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第3回 カナダ絵本レポート - クリーバー海老原章子

2019/04/22


世界の出版事情 ー 各国のバベル出版リサーチャーより


第3回 カナダ絵本レポート


       
               
クリーバー海老原章子(翻訳者、バベル翻訳専門職大学院修了)

 

 
 みなさんは「カナダ」と聞いて、どんなことをイメージされるでしょうか?
大自然、ロッキー山脈、ビーバー、雪、カヌー、アイスホッケー・・・・そして「赤毛のアン」、などなど。カナダの絵本にも、このようなイラストが登場するのでは、と思われる方も多いのではないでしょうか?

 わたし自身、こども3人をトロントで出産し、長女が7歳になるまでの7年間、トロントで子育てをしてきました。
今回、カナダの絵本事情を調査する機会をいただき、久々に(12年ぶりぐらいでしょうか)、書店の児童書コーナーをのぞいてみました。当時、我が子に読み聞かせをした絵本、そして幼い彼らと過ごしたひとときを思い出しながら、「あ、あるある、見覚えのある表紙」。カナダでとても有名な絵本作家のひとりと言えば、ロバート・マンチ氏。カナダで子育てをされたことがある方ならば、必ず彼の絵本のどれかには触れたことがあるのでは、と思います。彼の絵本を集めたコーナーがまず目に入りました。そして「赤毛のアン」コーナーも立派に一角を占めていました。

 皆さんもご存じの通り、カナダは移民の多い多民族の国です。さまざまなバックグラウンドを持つ新鋭の絵本作家もどんどん登場しています。書店に並ぶ絵本は、ロングセラーから新しい作家のものまで、いろいろありますが、何度、同じ絵本を読み聞かせても、こどもたちは同じところで同じような反応をし、結末はわかっているのに、何度でも楽しめる。それが絵本のイラストとストーリーがもつ魅力に変わりはありません。次にご紹介するのは、数ある絵本の中のほんのわずかでしかありませんが、「これ、読んでみたいな(読んであげたいな)」と思っていただけたら、うれしく思います。残念ながら、邦訳されているものが少ないのですが、今回わたしがピックアップした絵本は、英語もシンプルですので、イラストと併せて楽しめるものだと思います。

      
原書                        日本語版

Love You Forever        ラヴ・ユー・フォーエバー
       
     

      
  
                          作: ロバート・マンチ
                          絵: 梅田 俊作
                                                      訳: 乃木 りか
                                                      出版社: 岩崎書店



あらすじ
お母さんが赤ちゃんをだきながらうたいます。アイラヴユーいつまでも、アイラヴユーどんなときも…。息子が成人しても、お母さんはこっそり窓から忍び込んで、同じように歌います。母親の我が子を思う気持ちは、いつまでも変わらない。親子の愛の絆を描く心温まるストーリー。

作者および作品について
ロバート・マンチの作品を代表するベストセラー絵本。
原書は「
I'll love you forever. I'll like you for always. As long as I'm living. My baby you'll be」という歌詞になっています。赤ちゃん2人を死産で亡くしたロバート・マンチが、その我が子を想い、自分自身に語りかけるように歌ったのがこの歌であると言われています。ユーモラスで楽しいストーリー展開が特徴のマンチ・シリーズですが、読者にちょっと違う印象を与えるのが、この「Love You Forever」です。世代を超え、多くの人の心に響くのは、そんな背景があるからでしょう。



Scaredy Squirrel


作/絵: メラニー・ワット    

あらすじ
臆病者のリス、
Scaredy Squirrelは、自分の巣からでることができません。外に出たら、大きな毒蜘蛛、ハチ、ばい菌、それにサメに遭遇することがあるかもしれない!ところが、ある日、この快適な巣から出なきゃいけなくなったScaredy Squirrel。どんな作戦にでるかな?

作者および作品について
ケベック大学でデザインを学んだメラニー・ワットは、
Scaredy Squirrelシリーズの第1作となるこの絵本で、数々の賞を受賞しています。テンポある楽しいストーリーラインと、かわいらしいイラストが、こどもたちの好奇心を刺激するのではないでしょうか。この臆病なリスの冒険は、Scaredy Squirrelシリーズとして他にも出版されています。



The Hockey Sweater


作:ロッチ・キャリア
絵:シェルドン・コーエン    

あらすじ
カナダのケベック州の小さな町、サント・ジュスティーヌに住む男の子たちは、アイスホッケーが大好き。彼らのヒーロ―は、モントリオール・カナディアンズのモーリス“ロケット”リシャール。誰もが彼の背番号「」のついた赤のジャージを着ています。今までのジャージが小さくなってしまったロッチ。おかあさんが新しいジャージを注文してくれました。ところが届いたのは、なんとライバルチームのトロント・メープルリーフスの青のジャージ!?さて、ロッチはどうする?

作者および作品について
ロッチ・キャリア自身の幼少時代のできごとをベースにしたロングセラー絵本。シェルドン・コーエンの鮮やかで、細部にこだわったイラストは、ロッチの生き生きとしたストーリーにぴったりです。意外な結末は、多くの読者の心をほっこりさせてくれるでしょう。ロッチが生まれ育ったサント・ジュスティーヌには、図書館も本もなかったそうですが、現在では「ロッチ・キャリア・ライブラリー」があるそうです。他にもスポーツシリーズを出版するロッチは、カナダ勲章など、数々の賞を受章しています。



Goodnight, Anne
Inspired by Anne of Green Gables



作:カリー・ジョージ
絵:ジュネビーブ・ゴドバウト
    
あらすじ
「おやすみなさい」の時間になっても、アンはみんなに「おやすみなさい」のハグをしなければ、寝れません。寝る前に誰に会いに行くのかな? 

