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第11回 オーストラリア絵本レポート[3]- テイラー佳子

2019/09/07


世界の出版事情 ー 各国のバベル出版リサーチャーより

第11回 オーストラリア絵本レポート[3]
-2019年のオーストラリア児童図書賞受賞作品





       
                      テイラー佳子
(翻訳者、バベル翻訳専門職大学院修了

 
  
 8月16日に、今年のオーストラリア児童図書賞(
Book of the Year Awards)の受賞作品が発表されました。今号では、最優秀賞に選ばれた作品の中からヤングアダルト文学部門と幼年向け部門での受賞作品をご紹介します。

ヤングアダルト文学部門(対象読者年齢:13歳から18歳)


     
   
Between Us 

         
    邦訳無し
    題名(仮):見えない壁
    作:クレア・アトキンズ
    出版:ブラック株式会社
        
Black Inc.

        

あらすじ
 イランからオーストラリアに難民として来たアナヒータは、学校にいくときだけ、難民収容施設を出ることができます。平日の学校の時間帯だけは「普通のオーストラリアの女の子」になれるのです。ジョノは、母親が家を出て行き、ベトナムからの移民である父親ケニーと二人で暮らしています。母親に見捨てられ、置き去りにされたジョノには、傷心を紛らわすことができる何かが必要でした。

 難民収容施設でガードマンとして働いているケニーは、アナヒータにジョノと仲良くしてくれと頼みます。しかし、ケニーは難民であるアナヒータについて、よく知りません。そして、次第にアナヒータに対して疑念と不信感を抱くようになります。いったい、この少女は何者なのだろうか? どんな過去を背負っているのだろうか? 普通の難民なのか、あるいは密航者なのか? アナヒータとジョノが親しくなるにつれて、ケニーはふたりの事を詮索するようになります。

作品および作者について
 この作品は、シドニー出身の作者クレアがダーウィン滞在中に手掛けたもので、彼女にとって2作品目の小説になります。クレアは、処女作品の『
Nona & Me』(邦訳無し:ノナと私(仮題))で、2016年のノーザンテリトリー文学賞、2015年のオーストラリア児童図書賞(ヤングアダルト部門名誉賞)を受賞しています。

 本作品では、多文化主義の探求をテーマに、移民や難民に対する考え方の変化が描かれています。移民と難民の多い他民族国家オーストラリアにおいて、必然的に生じる各民族間の心理的な壁、そして、公にはあまり語られることのない難民に対する偏見について、深く考えさせられる一冊です。児童文学とはいえ、大人にとっても非常に読み応えのある作品です。



幼年向け部門(対象読者年齢:0歳から7歳)


   
 Tricky’s Bad Day
     
          邦訳無し
          題名(仮):トリッキーのツイてない一日
          作:アリソン・レスター
          出版:アファーム出版 
        
Affirm Press

 


あらすじ
 主人公のトリッキー、今日は、何をしても上手くいきません。ミルクはこぼすし、パジャマのボタンは取れるし、ゲームをしていたら妹に邪魔をされるし、本当にツイてない最悪な日です! そこで、お父さんがトリッキーを外に連れ出します。外で走り回ったり、木登りをしたり、水たまりに飛び込んだりして思いっきり遊んでいるうちに、トリッキーの気分は、すっかり晴れていきます。

作品および作者について
 作者のアリソン・レスターは、オーストラリアを代表するベテラン絵本作家の一人です。オーストラリアの先住民の生活文化をテーマに書かれた絵本
Ernie Dances to the Didgeridoo(5月7日号で紹介)の作者です。

 本作品では、幼い子供のいる家庭の様子が現実的に描かれています。幼い子どもは、発育途中であるがゆえに、感情のコントロールが上手くできません。物事が上手くいかずに、癇癪をおこしてしまうのは、幼児にはよくあることです。そんなときは、フラストレーションを上手く解消する方法を子どもに教えてあげる必要があります。物語の中で、お父さんがトリッキーを外に連れ出します。トリッキーは、自然と触れ合いながら外で思いっきり遊ぶことで、気分を転換できることを学びました。

 また、この物語では、お母さんが外で働き、お父さんが家事をする設定になっています。オーストラリアでは、よく見かける家庭の在り方です。この作品を通して、読者の子どもたちは、自分の気分が周りの人に与える影響、気分転換の方法、そして、父親と母親の役割の多様性を学ぶことができます。

 至ってシンプルな物語ですが、読者への影響力が高い絵本です。数多くの賞を受賞している実力派のベテラン絵本作家、アリソン・レスターらしい作品と言えます。

 
 上記にご紹介した二作品の他、次の作品が2019年オーストラリア児童図書賞の最優秀賞に選ばれています。

児童文学部門(対象読者年齢:8歳から12歳)

   His Name Was Walter
   
       邦訳無し
   題名(仮):彼の名はウォルター
   作:エミリー・ロッダ
   出版:ハーパーコリンズ






絵本部門(対象読者年齢:0歳から18歳)

  CICADA
  作:ショーン・タン
  出版:アシェット・オーストラリア
  
  邦題:『セミ』
   
2019年 河出書房新社
   訳:岸本佐知子




ノンフィクション部門(対象読者年齢:0歳から18歳)

  Sorry Day
  
      邦訳無し
   題名(仮):謝罪の日
   作:コーラル・ヴァス
   絵:ダブ・レフラー
   出版:オーストラリア国立図書館





イラストレーション部門 新人賞(対象読者年齢:0歳から18歳)

    Grandma Z
   
    邦訳無し
    題名(仮):ばあちゃん・Z
    作:ダニエル・グレイ‐バーネット
    出版:スクリブル・キッズ






参考:https://www.cbca.org.au/winners-2019




【プロフィール】
テイラー佳子
オーストラリア在住。バベル大学院文芸翻訳専攻 修士課程修了。オーストラリアの優れた児童文学作品を日本の子どもたちに届けることを目標に、現在はフリーランスで翻訳の仕事をしています。