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第16回 あそべる絵本 その4 絵本のえらび方:ごっこあそびができる絵本
2019/09/24
『絵本の世界・絵本と世界』
第16回 あそべる絵本 その4
-絵本のえらび方:ごっこあそびができる絵本

松本由美(玉川大学 教育学部教育学科 准教授)
■ごっこあそびと絵本
読者のみなさまは、きっとどなたも何らかのごっこ遊びをしたことがあると思います。おままごと、お店屋さんごっこ、電車ごっこ、●●マンごっこ、怪獣ごっこ、アナウンサーごっこ等々、枚挙にいとまがありません。何か模倣したいものがあれば良いのですから、無限に作り出せると言っていいでしょう。さて、そのごっこ遊びは、実は中々高度な遊びです。つまり、模倣する対象を象徴するような特徴を捉え、それを表現する必要があるのです。例えばおにぎりを身振り手振りで表すとしたら、みなさんはどうしますか?きっと、おにぎりづくりの経験のある大人のみなさまは、三角おにぎりを握る手振りをする方が多いのではないでしょうか?今回の最初の絵本は『おにぎり』です。
■『おにぎり』平山 英三 文 / 平山 和子 絵 福音館書店 1992年
おいしいおにぎりが手軽に買い求められるようになり、私自身も自分のためにおにぎりを作ることは無くなってしまいましたが、それでも、子どものお弁当には、他のおかずは冷凍のから揚げでも、おにぎりは自分で握りました。今にして思うと、ご飯を握りながら愛情を込められるような気がして、何となく自分が落ち着けるからだったと思います。それは全くの自己満足ではあるのですが。絵本の『おにぎり』は大変おいしそうな表紙から始まりますが、まず写真かと見まごう程の迫力を持ったおにぎりに驚かされます。ページをめくると、おにぎりを作る手順が「ごはんを たいて」から、出来上がりまで説明されているのですが、どの見開きも美味しそうなこと。最初の見開きでは、もうご飯が炊けて、ふわーっと立ち上る湯気の中、おしゃもじを使ってご飯をほぐす様子が描かれています。この見開きは、見るからに絵であり写真には見えませんが、寧ろ写真よりも炊き立てのご飯のにおいや、ご飯をほぐす手にかかる湯気の温度や湿度までが伝わってきます。「てのひらに、みずを つけて」「しおを つけて」「うめぼし うめて」「ぎゅっ。ぎゅっ。」とにぎるおにぎりのまぁ美味しそうなこと。最後にクーンと磯のにおいが香る海苔をまいて、おにぎりが出来上がります。絵本を開いては、ページの中でご飯をほぐし、手に水をつけ、塩をつけて、おにぎりをにぎったものです。やがて子どもも、絵本の中で一緒におにぎりをにぎるようになり、二人でおにぎり作りごっこです。でも子どもたちが大好きな場面は、何と言っても一番最後のページです。我が家でも、それから、暫くの間「どうぞ」ごっこをするのが大流行しました。
■『くだもの』平山和子さく 福音館書店 1981年
『おにぎり』のおよそ10年前に出版された『くだもの』は、見開きごとに美味しそうな果物が描かれており、一見知育絵本のようにも見えますが、見開きの右ページは、おそらく大人が剥いた、くだものを、「はい、どうぞ」と手渡す絵です。しかも、果物を差し出す手首から先だけ描かれていますので、まるで読み手の手が絵本の中から果物を渡してくれているように見えます。こうした描き方も、実写ではない絵画だからこその効果でしょう。現実に近い実写より、絵画の方が実際の手を思わせやすいというのは、何だか不思議な気がしますが、絵画であるからこそ、そこに人間の想像力が入り込む余地ができて、「はい、どうぞ」のことばとともに、周りにいる大好きな大人が果物を差し出してくれるところを思わせるのでしょう。子どもたちの大好きな「はい、どうぞ」をしてあげると大喜びです。やがて、子どもたちも、そのぷっくりとした可愛らしい手に果物をつまんで食べさせてくれるでしょう。絵本を読みながら楽しいおやつの時間です。そして、絵本ですから、何らかの話の結末がなければなりません。果たして最後の果物は、子どもの大好物のバナナです。
きっと、絵本を読み終わった途端に、バナナをむいてみたくなることでしょう。
■おわりに
今回ご紹介した絵本はいずれも、読んであげるなら2歳からと紹介されています。たどたどしいながらも「どうぞ」と言えるようになる頃でしょう。どちらの絵本も、大人も、子どもも「どうぞ」「どうも」とやり取りをする、コミュニケーションの楽しさを味わえる絵本だと思います。
『おにぎり』『くだもの』平山 英三 文 / 平山 和子 絵 および、『くだもの』平山 和子 さく の 画像は、福音館書店の著作権規定に則り、福音館書店ホームページより複写掲載しています。
【プロフィール】
松本由美 Matsumoto Yumi
玉川大学教育学部教育学科准教授
津田塾大学学芸学部英文学科卒 同大学院修了
J-SHINE(小学校英語)指導者 絵本専門士
専門は第二言語習得論、文体論、英語教育、児童英語
玉川大学では小学校英語指導者を目指す大学生の指導、並びに第二言語習得に関する講義を担当している。現在、研究は、小学校英語教育の立場から「小学校英語教育における絵本読み聞かせとその効果の見える化」(2018年度学内共同研究)を中心に据え、絵本学の立場からも薦められる小学校英語に用いる絵本リストの作成にも取り組んでいる。
所属学会:小学校英語教育学会 児童英語教育学会 全国英語教育学会 国際幼児教育学会 絵本学会 International Research Society for Children’s Literature、European Network of Picturebook Research 他
出張依頼講演:「絵本で広がる児童英語の世界」 「すすんでコミュニケーションを取ろうとする外国語活動」「子どものそだち、ことばのそだち」
論文:
・「初期英語教育における絵本の有効活用‐児童の自発的反応を引出す「読み聞かせ」の試み」(2015)
・「必修化を見据えた小学校3年生外国語活動の在り方:視覚情報としての文字指導」(2015)
・「小学校英語を取り巻く議論の動向」(2016)
・「特別活動教室English Room の試み」(2016)
・「小学校英語教育における教材用絵本選定基準の試案―絵本リスト作成にむけてー」(2017)
・「英語絵本の読み聞かせの身体性と聞き手の理解」 (2017)
・「主体的・対話的で深い学びの視点で実施する 小学校外国語活動における英語絵本の
選定方法の考察」(2018)など
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