとり。代表作には『Smelly Socks』、『So Much Snow! 』『ラブ・ユー・フォーエバー』などがあります。カナダ勲章授与。またカナダ・ウォーク・オブ・フェイムにも名を連ね、現在はカナダ、オンタリオ州グエルフ在住。
著者:ジョン・ストーン
イラスト: マイケル・スモーリン
邦題なし:『この絵本の最後のページに
こわいコワ~いモンスターがいる』(仮)
作品について
この絵本の最後のページには、こわいコワ~いモンスターがいる!? だから「ページをめくったらダメなんだよ」と言うグローバーは、ページをめくらないようにいろいろ工夫を凝らします。ロープでページを縛り付けてみたり、赤レンガで囲いをつくってみたり。それでも好奇心いっぱいの読者は最後のページまでやってきます。最後のページには、怖いモンスターが本当に待ち伏せているのでしょうか。ワクワクドキドキする展開は、お子さまへの読み聞かせにぴったりです。
著者について
米国の子供向けの人気教育テレビ番組『セサミストリート』のオリジナルクルーメンバーであり、24年以上に渡り監督・プロデューサーとして活躍したジョン・ストーン氏は、クッキーモンスターやビッグバードなどのキャラクターの開発に貢献しました。書籍としてはこの他に『Another Monster at the End of This Book』も出版しています。
【プロフィール】
クリーバー海老原 章子
バベル翻訳大学院法律翻訳修了。結婚後は夫の仕事の関係でマレーシア、トロント、
アラブ首長国連邦に居住。現在は、カナダBC州のナナイモに一家5人暮らし。これまでに担当した書籍翻訳は4冊。『アラブの奥さんは今日も命がけ: 恋愛、結婚、育児、そして……』が出版されました。
【記事で紹介されている作品】
記事一覧
- 第31回 カナダ書籍レポート ー クリーバー海老原 章子 [2020/12/22]
- 第30回 アメリカ書籍レポート - 柴田きえ美 [2020/12/07]
- 第30回 ハワイ書籍レポート ー マリ・ピンダー [2020/12/07]
- 第29回 ハワイ書籍レポート ー マリ・ピンダー [2020/11/07]
- 第28回 カナダ書籍レポート ー クリーバー海老原 章子 [2020/10/22]
- 第27回 アメリカ書籍レポート - 柴田きえ美 [2020/10/07]
- 第26回 カナダ書籍レポート ー クリーバー海老原 章子 [2020/08/22]
- 第25回 ハワイ書籍レポート ー マリ・ピンダー [2020/08/07]
- 第25回 アメリカ書籍レポート - 柴田きえ美 [2020/08/07]
- 第24回 カナダ書籍レポート ー クリーバー海老原 章子 [2020/06/22]
- 第23回 ハワイ書籍レポート ー マリ・ピンダー [2020/06/08]
- 第23回 アメリカ発、カリフォルニア関連書籍レポート - 柴田きえ美 [2020/06/08]
- 第22回 カナダ書籍レポート ー クリーバー海老原 章子 [2020/04/22]
- 第21回 ハワイ絵本レポート[7] ー マリ・ピンダー [2020/04/07]
- 第21回 アメリカ発、実話事件ノンフィクション作品レポート - 柴田きえ美 [2020/04/07]
- 第20回 ハワイ絵本レポート[6] ー マリ・ピンダー [2020/03/23]
- 第19回 カナダ絵本レポート[3]ー クリーバー海老原 章子 [2020/02/22]
- 第18回 ハワイ絵本レポート[5] ー マリ・ピンダー [2020/02/07]
- 第18回 アメリカ発、男性作家によるロマンス小説レポート - 柴田きえ美 [2020/02/07]
- 第17回 自費出版に関するレポート(カナダ編) - クリーバー海老原章子 [2019/12/23]