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第30回 ハワイ書籍レポート ー マリ・ピンダー

2020/12/07

世界の出版事情 ― 各国のバベル出版リサーチャーより
第30回
 

 
ハワイ書籍レポート
失ったものよりも、持っているものに目を向けること

マリ・ピンダー
(バベル翻訳専門職大学院在学中)


 

2020年も終わりが近づいてきました。コロナウイルスの蔓延により、誰にとっても厳しい年となったのではないでしょうか。ハワイは新規感染者数と陽性率に改善が見られず、ホノルルの経済再開プランは次の段階へ移行できずにいます。私は今年日本へ一時帰国することができず、成長著しい娘の姿を両親と祖母に直接見せられなかったことが残念でした。つい、あれもできなかった、これもできなかったとネガティブ思考に陥りがちです。

そのような中で、ベサニー・ハミルトンの本を手に取りました。シャーク・アタックから生還し、片腕を失いながらもプロサーファーとして活躍している彼女のストーリーは映画化され、日本でも2013年に公開されDVDにもなっています。サーフィンをしない人でも、その名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。私は彼女の存在を知っていましたが、実際に何があったのかは詳しく知りませんでした。シャーク・アタックが起こったのはカウアイ島ですが、サーフィンをする身として、「サーフィン中にサメに襲われた」という事実を身近に感じるのが怖かったので、事故の詳細を知ることを避けていました。しかし、不思議と今がこの本を読むタイミングだという気がしたので、今回読んでみることにしました。

2003年10月31日の朝、13歳だったベサニーは、サーフィン中に体長4メートルを超えるタイガーシャーク(イタチザメ)に襲われました。全身の60%の血液と左腕を失いながらも生還した彼女は、生きる奇跡と呼ばれました。シャーク・アタックの様子は克明に書かれ、読んでいるだけでも身の毛がよだちます。しかしたった13歳の少女は、襲われてからも取り乱すことなく平静さを保っていました。「一瞬の出来事だったから」「サメが近づいてきたのを見たわけではなかったから」と本人は書いていますが、一体どれだけの人がそんな状況に置かれて冷静でいられるでしょうか。

衝撃的なのはそれだけではありません。事故の1ヵ月後にはサーフィンを再開し、コンテストに出場するために鍛錬を重ねていったのです。失ったものに目を向けて悲嘆にくれるのではなく、今持っているものは何か、自分は何がしたいのかを考えて実行していくその力強い姿勢は、このコロナ禍でこそ必要なものだととても勇気づけられました。

    Soul Surfer (2004)
 著者:ベサニー・ハミルトン
 邦訳:「ソウル・サーファー」 (2005年) 鹿田昌美訳
 



作品について
ベサニー自身によって、生い立ちからシャーク・アタック、そしてその後どのように回復していったかが書かれています。出版されたのは事故から1年後の2004年10月28日でした。片腕を失ったのにも関わらず、プロサーファーになる夢を諦めず、ひたすら前を向いて生きていく姿勢は多くの人に影響を与えることでしょう。表紙には、サメに喰いちぎられたサーフボードと共に写るベサニーの写真が使われています。作品内には、ベサニーの家族や友人との写真、ベサニーを襲ったサメが捕獲された時の写真なども掲載されています。深い信仰と家族や友人の愛に支えられ、困難を乗り越えていく姿に勇気をもらえる作品です。

著者について
ハワイ州カウアイ島で生まれ育ったベサニー・ハミルトン。負けず嫌いな性格は、2人の兄がいるからだと本人は書いています。幼い頃からサーフコンテストで入賞し、有名サーフブランドのリップカールがスポンサーにつくなど将来を有望視されていました。13歳で片腕を失った後も、プロサーファーとしての道を歩み続け、数々の大会で好成績を残しています。2013年に結婚し、2人の男の子の母親でもあります。今年の10月に、第3子を妊娠中であると公表しました。2019年には、「ソウルサーファー」続編とも言えるドキュメンタリー映画、”Unstoppable”(日本未公開)がアメリカで公開されました。

 

【プロフィール】
マリ・ピンダー
バベル翻訳専門職大学院在学中。ホノルル在住9年目で1児の母。ハワイで制作されているバイリンガル雑誌trimの翻訳をしています。日本にいた頃は、幼児向け英語教材の編集をしていました。



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