作者および作品について
「赤毛のアン」にインスパイアされ出来上がった絵本。ぬくもりのあるイラストも魅力です。
カナダのブリティッシュコロンビア大学で児童文学の修士号を取得したカリー・ジョージは、この「
Goodnight, Anne」の他にも多数絵本を手掛けています。その傍ら、こども向けに作文のワークショップなども開講しています。現在、ブリティッシュコロンビア州のバンクーバー在住。 


The Darkest Dark


作:クリス・ハドフィールド
絵:ファン兄弟    

あらすじ
ロケットと宇宙を愛するクリスは、宇宙を探検する勇敢な宇宙飛行士を夢見ています。しかし、ひとつ問題が。夜の暗闇が怖いのです。ある日、テレビで月面着陸の様子をみたクリスは、月面はもっとも暗いところなのだと気づきます。

作者および作品について
カナダ人宇宙飛行士として名高いクリス・ハドフィールド。幼少時代のクリス自身をモデルにしたこの絵本は、多くの読者に「不可能なことはない」そんな勇気と夢をを与える一冊です。

 

This is Not My Hat            ちがうねん

      
                                  作: ジョン・クラッセン
                                  訳: 長谷川 義史
                                  出版社: クレヨンハウス


あらすじ
頭にぼうしをのせた、ちいさな魚が泳いでいます。
「この ぼうし ぼくのと ちがうねん。とってきてん。」
おおきな魚が寝ている間に、ちいさな魚が盗んだぼうしです。
ちいさな魚にぴったりのかわいいぼうしですが、おおきな魚につかまらずに済むでしょうか。

作者および作品について
カナダのウィニペグ出身の絵本作家/イラストレーターであるジョン・クラッセンは、この作品でコルデコット賞を受賞し、国内外で人気を集める絵本作家です。この作品は、彼の「どこいったん」シリーズの
2作目。2014年までに22の言語に翻訳され、多くの国で愛される絵本です。邦訳はユーモラスでどこかとぼけた大阪弁が楽しい、ユニークな作品になっています。


The Gruffalo         グラファロ―
                       もりでいちばんつよいのは?


         
                         作: ジュリア・ドナルドソン
                         訳:久山太市
                         出版社:評論社

あらすじ
おそろしい怪物グラファロに出会ったら、どうしますか!?頭がよくて、勇気あるネズミくんは、どうサバイバルするのでしょう。

作者および作品について
英国ロンドン出身のジュリア・ドナルドソン。わかりやすい英語とテンポあるストーリー展開は、日本の幼稚園の英語教材としても注目されています。怪物グラファロですが、そのかわいらしくて、親しみやすいイラストも人気のひとつです。ジュリア・ドナルドソンはカナダ人作家ではありませんが、彼女の絵本は、カナダの子育てシーンにも多く登場します。我が家の子供たちもグラファロとともに育ちました。大人が読んでも楽しめるシリーズだと思います。



Shi-shi-etko


作:ニコラI.キャンベル
絵:キム・ラファブ

あらすじ
先住民の女の子、シシエコ(
Shi-shi-etko)が寄宿学校に入る前の4日間を描いた絵本。家族と過ごす最後の4日間。太陽の優しい光の下でおかあさんと踊るダンス、小川で見つけたきれいな小石やおたまじゃくし、おとうさんがカヌーを漕ぎながら歌ってくれる歌、おばあちゃんが鹿の皮で作ってくれた小さなかばん……宝物を集めるように、大切に心に刻み込んでいきます。

作者および作品について
カナダには、ファーストネーションと呼ばれる先住民の歴史があります。寄宿学校はその歴史のひとつです。実際の出来事をベースにした「
Shi-sh-etko」。幼いこどもが親元を離れて暮らさなければならない、そんな哀しみが、シシエコの目を通して読者に伝わるのではないでしょうか。キム・ラファブの繊細でソフトなイラストも魅力的です。

ブリティッシュコロンビア大学で文芸修士号を取得したニコラI.キャンベルは、ファーストネーションをテーマにした絵本を他にも出版しています。



Mortimer


作:ロバート・マンチ
絵:マイケル・マルチェンコ    

あらすじ
夜、「おやすみなさい」の時間になってもベッドに入ってくれない男の子、モーティマーは、家族や近所の人を困らせます。歌うのが大好きなモーティマー。
Whop, whop, whop, whop, whopと歌います。「Mortime, Be quiet!」と怒られると Yes!yes!yes!と答えるのに、またすぐ whop, whop, whop……と歌いだします。

作者および作品について
ロバート・マンチはカナダを代表する絵本作家のひとりですが、実はアメリカ生まれで、のちにカナダの市民権を取得しています。この「
Mortimer」は、50万部以上の出版数を誇る、ロバート・マンチのベストセラーのひとつ。軽快なやりとりと、ユーモアあふれる結末が、多くの人に長く愛される理由かもしれません。




【プロフィール】
クリーバー海老原 章子
バベル翻訳大学院法律翻訳修了。結婚後は夫の仕事の関係でマレーシア、トロント、
アラブ首長国連邦に居住。現在は、カナダBC州のナナイモに一家5人暮らし。これまで
に担当した書籍翻訳は3冊。フリーランスとして翻訳のお仕事をしています。