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第16回 ハワイ絵本レポート[4] - マリ・ピンダー
2019/12/07
第16回
ハワイ絵本レポート[4]
-ハワイの生き物を題材にした絵本
マリ・ピンダー(バベル翻訳専門職大学院在学中)
前回、ハワイの植物を題材にした絵本を紹介しました。今回は生き物編です。どの生き物もハワイではとても身近な存在。あなたが見たことのある生き物はいるでしょうか。
The Goodnight Gecko (1991)
作:ジル・マクバーネット
邦訳なし
あらすじ
大きな山のふもとの砂浜の近くに、小さな赤い家がありました。両親と男の子、女の子、そしてヤモリ一家が住んでいました。ヤモリ一家にも、男の子と女の子がいます。一番小さな男の子は、夜が好きではありませんでした。ヤモリは日中寝て、夜に活動するのだとお母さんヤモリは諭しますが、男の子は聞きません。昼間にお花を摘んで、海で泳ぎたいと言う男の子を、お母さんが夜の世界へと連れ出します。
作品および作者について
ハワイではとてもお馴染みのヤモリ。家の中で見かけるのは日常茶飯事です。暗闇を怖がる子をお母さんが優しくたしなめる様子も、小さなお子さんがいる家庭ではよく見かける光景ではないでしょうか。ヤモリの男の子は、お母さんヤモリが連れ出してくれた先々で、お月さまやお星さまにおやすみなさいと言ってまわります。テンポよく韻の踏まれた文章が、おやすみ前のお子さんの気持ちをあたたかくしてくれます。
ジンバブエで生まれ育ったジルは、1983年にハワイ出身の夫と共にマウイ島へ移り住み、絵本の創作を始めました。これまで14冊の絵本を出版していますが、中でも本作はベストセラーとなっています。
Iki, The Littlest ‘Opihi (1998)
作:タミー・イー
邦訳なし
あらすじ
波が強く打ち付ける岩場に、オピヒ(ハワイ固有の貝)がしっかりとしがみついています。その中でも一番小さなオピヒの名前を、イキと言いました。幼生として過ごしたあとに住処を見つけるはずが、イキは外の世界が見たいと潮の流れに乗って行ってしまいました。サメやタコとの遭遇を経て、イキは家に帰ることにしますが、カニに捕まってしまいました。
作品および作者について
小さなオピヒが外の世界に飛び出す冒険物語です。この物語の特長は、イキが家に帰ってきたところでお話が終わらないところ。さらなる危険がオピヒたちに迫り、最後までハラハラさせられます。
ハワイ育ちのタミー・イーは、幼少期からたくさんの本に囲まれて育ちました。大学卒業後は小児科の看護師になりましたが、自身の子どもを持ったことをきっかけに、1994年から創作活動を始めました。これまで36冊以上の絵本を出版し、たくさんの賞を受賞しています。
Limu The Blue Turtle (2003)
作:キモ・アーミテージ
絵:スコット・カネシロ作:マイレ・ゲッツェン
邦訳なし
あらすじ
リムは生まれた時から他のウミガメとは違い、体の色が青でした。周りの皆はリムを見て笑います。海で暮らしていく中で他のウミガメにも出会いましたが、皆同じようにリムをからかい、誰も友だちになってくれませんでした。ある日リムはオピヒのナニが泣いているところに出くわしました。リムは、ナニを離れ離れになってしまった姉のところへ送り届けることにします。
作品および作者について
変わった見た目をしていることで他のウミガメから仲間外れにされたリムが、他の生き物たちとの出会いを通じて自己肯定感を高めていくお話です。大事なのは見た目ではなくて中であるということを、リムが教えてくれます。付属のCDには読み聞かせが収録されています。
詩人であるキモ・アーミテージはオアフ島ハレイワ出身。ハワイ大学マノア校でハワイアンスタディーズを教えています。本作の他にも10冊以上の絵本を制作していますが、ハワイ語で書かれたものや、古代ハワイの神について書かれたものがあります。
Let’s Call Him Lau-wiliwili-humhumu-nukunuku-nukunuku-āpuaʻa-ʻoi-ʻoi (2005)
作:ティム・マイヤーズ
絵:ダリル・アラカキ
邦訳なし
あらすじ
タスキモンガラのフムフムヌクヌクアプアアと、チョウチョウウオのラウウィリウィリヌクヌクオイオイが恋に落ちて結婚しました。それぞれ自分の名前を誇りに思う2匹の間に子どもが生まれました。お互い、自分の名前をつけようと譲らない2匹はケンカになり、ツノダシにアドバイスを求めることにします。
作品および作者について
アメリカでの名付けは日本と異なり、ミドルネームを持つ人がとても多いです。先祖代々受け継がれている名前をつけるなど、家庭ごとに様々な決まりがある印象です。ハワイアンの血を受け継ぐ友人の孫は、本書のタイトルのような長い名前を付けてもらったそうで、「まるでハワイアンチャントのようだ」と友人が笑いながら教えてくれました。ところで、フムフムヌクヌクアプアアはハワイ州の魚に指定されています。とても長い名前ですが、浅瀬でも見ることができて身近な存在です。幼稚園くらいの子どもたちでも、長い名前を言う事ができます。付属のCDには読み聞かせが収録されています。
オレゴン生まれコロラド育ちのティム・マイヤーズは11人兄弟の長男です。妻であるドクター・プリシラ・マイヤーズと共に、サンタクララ大学で教鞭をとっています。絵本だけでなく読み物やエッセイ、詩も出版するなど様々なジャンルで活躍しています。主夫として過ごした経験をまとめた”glad to be dad”や、絵本は多数の賞を受賞しています。
【プロフィール】
マリ・ピンダー
バベル翻訳専門職大学院在学中。ホノルル在住8年目で1児の母。ハワイで制作されているバイリンガル雑誌Trimの翻訳をしています。日本にいた頃は、幼児向け英語教材の編集をしていました。
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