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第9回 ハワイ絵本レポート[2] - マリ・ピンダー

2019/08/07


世界の出版事情 ー 各国のバベル出版リサーチャーより
第9回 

ハワイ絵本レポート[2]

-あれ?どこかで聞いたことのあるような、お話




       
              マリ・ピンダー(バベル翻訳専門職大学院在学中)

 
 

 「桃太郎」や「かぐや姫」と聞いただけで、多くの人がそのストーリーを思い浮かべられるのが有名な昔話。この2つは日本発祥のお話ですが、昔話は世界中にたくさんあります。イソップ童話の「オオカミ少年」やアンデルセン童話の「裸の王様」、グリム童話の「シンデレラ」など、日本語で翻訳されたお話の数々はおなじみですね。今回紹介するのは、誰もが知っているお話をハワイ流にアレンジしたユニークな絵本です。あらすじを読んで、原作はどのお話だろう?と、ぜひ考えをめぐらせてみてください。


WILI WAI KULA and the THREE MONGOOSES (1983)
作:ドニヴィー・マーティン・レアード
絵:キャロル・ジョッセム


 

あらすじ
 昔々、ハワイの深い森の中に、
3匹のマングース家族が住んでいました。ある日、マングースのお母さんがご飯とポーチュギース・ソーセージの朝食を用意しました。できたての朝食は熱々でとても食べられそうになかったので、一家は散歩に出かけることに。同じ頃、ウィリ・ワイ・クラ(ハワイ語で金色の巻き毛の意)という名前の小さな女の子が、朝の散歩に出かけました。好奇心旺盛なウィリ・ワイ・クラは、やってはいけないと言われたことを必ずやってしまうくせがあります。まだ小さいので一人で森に入ってはいけないと言われていたにもかかわらず、ウィリ・ワイ・クラは森へ一直線。そこで見つけたのは、マングース家族の家でした。入ってみると誰もいません。さて、ウィリ・ワイ・クラはどうするのでしょうか。

作者および作品について
 ハワイ育ちのドニヴィー・マーティン・レアードは、
25年間小学校で教えていました。1980年から創作活動を始め、1981年に本作のイラストを担当したキャロル・ジョッセムと共に出版社を立ち上げ、ハワイをテーマとした絵本を出版してきました。2004年に版権を他の出版社に譲るまでに出した6冊は、20万部以上売れています。また、最初の3作は子ども向けのミュージカルにもなり、地元ハワイで何度も上演されるなど、とても愛されています。

 ポーチュギース・ソーセージを使った朝食、ベッドにかけられたハワイアンキルトなど、ハワイの日常的な風景が垣間見られます。絵本の中にはハワイ語の発音ガイドの他にも、こんな注釈があります。「マングースが使っている言葉はピジン英語です。誰かの気分を害するつもりで使っている訳ではありません。ピジン英語を使うことで、ハワイならではの空気が少しでも伝わりますように」ちなみに、こちらがマングースのセリフの一例です。
”Ey! Somebody wen eat my rice and Portagee sausage.”


The Three Little Puaʻa (1998)
作:シェリー・フォーカム
絵:アントワネット&マイケル・コステロ

 


あらすじ
 ハワイ島のオノメアベイに、
3匹のプアア(ハワイ語で豚の意)が住んでいました。雨の多い森の暮らしに飽き飽きした3匹は、太陽の降り注ぐ海辺に引っ越すことを決意。南に向かって歩いていくと、道が3本に分かれているところがありました。3匹はそれぞれの道を進み、ハレ(ハワイ語で家の意)を作ることにしました。そんな3匹の様子を見ていたのは、モオ(ハワイ語でトカゲの意)。長いことプアアを食べていないモオは、できたばかりの家を訪ね、入れてくれないかと聞きます。プアアは助かるのでしょうか。

