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第24回 きせつの絵本 その3 絵本の楽しみ方:春を待つ絵本

2020/01/22

『絵本の世界 絵本と世界』 第24回    

きせつの絵本 その3
絵本の楽しみ方:春を待つ絵本

 

 松本由美  
(玉川大学 教育学部教育学科 准教授)
 
 
 
■『The Happy Day』Ruth Krauss 文, Marc Simont 絵 Harper Collins 1949
■『はなをくんくん』
ルース・クラウス 文, マーク・シーモント 絵, きじま はじめ (翻訳) 福音館書店1967年


     

 

 教科書で登場するお話としても有名な『はなを くんくん』です。今回は原作の『The Happy Days』をまずご紹介したいと思います。表紙の鮮やかな、しかし温かみのある黄色は、本編の中では最後の見開きまで登場せず、ほぼ全編が墨絵のような白と黒、そして様々な明度の灰色によって描かれた冬の世界です。森の動物たちが春を待ちながら地中で冬眠し、植物たちも新しい芽吹きをじっとまちながらも地中深くに芽を育んでいる冬の森は、一面雪に閉ざされて、ところどころに顔を出す木々の枝以外は一面白の世界です。止むことなく雪が降り続く空は、どんよりとした灰色。しかし、雪も空も真綿にくるまれたような、温かさがその色使い、輪郭線の入れ方、冬毛を纏った動物たちの描き方によって表現されています。冬ごもりをしている動物たちの巣穴は暖かいのでしょう。白と黒と灰色にも様々な種類があるのだと教えてくれる絵です。

 さて、表紙に使われている黄色は最終見開きのあるものに使われています。その小さな黄色を見つけて動物たちは、the happy dayを迎えたことを知ります。邦題の『はなをくんくん』はその黄色が放つ香りに誘われて、冬眠から目を覚まして、香のする方向を探して「みんな はなをくんくん。」という文言が、題名になっています。原語(英語)版では、「はなをくんくん」という部分は、 ‘sniff’という一語で表現されていて、これに対する日本語訳の「はなをくんくん」という日本語に特徴的なオノマトペを使った表現を邦題としたのは秀逸です。

 オノマトペと呼ばれるこうした擬音語、擬態語は私たち日本人の日常には欠かせません。英語のオノマトペは主に「水をじゃあじゃあ流す」のように実際にその音を模している擬音語ですが、日本語のオノマトペはそれだけでなく、「元気でぴんぴんしている」や「サクサク進める」などのように、実際にはそのような音がする訳ではなく、その時の様子や、物の状態などを表す擬態語も含まれています。そして、例えば「サクサク進める」とは、どのような進め方なのか、日本の人々は恐らく共通認識を持っているだろうと思います。こうした共通認識はどこで育まれるのでしょうか?そこに、絵本の役割は小さくないのではないかと想像します。『The Happy Day』は1950年コルデコット賞のオナー賞に輝いています。

■『Tap the Magic Tree』Christie Matheson 作Greenwillow Books 2013年

 
 

 こちらは、一本の木を通した四季の移り変わりが描かれていますが、春に始まり、また、春が廻ってくる、やはり春の兆しを感じられる絵本です。一本の木、そこに潜む自然の不思議と、子どもの動作を誘うことばで、この絵本は進行していきます。木そのものは優しいタッチではありますが、写実的な感じを残しています。その木を ‘Tap it once.’ してページを捲ると、あら?葉っぱが一枚。 ‘Tap again-one, two, three, four.’ とトントン叩いてページを捲ると、叩いた数だけ葉っぱが増えていく。こうなると子どもたちは、トントントントンこれでもかというくらい木を叩き始めます。大丈夫、Magic Treeはそんな子どもたちをちゃんと受け止めて、ほら、緑の葉っぱが生い茂った木になります。そして、その次はトントン叩かれた木を優しくいたわるように ‘Rub the tree to make it warm.’ です。木を優しく撫でて温めてあげて、そうしてページを捲るとまたまた不思議なことが起きます。子どもたちの動作を誘い、ページを捲ると木の、自然の、移ろいが分かるように描かれていて、彩も美しい絵本です。前述のとおり木はやや写実的なタッチで描かれていますが、葉や花や実はどれも、恐らく薄紙を使ったコラージュで施されていて、ちょっと人工的な感じが、手品でスティックからポンッと現れる花を彷彿とさせ、 ‘Magic Tree’という言葉とぴったり合います。また、葉や花や実が薄紙であることにより、その下の木の幹や枝が透けて見えるので、いつも変わらぬ木の存在を感じます。街の中からこうした大きな木は減りつつあり、いつまでも変わらない木の風景と、そこに訪れ廻りゆく季節を身近に感じることは、少なくなってしまいましたが、いつも横を通り過ぎている街路樹にも、春は訪れてきているのかもしれません。
 
【プロフィール】
松本由美 Matsumoto Yumi
玉川大学教育学部教育学科准教授
津田塾大学学芸学部英文学科卒 同大学院修了
J-SHINE(小学校英語)指導者 絵本専門士

専門は第二言語習得論、文体論、英語教育、児童英語
玉川大学では小学校英語指導者を目指す大学生の指導、並びに第二言語習得に関する講義を担当している。現在、研究は、小学校英語教育の立場から「小学校英語教育における絵本読み聞かせとその効果の見える化」(2018年度学内共同研究)を中心に据え、絵本学の立場からも薦められる小学校英語に用いる絵本リストの作成にも取り組んでいる。

所属学会:小学校英語教育学会 児童英語教育学会 全国英語教育学会 国際幼児教育学会 絵本学会 International Research Society for Children’s Literature、European Network of Picturebook Research 他

出張依頼講演:「絵本で広がる児童英語の世界」 「すすんでコミュニケーションを取ろうとする外国語活動」「子どものそだち、ことばのそだち」

論文:
・「初期英語教育における絵本の有効活用‐児童の自発的反応を引出す「読み聞かせ」の試み」(2015)
・「必修化を見据えた小学校3年生外国語活動の在り方:視覚情報としての文字指導」(2015)
・「小学校英語を取り巻く議論の動向」(2016)
・「特別活動教室English Room の試み」(2016)
・「小学校英語教育における教材用絵本選定基準の試案―絵本リスト作成にむけてー」(2017)
・「英語絵本の読み聞かせの身体性と聞き手の理解」 (2017)
・「主体的・対話的で深い学びの視点で実施する 小学校外国語活動における英語絵本
  の選定方法の考察」(2018)など

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