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第21回 アメリカ発、実話事件ノンフィクション作品レポート - 柴田きえ美

2020/04/07

世界の出版事情 ― 各国のバベル出版リサーチャーより
第21回 

 
アメリカ発、実話事件ノンフィクション作品レポート

柴田きえ美
(バベル翻訳専門職大学院生)

 
日に日に暖かく、春らしい陽気になってきました。

しかしながら、COVID-19によるパンデミックが起こり、世界各地で様々な困難に直面されていることと思います。私の住むカリフォルニアでも不要不急の外出禁止要請がでており、病院や銀行などの必要不可欠な事業を除き、多くの商店やレジャー施設が閉鎖しています。スーパーマーケットはどこも棚が空っぽの状態が続いています。学校は当分の間休校ですが、幸いなことに、オンライン学習システムを通じて、先生からの課題を受け取ることができています。

もちろん、書店や図書館も閉鎖しました。我が家では、閉鎖前日に本を沢山借りることができたので、自宅待機の子供たちと毎日読むように努めています。それに加えて、現在とても重宝しているのが、図書館のウェブサイト上で借りられて、いつでもどこでも気軽に「読書」を楽しめる電子書籍とオーディオブックです。そんな図書館のウェブサイト上で特集していたノンフィクションの中で、気になるものがいくつかありましたので、ご紹介いたします。


        Murder, Interrupted (2018)
     (“Murder is Forever”シリーズ1巻)

       著:ジェイムズ・パタースン
       邦訳なし:『邪魔された殺し(仮)』







作品について:
事実は小説より奇なり。アメリカのテレビ番組『殺人は永遠に(仮訳、原題:Murder is Forever)』と連動して出版されたシリーズの1冊目。他に『Home Sweet Murder』と『Murder Beyond the Grave』の 計3タイトルが刊行されています。パタースンは、同番組の制作に協力しています。米国内で実際に起きた殺人事件を取材し、ノンフィクションの犯罪スリラー小説調に仕上げました。本書に収められた一つ目の事件は、不倫中のフランク・ハワードという金持ち男が主人公。妻殺害を企み、75万ドルで殺し屋ビリー・アールを雇いました。ところがこの計画は失敗に終わり、二人は文字通り命を懸けてにらみ合うこととなります。二つ目は、シングルマザー、ディーディー・ブランチャードの殺害事件を取り上げています。娘のジプシーは、複数の慢性疾患を患い、重度の知的障害を持つとされていました。ところが実際には全くの健康体。長期にわたる虐待を受けたジプシーは、母親からの逃走と復讐を企てます。

著者:
ジェイムズ・パタースンは、世界的に人気のアメリカ人作家。ミステリのみならず、ロマンスやノンフィクション、児童書まで幅広い作品を書き上げいます。これまでに翻訳された物も含め、3.5億部以上売り上げており、最も多くニューヨークタイムズ・ベストセラー1位を獲得したとして、ギネスブックにも載りました。100万冊以上の本を多くの教育機関に寄付したり、教師を目指す学生への奨学金を設立するなど、積極的に教育奨励活動を行っています。邦訳書は、元大統領ビル・クリントン氏との共著『大統領失踪』(訳:越前 敏弥、久野 郁子)、『多重人格殺人者』などで知られる刑事アレックス・クロス・シリーズ、子供向けには『ザ・ワースト中学生 -人生で最悪の日々』など。


  The Innocent Man: Murder and Injustice in a Small Town(2006)
  著:ジョン・グリシャム
  邦訳:『無実
    監訳:白石 朗
    出版社:ゴマブックス(ゴマ文庫)(2008年)





作品について:
アメリカのベストセラー作家ジョン・グリシャムによる初のノンフィクション作品。推定無罪を信じる人々には空恐ろしい、リーガル・サスペンスです。オクラホマで実際に起きた冤罪事件を綿密に取材し、克明に描いています。Netflixオリジナルのドキュメンタリーも制作されました。1982年、元野球選手のロン・ウィリアムソンの自宅近くで、若いウェイトレスが殺害されました。一向に犯人特定に至らない中で、ロンと友人のデニス・フリッツは、嘘の証言、粗悪な証拠品によって、犯人として祭り上げられてしまうのです。裁判ではロンは死刑、デニスは終身刑を言い渡されます。いわれのない罪をきせられ、次第にロンの精神は病んでいきます。一方のデニスは、獄中で毎日4時間、法律の勉強をして自らの悲劇に抗おうとしていました。判決から12年後、DNA鑑定が行われ、最終的に二人とも無罪となります。しかし、精神が壊れてしまったロンは、出所後も通常の生活に戻れることはなく、若くして亡くなりました。

著者:
ジョン・グリシャムは、全米1位のベストセラー作家。ミシシッピ大学ロースクールを卒業後、個人弁護士事務所を設立。その後、ミシシッピ州の下院議員も経験。1989年に出版した処女作『評決のとき』(訳:白石 朗、原題:“A Time to Kill”)は、3年かけて書き上げました。1991年『法律事務所』(訳:白石 朗、原題:“The Firm”)を出版し、150万部を売り上げ、映画化もされました。弁護士としての経験を活かしたリーガル・スリラー小説を得意とし、少なくとも毎年1作を出版しています。



   My Story (2013)
   著:エリザベス・スマート、クリス・スチュアート
   邦訳なし:『マイ・ストーリー(仮)』




作品について:
2002年6月にユタ州ソルトレイクシティの自宅から誘拐されたエリザベス・アン・スマート自身による執筆。深夜に、妹と眠る寝室から連れ出されたエリザベス。その後、およそ9ヵ月もの間、逃げたら家族を殺害すると脅され、常に恐怖を感じながらも希望を捨てずに再び家族と一緒に過ごせる日を信じていました。変装させられ、カリフォルニア州サンディエゴまで連れ去られたものの、上手く誘導しユタまで戻った直後に救助されました。2017年に映画“I Am Elizabeth Smart”も制作されました。

著者:
エリザベス・アン・スマートは1987年生まれ。14歳のときに誘拐事件に巻き込まれました。両親(エド・スマート、ロイス・スマート)が執筆した『Bringing Elizabeth Home: A Journey of Faith and Hope』および叔父のトム・スマートによる『In Plain Sight』でも事件について語られています。現在の彼女は、著書の執筆や講演を行うとともに、エリザベス・スマート・ファンデーションを設立し、誘拐や性犯罪などの被害者支援活動を行っています。
共著者クリス・スチュワートは、アメリカ空軍に所属した元軍人で、アメリカ合衆国下院議員。著書には、『核爆撃機リーパーズ・シャドウ』 (訳:広瀬順弘、原題:“Shattered Bone”)、『殲滅作戦キル・ボックス』(訳:広瀬順弘、原題:“The Kill Box”)などがあります。 
 
柴田きえ美
カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生としてリーガル翻訳を勉強中。これまでに4冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得し、フリーランスで翻訳をしながら課題にも取り組む。

 
【記事で紹介された主な作品】

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