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第14回 フランクフルト・ブックフェア レポート - 竹島レッカー由佳子

2019/11/07

世界の出版事情 ― 各国のバベル出版リサーチャーより
第14回 

フランクフルト・ブックフェア(2019年10月16日~20日開催)
-今年も行ってきました!


       
                 
竹島レッカー由佳子(翻訳者、バベル翻訳専門職大学院修了)
 

 
 
 世界最大の本の祭典であるフランクフルト・ブックフェアのモットーは『
Ideas that move the world (世界を動かすアイディア)』。そうそう、本ってインスピレーションを与えてくれるもんね、と私は内心頷きながら、今年も勇んで会場のゲートをくぐりました。

 



◾️今年も世界各国から数多くのビッグゲストが参加◾️
 来賓国ノルウェーからは、ホーコン王太子とメッテ=マリット王太子妃がご来場。ノルウェーを代表する国際的なベストセラー作家、ジョー(ヨー)・ネスボは新作『
Knife(英題)』を紹介しました。

 オープニングセレモニーには
2018年度ノーベル文学賞を受賞したオルガ・トカルチュクの姿も。日本でもおなじみの『グラファロ』シリーズ(評論社)や『こえだのとうさん』(バベルプレス)のイラストを手がけたアクセル・シェフラーはサイン会で大勢のファンに囲まれていました。

 注目を浴びたのは人気作家やイラストレーターだけではありません。フライデー・フォー・フューチャーの先導者のひとりであるルイーザ・ノイバウアーは、独政治家のアルミン・ラシャットと環境問題への取り組みについて壇上で熱く討議しました。

 フランクフルト・ブックフェアの雰囲気を味わい方は、こちら(
https://www.youtube.com/watch?v=9aI1cJMtDtw)のリンクへどうぞ。ドイツ語と英語ですが、熱気は感じとっていただけるでしょう。

 実のところ、私は上記の豪華ゲストに会うことも、ホットなイベントを体験することもできませんでした。というのも、今年の来場者総数はなんと過去最高の
30万人に上り、その半分は私が足を運んだ週末に集中したため、私は必然的に身動きがとれる通路のみを歩くこととなったからです。


◾️今年のトレンド?◾️
 異常な混雑のため、メジャーなブースに足を踏み入れることも大手出版社いち推しの本を手に取ることもできませんでしたが、それでもおっと思うようなすてきな作品に多く出会いました。

 なかでも、おもしろいと感じたのは、ノンフィクション的な児童書です。ドイツは児童書でも現実を深く捉えた作品が比較的多く、とくに近年は良書が増してきている印象を受けます。温暖化対策を求める若者のデモが多かった今年、やはり児童書セクションでも多く目にしたのは、以下のような作品です。
 

   『Müll(ごみ)』というタイトルと表紙絵から受け取れるように、
 危機的な現状をストレートに伝えます。
 本書はリサイクル紙と鉱物油を含まないインクを使用して
 印刷されています。

   





 『気温が1℃上がると、どのくらい暖かくなるの?』というタイトルです。
 モラルを問うことも、年若い読者を怖がらせることもなく、気温上昇と
 気候の変化の関係を教えてくる作品です。

 



 両書とも7~9歳が対象。
 

◾️
2019年度ドイツ児童文学賞◾️
 ドイツ児童文学賞はドイツ唯一の国営の文学賞で、毎年フランクフルト・ブックフェア開催中に国内外の卓越した児童文学作品に授与されます。今年の受賞作品は以下のとおりです。


     




◾️来年への期待◾️
 海外在住の私は、以前、日本人作家の作品を本屋の棚で見つけると、お宝を探し当てたような気分になりました。最近では、日本文学の翻訳版が多くなり、驚喜することはなくなりましたが、それでも自分が幼いころに親しんだ絵本などを店頭で発見すると、心がほっこりします。

 今年のブックフェアでは、『ぐりとぐら』や『手ぶくろを買いに』をはじめ、以前にも増して日本の文学作品を目にしました。
 いわむらかずおさん作の
14ひきシリーズなどもドイツで人気があり、売れゆきもいいようです。

 フランクフルト・ブックフェア開催中に、来年度のアストリッド・リンドグレン記念文学賞の候補者が発表されました。この賞はスウェーデン政府の主催によるもので、
2005年には荒井良二さんが受賞しています。

 日本から
2020年度の候補にあがっているのは、児童文学作家・研究家である松岡享子さんと絵本作家の田島征三さんです。日本国内でも数々の賞を受賞しているお二人の、国際舞台でのさらなる活躍を心から祈ります。
 受賞者の発表は、来年
331日の予定です。
 
 ブックフェア最終日には、
2020年の来賓国となるカナダが紹介されました。カナダの来年のモットーは『Singular Plurality』。「非凡な多様性」という意味だと私は解釈しています。なるほど、カナダは英語とフランス語を公用語とし、多文化主義を掲げる国ですからね。どんなプレゼンテーションをしてくれるのか、今から楽しみです。


 


【プロフィール】
竹島レッカー由佳子
英語・ドイツ語翻訳者。米国オハイオ州立大学言語学科卒業。独ボン大学翻訳科で学んだのち、バベル翻訳大学院(
USA)で米国翻訳修士号を取得。児童書、料理本などの下訳や共訳のほか、スポーツ・アパレル・音楽・教育・産業関連の実務翻訳に幅広く携わる。訳書として、『身近にいる「やっかいな人」から身を守る方法』(あさ出版)、『私は逃げない~シリアルキラーと戦った日々』(バベルプレス)などがある。ドイツ・ハイデルベルク在住。
 

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