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第23回 アメリカ発、カリフォルニア関連書籍レポート - 柴田きえ美

2020/06/08

世界の出版事情 ― 各国のバベル出版リサーチャーより
第23回 

 
アメリカ発、カリフォルニア関連書籍レポート

柴田きえ美
(バベル翻訳専門職大学院生)


 
 カリフォルニアに移り住み、かれこれ十五年ほど経ちました。私の住む地域では、家庭菜園をする人がとても多く、もはや生活の一部となっています。大半のご家庭では、庭に果物の木が植えてあったり、小さな囲いの中やプランターで野菜を栽培しています。特にオレンジやレモンなど、育てやすい木が人気の様です。ニューヨーク出身の知人も「なんでカリフォルニア人は柑橘類を庭で育てているの! しかも、美味しい!」と言い、果物や野菜の安さに驚いていたので、きっとカリフォルニア住民の特権なのかもしれません。

 さて、カリフォルニアと言えば、上に書いたように、地中海性気候を生かした農業が盛んです。一年の大半が暖かいので、栽培および収穫期間が他の地域に比べて長く、アメリカ国内食糧生産高の約3分の1を占めているそうです。他にも海に面していることから漁業も営まれ、サンフランシスコやロサンゼルス南部では美味しいシーフードが楽しめます。カリフォルニア発祥のサワードーパンに入ったクラムチャウダーは、観光に来たら一度は食べるべき名物料理です。

 また、数十年前からハイテク産業が突出し、サンフランシスコ以南の海沿いには、シリコンバレーと呼ばれる地域もあります。アップル、Google、Yahoo!、HPといった世界に名だたるIT企業が多数集結しています。さらに南では、全米でも五本の指に入る大都市ロサンゼルス、映画産業の代名詞にもなるハリウッドがあり、カリフォルニアはアメリカ経済に多大な貢献をしていると言えるでしょう。

 かつてはゴールドラッシュで賑わい、太平洋の玄関口とも言えるカリフォルニア。その今と昔がわかる、興味深い書籍をご紹介します。


    The Dreamt Land(2019)
     著:マーク・アラックス
     邦訳なし:『かつて夢見た場所(仮)』








作品について:
カリフォルニアでは先住民族の時代から、干ばつと浸水を交互に繰り返してきた。現在に至るまで、人々の生活は水に翻弄されてきた。カリフォルニアの主産業である農業は、アメリカ全土の農業生産を大きく支えている。中でもセントラル・バレーは、非常に高い生産性をもつ広大な農業地帯がある。そんなセントラル・バレーの農家で生まれ育った著者が、カリフォルニア各地を巡り、ナッツ富豪とも呼ばれるスチュワート・レズニック(Stewart Resnick)や個人経営の小さな農場主たち、自然保護主義者、都市部の住民などにインタビューを行った。そして、40年代、50年代、60年代から使用されている希少な給水システムを調査した結果、見えてきた陰り。ジャーナリストとしての冷静な文章と同時に、カリフォルニア人としての未来を見据えて問題提起する。かつて金の採掘で栄え、「ゴールデン・ステート」と呼ばれたカリフォルニアで、人々は今も、水と土壌を巡って迷走する。


著者:
マーク・アラックスは、カリフォルニア出身のアルメニア系アメリカ人ジャーナリスト。カリフォルニアおよび西海岸に関する文芸ノンフィクションを得意とする作家として、これまでに複数の文学賞を受賞している。ベストセラーとなった『The King of California』(2005)では、世界でも屈指の広さを誇る農場を経営するJ. G. Boswell 社を創立し、巨万の富を築き上げたジェームズ・グリフィン・ボズウェルについて綿密に描いた。同書はカリフォルニア・ブック賞やウィリアム・サロヤン賞を受賞し、LAタイムズやサンフランシスコ・クロニクルで2004年の選出本に挙げられている。



   Remembering Manzanar(2002)
      著:マイケル・L・クーパー
      邦訳なし:
    『マンザナーの追憶 -日本人強制収容所での生活』








作品について:

太平洋戦争中の1942年、ルーズベルト大統領の発令により、日系アメリカ人は各地の強制収容所に収容された。アメリカ人としてアメリカで生まれた人々が、家も仕事も財産も一切合切を処分して厳しい監視の下での生活を強いられることとなった。本書では、カリフォルニア州にあるマンザナー強制収容所での当時の人々の様子を、日記や手紙、インタビューをもとに刻銘に描いている。祖国であるアメリカに裏切られ、何もかもを失った人々が、いかに逞しく、忍耐強く、自分たちの日常を取り戻そうとしたのか。限られた資材で、教育を再開し、野球をしたり週末のダンスクラブを始めたり、独自の新聞を発行するまでに至った様子が、当時の写真と共に分かりやすく解説されている。小学校高学年向けの歴史書。

著者:
マイケル・L・クーパーは、アメリカの歴史家・作家。これまでにも児童向けのアメリカ歴史書籍を出版している。世界大恐慌で何が起きたのか、人々がどのように生活したのかを分かりやすく綴った『Dust to Eat』(2004)は、ゴールデン・カイト最優秀ノンフィクション児童作品賞を受賞している。『Remembering Manzanar』は、人種に関する最優秀児童書2003としてカーター・ウッドソン賞を受賞した。



  The Girls (2016)
   著:エマ・クライン
   邦訳:『ザ・ガールズ』
   訳:堀江里美
   出版社:早川書房(2017年)


 





作品について:
カリフォルニアで60年代に実際に起きた、カルト集団による殺人事件をモチーフにしたフィクション。同事件で全米を震撼させたチャールズ・マンソンは、殺人教唆で死刑判決を受けたのち、2017年に獄中死した。本書では、14歳の少女、イーヴィー・ボイドが、カルト集団のメンバーとなったいきさつと当時の心境を、大人になったイーヴィー自身の目線で振り返っている。著者自身もまだ若いゆえに、多感な少女の心の動きが繊細かつ鮮やかに描き出されている。シャーリイ・ジャクスン賞を受賞し、映画化も決定している。


著者:
エマ・クラインは、16歳で高校を卒業後、コロンビア大学に入学し、学生生活を送りながら短編小説を書き上げた。これが雑誌パリス・レビューに掲載され、後にプリンプトン賞を受賞する。『ザ・ガールズ』は、89年生まれの著者が、自身が生まれる20年前に起きた事件を題材にした、クラインのデビュー作である。全米では40万部を売り上げ、日本を含む35ヵ国で出版された。カリフォルニア在住。 

柴田きえ美
カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生としてリーガル翻訳を勉強中。これまでに4冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得し、フリーランスで翻訳をしながら課題にも取り組む。

 
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