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第12回 アメリカ発コメディ・フィクション書籍レポート - 柴田きえ美

2019/09/24


世界の出版事情 ― 各国のバベル出版リサーチャーより

第12回 アメリカ発コメディ・フィクション書籍レポート





       
              柴田きえ美
(バベル翻訳専門職大学院生)


  
 一人目を妊娠中、知り合いの女性に、「あなたが本を読めるのも今の内よ。この先数年、本を楽しむ時間なんてないんだから」とアドバイスを頂きました。彼女は現役の司書さんで、子育て経験者です。いつもカフェで本を読んでいる読書家でしたので、彼女の言葉には真実味がありました。そして実際に、二人目が生まれて数年の現在まで、絵本や育児書関連以外で自分が楽しむための本とは縁遠くなってしまったのでした。

 きっとみなさんの中にも、毎日忙しくてゆっくり本を読んでいられないという方も多いのではないでしょうか。せっかく手に入れた希少な読書時間には、心から笑える本などはいかがでしょうか。笑顔を取り戻そう、そう思っている方におすすめのコメディ・フィクションをご紹介します。



     
   
 
Less (2017)

        アンドリュー・ショーン・グリア 著
       
        邦訳:   『レス』
        出版社:早川書房(2019)
        訳:上岡伸雄


        




作品について:
50歳になろうかという売れない小説家レス。ある日彼のもとに、9年間付き合った元恋人から、結婚式の招待状が届きます。出席するのは気まずい、かといって欠席するのはまるで負け犬の様だ。どうやったらこの究極のピンチから逃げられるのか! 幸いにもレスは、世界中の文学イベントに参加するという口実をみつけました。早速、ニューヨーク、ベルリン、パリ、モロッコ、最後には京都へと忙しく駆け回るレス。ですが道中、恋に落ちかけたり、死にかけたり、様々なアクシデントに見舞われるのです。ユーモアたっぷりの恋愛小説です。

著者について:
サンフランシスコ在住の小説家。大学の講師を経て、雑誌『エスクァイア』や『ザ・ニューヨーカー』などで短編を書いていました。その後、
2001年に『The Path of Minor Planets: A Novel』(仮訳:小惑星たちの行く先)で小説家としてデビュー。そして5冊目の小説となる本作『レス』では、ニューヨーク・タイムズのベストセラーに選ばれ、北カリフォルニア文学賞(Northern California Book Award)およびピュリッツァー賞を受賞。



   
 Where'd You Go, Bernadette (2012)
   
マリア・センプル 著
     
          邦訳無し
          題名(仮):どこに行ったの、バーナデット
         


 





作品について:
コメディ小説として大ヒットした本作品は、
2013年に全米図書館協会アレックス賞を受賞しました。すでに30ヵ国語に翻訳され、世界中で読まれています。今年20198月には、アメリカで映画も公開されました。バーナデット・フォックスは、夫にとっては恐れを知らない頑固者、私立中学のママ友にとっては恥知らずの鼻つまみ者ですが、その実、かつて名誉ある賞を受賞したこともある天才建築家でした。バーナデットには15歳の娘、ビーがいます。ビーは、ある日、オールAの成績表を持ち帰りました。そして、良い成績をとったら何でもあげる、という約束をしていた両親に、南極への家族旅行を提案します。しかし、広場恐怖症のバーナデットが、出発前に突然失踪してしまいます。ビーは母親の行方を探るため、地球の果てまで行くことになるのです。一体、バーナデットに何が起きたのか? 

著者について:
シアトル在住の女流作家。米国で大人気を博し、日本でも放送されたシチュエーション・コメディ『アレステッド・ディベロプメント』を含む複数のコメディ・ドラマの脚本を手掛けました。
2008年に『これは私の(仮)』(This One is Mine)で小説家としてデビュー。彼女の父親も脚本家としてテレビ・シリーズ『バットマン』を手掛けています。




   The Bookish Life of Nina Hill (2019) 
   アビー・ワックスマン著
   
   邦訳無し
   題名(仮):ニーナ・ヒルの本にあふれた日常








作品について:
ニーナ・ヒルは、母子家庭の一人っ子育ち。夢であった本屋での仕事につき、最強のトリビア・チームに囲まれ、世界一のスケジュール帳を持ち、ネコのフィルがいる、そんな(自分では)大満足の暮らしをしていました。ところがある日、存在すらも知らなかった実の父親が亡くなったという知らせを受けました。さらに、兄弟姉妹、甥姪など、数えきれないほどの血縁者が近くに住んでいて、みんながニーナに会いたがっているようです。追い打ちをかけるように、ライバルチームのトムがニーナに猛アタック。安全で心地よいニーナの日常が一気に変わってしまい、大混乱。さて、ニーナはどのようにして、この突然巻き起こった、人生の荒波を乗り切るのでしょうか。

著者について:
イギリス生まれ。現在はロサンゼルスで、三人の子供と理解ある夫、たくさんの動物たちに囲まれて暮らしています。チョコレートと犬が大好き。コピー・ライターの両親の間に、二人姉妹の一人として生まれました。ある時、父親がタバコを買いに行くと言って失踪。その後、母親は犯罪小説作家として成功します。アビーたち姉妹は、幼いころから家にある本を好きなだけ読むように言われて育ち、実際に二人ともたくさんの本を読んできました。広告業界で長年働いた経験を活かし、フィクション小説家としてデビュー。他にもテレビ番組や映画の脚本などにも携わっています。




   Breakfast of Champions (1973)
   カート・ヴォネガット(ジュニア) 著

   邦訳:   『チャンピオンたちの朝食』
   出版社:早川書房(1984)
   訳:浅倉久志





   



作品について:
本作品は、
1999年に映画化されています。ヴォネガットは複数の作品で共通するキャラクターを使用することがありましたが、本作品の主人公、SF作家のキルゴア・トラウトもその一人です。不遇の生活を送っていたトラウトのもとに、アート・フェスティバルへの招待状が届きます。開催地となるミッドランド・シティで、その後のトラウトの人生を大きく変える、ある人物に出合います。ヴォネガット自らのイラストが添えられた、ユーモア作品です。

著者について:

2007年に亡くなった、アメリカを代表する著名小説家の一人。当初はカート・ヴォネガット・ジュニアとして執筆活動をしていましたが、後に「ジュニア」を取りました。第二次世界大戦時、アメリカ兵として欧州戦線に参加し、ドイツ軍の捕虜となりました。その時の経験が彼の作品に多大な影響を与えています。代表作は、『猫のゆりかご』、『タイタンの妖女』、『スローターハウス5』。


 
【プロフィール】
柴田きえ美
カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生としてリーガル翻訳を勉強中。これまでに4冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得し、フリーランスで翻訳をしながら課題にも取り組む。




 

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