作者および作品について
 サンフランシスコ在住のシェリー・フォーカムは教育学の博士号を持ち、高校で英語を教えています。夫のジムと共に、世代間の違いにフォーカスしたコーチングに取り組み、ハワイでもその知識をシェアしていました。この絵本の続編
”The Three Little Pua'a Meet The Menehune”も描いています。イラストを描いたアントワネット・コステロは、”Mongoose, Mongoose, Stop! Don't Run”という絵本の作者でもあります。

 主人公のプアアに始まり、悪役のモオ、そして
3匹の断り文句であるアオレ(ハワイ語でNoの意)などハワイ語がふんだんに使われています。また、巻末のハワイ語解説の他にも、3匹がたどった道のりを示す地図や、登場人物のパペット遊びができるページなど、たくさんの仕かけが読者を飽きさせません。


The Musubi Man (1996)
作:サンディ・タカヤマ
絵:パット・ホール



 
あらすじ
 昔々、タロ(タロ芋)畑の真ん中に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
2人は毎日一生懸命タロの世話をしていました。おばあさんは毎日朝早く、昼ご飯と夜ご飯の用意をします。美味しくて栄養満点のご飯には、いつもお米が使われていました。ある朝、おばあさんはいつもと違うご飯を作ることにしました。「そうだ、ムスビマンを作りましょう」海藻を髪の毛に見立て、海苔を上着のように着せ、紅ショウガで笑っている口元を作りました。ムスビマンを特別な存在にするために、おばあさんはハートの形をした梅干しを左胸におきました。すると、なんということでしょう。ムスビマンがウインクをしたかと思ったら、家の外へ駆け出してしまいました。 おばあさんはムスビマンを捕まえることができるでしょうか。

作者および作品について
 オアフ島中部のミリラニ在住のサンディ・タカヤマは、学校の司書でもあります。幼少の頃から、有名な物語の結末を自分でアレンジしたお話を書くのが好きでした。本作の続編である
”The Musubi Man’s New Friend”の他にも2冊の絵本を出版しています。イラストを描いたパット・ホールは、受賞履歴のあるハワイの有名な画家です。ハワイに住む動物をテーマにした塗り絵なども出版しています。

 おにぎりが「ムスビ」の名前で定着しているハワイならではの登場人物。ビーチサンダルを履いて逃げるムスビマンが話すのはもちろんピジン英語です。元のお話は、サブタイトルが表しているように
”Hawaiʻi’s Gingerbread Man”です。”Run, run, run as fast as you can! You can’t catch me, I’m the Gingerbread Man!”というセリフは、”Run, run, fast as you can! You no can catch me, I’m one musubi man!”となっています。



Old Makana Had a Taro Farm (2008)
作:ドクター・キャロラン
絵:ジョアンナ・F・キャロラン



 
あらすじ
 マカナはタロ畑を持っていました。そのタロ畑にはコロア(ハワイ語でアヒルの意)がいました。ポロカ(ハワイ語でカエルの意)もいました。マカナは育てたタロを引き抜き、ポイ(タロをすり潰して作るハワイ料理の主食)を作りました。そして大きなルアウ(ハワイ語で宴の意)を開きました。

作者および作品について
 オーストラリアのメルボルン出身のドクター・キャロランは
1977年にハワイに移住。1979年からカウアイ島で小児科医として勤務するかたわら、絵本の製作をしています。ドクター・キャロランの手がける絵本は全て、妻であるジョアンナがイラストを描いています。

 付属の
CDには、2人の有名なハワイアンミュージシャンによる”Old Makana Had a Taro Farm”が収録されています。スラッキーギターの音色を聴きながら絵本をめくると、そこはまるでハワイ。巻末にはタロについての説明があり、なぜ登場人物がマカナという名前なのかなど、より一層興味が持てるようになっています。


 

【プロフィール】

マリ・ピンダー
バベル翻訳専門職大学院在学中。ホノルル在住
8年目で1児の母 。ハワイで制作されているバイリンガル雑誌Trimの翻訳をしています。日本にいた頃は、幼児向け英語教材の編集をしていました。





 

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