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第17回 あそべる絵本 その5  絵本のえらび方:おみせやさんごっこができる絵本

2019/10/07


『絵本の世界・絵本と世界』

第17回 あそべる絵本 その5
-絵本のえらび方:おみせやさんごっこができる絵本




松本由美(玉川大学 教育学部教育学科 准教授)


■子どもたちの社会デビュー:おみせやさん
 赤ちゃんは、いつの間にか子どもになり、生活の場も、おかあさんのお腹の中、腕の中、手をつなげる距離から、目の届く範囲、そしてやがて目の届かないところにも行くようになります。はじめてのおつかいをさせるのは、親にとっても勇気のいることなのではないでしょうか?我が家の場合は、家の隣が、日用品まで売っている初老のご夫婦が営む酒屋さんでしたので、そのお店がおつかいデビューの舞台でした。最初はお店の外まで一緒に行って、お店の中では子どもが一人だけで入ってお買い物、それでも、お店の方とのやり取りを、練習させたものです。次に母は家の外で見届け、最後に親は家の中で待っているという風に徐々に手を放していきましたが、家で待っているほんの5分の時間も、心配でたまらなかったことを覚えています。日々、大人の買い物を見ながら、自分もやってみたいと自然に思うようになるのでしょう、実に良く大人同士のやり取りを見ています。幸いにも、我が家の周りには、お隣の酒屋さんを始め、初老のご夫婦が営むお米屋さんやお豆腐屋さんなど、店先で会話の生じる昔ながらの商店が、ありました。いずれも、ちょうど子どもと同い年くらいのお孫さんがいたので、子どもが「ください」を言うことをお許しいただき、練習をさせていただきました。でも、そんな地域ばかりではないので、子どもの社会的自立に欠かせない、お店屋さんデビューを助けてくれるのが、お店屋さんごっこです。

■『おみせやさんで くださいな!』さいとう しのぶ作 リーブル (2016/04)


 以前にご紹介した『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』と同じ「ことばあそびシリーズ」ですが、お店やさんごっこのためのおもちゃ絵本かと思ってしまうほど、お店屋さんの描写が秀逸です。舞台は、作者さいとうしのぶの生まれ育った大阪府堺市の商店街で、実際にお店を一軒ずつ取材に訪れて、写真を撮るだけでなく店主の方たちへのインタビューなども経て、描いたそうです。店内の描写は丁寧に綿密に描かれていて、そこで交わされる会話まで聞こえてきそうなくらいです。時には一つのお店を描くのに1カ月近くかけたものもあり、構想から凡そ10年の月日を経て出版されたそうです。* もちろん、ことばあそびも健在です。堺の商店街は、お店はそっくりそのまま動物たちの商店街になって、絵本を開くとそこはもう動物たちの商店街です。最初のお店は「くまのパンや」さんです。見開きの左側には「パンやさんでおかいもの あんぱん しょくぱん クリームパン、クロワッサンに メロンパン くださいな!」とメロディーに乗せて、おかいもの。右ページには、お店屋さんの外観が描かれていて、まるで読んでいる私たちがお店を訪れているような錯覚を覚えます。そうして、ページをめくると見開きいっぱい、所狭しと焼きたてのパンが並んでいます。2軒目はたぬきの豆腐屋さん「とうふたぬき」3軒目はカバの「八百カバ」、どのお店もパン屋と同様に構成され、お買い物を楽しむことができます。漢字は勿論、カタカナにもふりがなが付けられていますし、ついつい口ずさんでしまうメロディーが付けられていますので、すぐに子どもたちはセリフを覚えてしまうでしょう。「くださいな」のページに登場する品物は、同じページにそれぞれの絵が付けられていますので、お店屋さんの場面で『ミッケ!』**のように、お店で同じ絵を探す楽しさもあります。まさに、買いたいものを探すお買い物の醍醐味ですね。どうぞ、お買い物ごっこを楽しんでください。

 * 『堺びと』「絵本で子どもたちに笑顔を~絵本作家 さいとうしのぶ~」
  
  
  https://www.youtube.com/watch?v=CB8FtBcmGPM
 
**原作は
I SPY BOOKS の写真家であるWalter Wickによる『CAN YOU SEE WHAT I SEE?』シリーズ。
  日本では小学館が『ミッケ!』というシリーズ名で出版している。

■『おみせやさん』(ほるぷのプレイブッキー)作・絵: 五味 太郎 出版社: ほるぷ出版 2008年

 新しく手に入れるのは難しいようですが、五味太郎氏の名作の一つで、所蔵している図書館も多いと思いますので、ご紹介いたします。屏風のようになっている折本もしくは蛇腹本と言われる形状で、広げていくとお部屋の中に商店街が出現します。長く広げても、輪にしても、また絵本を挟んでやり取りしても楽しいですし、そこから、きっと色々な遊び方を子どもたちが考えてくれると思います。

 先ほどの『おみせやさんで くださいな!』とは違い、店先での会話は書かれていませんし、書かれている文字といえば、お店屋さんの会話くらいです。この絵本が求める会話は子どもたちよって作られ、絵本作家が全て作り上げてしまうのではなく、おもちゃのように、読み手が参加して使ってくれて、初めて完成する絵本です。この絵本の画像は[五味太郎 おみせやさん]で検索していただくと、ご覧いただくことができますが、ご興味のある方は、ぜひ、お近くの図書館でお手に取ってご覧いただきたいと思います。

■終わりに
 シリーズでご紹介している「あそべる絵本」はいかがでしょうか?第
13回の『いない いない ばあ』から、今回の『おみせやさん』まで、様々な形で読者が絵本に身体的に関わりを持つことを希求している絵本をご紹介してきました。ぜひ、実際にお手に取って遊んでいただけたら幸いです。

 


【プロフィール】
松本由美 Matsumoto Yumi
玉川大学教育学部教育学科准教授
津田塾大学学芸学部英文学科卒 同大学院修了

J-SHINE(小学校英語)指導者 絵本専門士

専門は第二言語習得論、文体論、英語教育、児童英語
玉川大学では小学校英語指導者を目指す大学生の指導、並びに第二言語習得に関する講義を担当している。現在、研究は、小学校英語教育の立場から「小学校英語教育における絵本読み聞かせとその効果の見える化」(
2018年度学内共同研究)を中心に据え、絵本学の立場からも薦められる小学校英語に用いる絵本リストの作成にも取り組んでいる。

所属学会:小学校英語教育学会 児童英語教育学会 全国英語教育学会 国際幼児教育学会 絵本学会 
International Research Society for Children’s Literature、European Network of Picturebook Research 

出張依頼講演:「絵本で広がる児童英語の世界」 「すすんでコミュニケーションを取ろうとする外国語活動」「子どものそだち、ことばのそだち」


論文:
・「初期英語教育における絵本の有効活用‐児童の自発的反応を引出す「読み聞かせ」の試み」(
2015
・「必修化を見据えた小学校
年生外国語活動の在り方:視覚情報としての文字指導」(2015
・「小学校英語を取り巻く議論の動向」(
2016
・「特別活動教室
English Room の試み」(2016
・「小学校英語教育における教材用絵本選定基準の試案―絵本リスト作成にむけてー」(
2017
・「英語絵本の読み聞かせの身体性と聞き手の理解」 (
2017
・「主体的・対話的で深い学びの視点で実施する 小学校外国語活動における英語絵本の
  選定方法の考察」(
2018)など

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