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第15回 ハワイ絵本レポート[3] - マリ・ピンダー
2019/11/22
第15回
ハワイ絵本レポート[3]
-ハワイの植物を題材にした絵本
マリ・ピンダー(バベル翻訳専門職大学院在学中)
観光客が最も集まるオアフ島ホノルルでさえ、あちらこちらに自然を感じることのできるハワイ。
そんなハワイの日常風景を垣間見ることもできる、植物を題材にした絵本の紹介です。
PUA POLŪ (2005)
作:ノナ・ビーマー
絵:カレン・ケアラ・ルーベル=フライド
ハワイ語翻訳:カリコ・ビーマー=トラップ
音楽:ケオラ・ビーマー
あらすじ
プア・ポルーは美しい青い朝顔でした。とてもご機嫌なプアは、太陽を浴びるのが大好き。朝顔たちは、太陽が傾き始めると花びらを閉じて眠りにつきます。ある日プアは、自分の身の回りで起こることを全部知りたくなり、「今日は寝ずに起きている」と母親に宣言します。その晩、プアは何を見て何を感じたのでしょうか。
作品および作者について
版画が印象的な絵本ですが、なんと言っても英語とハワイ語の2言語で書かれていることが最大の特徴です。ノナの養子カリコがハワイ語に翻訳しました。付属のCDには、ノナ本人による読み聞かせと歌が収録されています。歌はノナの祖母ヘレンが作曲したもので、この絵本を作るきっかけになったそうです。演奏はノナの息子ケオラが担当し、才能溢れたビーマー一家の魅力がぎゅっと詰まった一冊です。
ハワイでは「アンティー・ノナ」として知られるノナ・ビーマー。2008年に84歳で亡くなるまで多くの本を出版し、楽曲制作や映像制作も手がけました。フラが商業化していくことに危機感を持ち、古代フラの復活に影響を与えた人物でもあります。およそ40年に渡りカメハメハ・スクールで教鞭をとりましたが、自身が同スクールの生徒だった際には、当時禁止されていたスタンディング・フラを踊ったことで退学させられています。
Grandpa’s Magic Banyan Tree (2005)
作:ジェフ・ランカオン
あらすじ
学校まで孫を迎えに行ったおじいちゃん。時間があったので、公園に寄って遊んでいくことにしました。公園には、プラスチックと金属で作られ、カラフルに色付けされた真新しい遊具がありました。ひとしきり遊んだ後、孫はおじいちゃんにたずねます。「おじいちゃんは昔どこで遊んでいたの?」おじいちゃんは、大昔遊んでいたバニヤンツリーのことを話しました。「行ってみようよ!」という孫に乗せられて、2人はバニヤンツリーへ向かいます。
作品および作者について
共働きの多いハワイでは、祖父母が学校の送り迎えをする様子がよく見られます。何気ない孫との会話の中から、おじいちゃんが想像力豊かに遊んでいた子どもの頃を思い出します。時間の流れと共に、変わるもの、変わらないものの大切さについて考えさせられます。この作品は、2006年にハワイ出版社協会によるカ・パラパラ・ポオケラ・アワードの絵本部門にノミネートされました。
記憶にある限り、小さい頃から絵を描いていたジェフ・ランカオンはオアフ島アイエア在住。絵本の創作だけにとどまらず、コミック制作や会社ロゴのデザイン、イラストやレイアウトの提供など、ハワイでマルチに活躍しています。ハワイで開催されるコミック・コンの他にも、シアトルでのコミック・コンにも参加しています。
Gift From the FOREST (2008)
作:マイレ・ゲッツェン
あらすじ
少年ケオラは、カヌーを作るためのコアの木を探しにハレアカラ山にやってきました。皆からパパと呼ばれる祖父と、他の人たちも一緒です。タヒチからやってきたパパは、カヌー作りの名手です。コアはその美しさから伐採が進み、また外来種の動植物のせいで、生息地が破壊されてきました。なかなかカヌーに最適なコアが見つからない中、ケオラがフクロウに導かれるように発見したのは、海に向かって伸びるコアでした。
作品および作者について
カヌーはハワイを含めたポリネシアの人々にとって、とても大切なものです。移動手段としてだけではなく、漁にも使われ、かつては戦争にも使われ、そして現在ではスポーツとして欠かせないものになっています。ハワイの各島にはカヌークラブがいくつも存在し、8月には州大会が開催されます。この州大会で使われるカヌーは、コア製でなくてはならないと決まっています。この絵本を通じて、古代ハワイから続く3000年の歴史の重みを感じてみてください。
マウイ島ハナで生まれ育ったマイレ・ゲッツェンは、ワシントン州のイースタン・ワシントン大学、メキシコのグアダラハラ大学で学び、中国やコスタリカ、エクアドルにも交換留学するなど様々な国で暮らしてきました。シアトルで美術とスペイン語を教え、その後ボストンで教育学の修士号を取得してハワイに戻ってきました。現在はマウイ島のパブリックチャータースクールの高校で教えています。
TOO MANY MANGOS (2009)
作:タミー・パイカイ
絵:ドン・ロビンソン
あらすじ
カマとナニの兄妹は、おじいちゃんの家にあるマンゴーの木に登るのが大好きです。大きなマンゴーから小さなマンゴー、熟れているマンゴーにまだ緑色のマンゴー、たくさんのマンゴーがとれたので、近所の人たちにおすそ分けすることにしました。ワゴンに積み込んだたくさんのマンゴーを配り歩くカマとナニ。マンゴーはすっかりなくなりましたが、その代わりにワゴンには、バナナブレッドや手作りのジャム、バナナなどでいっぱいになりました。
作品および作者について
マンゴーをはじめ、パパイヤ、ココナツ、アボカド、ライチ、パッションフルーツ、バナナなど、一般家庭にフルーツの木が生えていることの多いハワイ。マンゴーシーズンは特に、ご近所付き合いが濃厚になります。ハワイの日常生活によくある光景を通して、分け合うこと、感謝の気持ちを表すことが自然に学べます。2010年ポオケラ・アワードの佳作に選出されています。
作者のタミー・パイカイはこの作品の他にも、”Aloha is…”や”Grandpa’s Mixed-up Luau”をかいています。イラストレーターのドン・ロビンソンは、ハワイをテーマにした絵本のイラストを多く担当しています。
【プロフィール】
マリ・ピンダー
バベル翻訳専門職大学院在学中。ホノルル在住8年目で1児の母。ハワイで制作されているバイリンガル雑誌Trimの翻訳をしています。日本にいた頃は、幼児向け英語教材の編集をしていました。
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