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第15回 あそべる絵本 その3 絵本のえらび方:子どもが手を動かす絵本
2019/09/07
『絵本の世界・絵本と世界』
第15回 あそべる絵本 その3
-絵本のえらび方:子どもが手を動かす絵本

松本由美(玉川大学 教育学部教育学科 准教授)
■子どもが手を動かす絵本
赤ちゃんが絵本でおぼえることの一つにめくるという手の動作があります。赤ちゃんは徐々に自分の両手の存在に気づき、手で触ったり、握ったり、つついたり、そしてめくったり、様々な手の動作を覚えていきます。そして、自分の動作に応じて、何か音がしたり、動いたり、転がったりすることが大好きです。そんな赤ちゃんが楽しめるおもちゃが、たくさんありますが、絵本もめくることによって、絵が変わっていきますので、そうしたおもちゃの一つとの見方もできます。ですから、赤ちゃん絵本として発行されているものは、赤ちゃんが思う存分遊べるように、かじったりなめたりしても害が無いインクで印刷されていたり、赤ちゃんの手を傷つけることがないように厚手の紙で作られたり、角が丸められたり、様々な工夫がされています。我が家の本棚にも、思う存分遊ばれた跡のある絵本が今も残っています。丸かった角が、食いちぎられてさらに丸くなり、中でも大好きだったページは、力加減のできない彼女に勢いよくめくられてついに破れ、セロテープで張り合わせられていて、もうボロボロです。その本には、今でも理由は分からないのですが、特に気に入っている1ページがあって、そのページを読み終わって私がページをめくると、必ず子どもの手が伸びてきてページが戻されます。そうして、暫くの間見つめていて、気が済むとさっと次のページに進むというくり返しでした。そうしている内に、ページが破れ、綴じ糸が外れてしまったのです。何度となく絵本を修繕しながら、面倒くさがりの私は、その絵本に関しては、ページめくりを全て子どもに任せるようになりました。読み終わっても子どもがページをめくるまで待つのです。子どもの手でめくって、進んだり戻ったりできることが絵本の良いところの一つです。
■ちいさなめくりの付いた絵本
『コロちゃんはどこ? 』(児童図書館・絵本の部屋―しかけ絵本の本棚)
エリック・ヒル著 Eric Hill 原作 まつかわゆみ翻訳 評論社 2004年
絵本でページめくりを覚えるといっても、最初から上手にめくれるわけではありません。きちんと大きさの揃って重なったページを1枚だけめくるのは、まだ器用ではない子どもの手の動きには難しいですし、絵本のページは子どもの手には、大きすぎます。そこで、小さなめくり(フラップとも呼ばれます)のついた仕掛け絵本の出番です。
「ごはんの時間ですよ」とコロちゃんを探すママの、行く先々で、小さなめくりが、絵の中に隠されています。中々見つからないコロちゃんは、一体どこにいるのでしょうか?こうした、絵本は解答が分かったら飽きてしまうのかと思いきや、何度も何度も正解できる喜びをかみしめるように、くり返して楽しむことができます。読んであげる大人は、ちょっと退屈してしまうかもしれませんが、子どもたちが気のすむまで楽しませてあげたいですね。
「コロちゃん」はシリーズ絵本になっていますので、お気に召すものを探してみるのも良いですし、英語の「Spot」シリーズも手に入れやすく、英語もシンプルで読みやすいので、英語版を試してみるのも楽しいと思います。
■穴があいた絵本
『ごぶごぶ ごぼごぼ』 駒形克己さく 福音館書店 1999年
造本作家として有名な駒形克己が、福音館書店の月刊絵本「こどものとも012」のために書き下ろした作品です。赤ちゃんも幼児も大好きな、自分の指を入れられる丸い穴が開いていて、その穴は型抜きのように、穴の向こうのページの色を丸く見せてくれます。書影は第4見開きですが、赤い大きな丸の真ん中の小さな水色の丸は、実は丸く切り取られた穴で、次の見開きのある形の一部の色が、見えているだけなのです。そして、『ごぶごぶ ごぼごぼ』という題名からわかるように、各見開きには「ぷーん」とか「ぷくぷくぷく」など音が付けられています。しかも、赤ちゃんが大好きそうな音ばかり。最初は、小さな音が生まれ、何だか楽し気に盛り上がり、そしてやがて終わりになる、そんな物語に読み手もいつの間にか引き込まれてしまう、視覚と聴覚そして触覚の見事なコラボレーションです。
■あそべる絵本の楽しみ方
あそべる絵本、お楽しみいただいているでしょうか?読み手も聞き手も一緒になって楽しめる、そこがあそべる絵本の良いところですが、実は、めくったり触ったり、穴に手を入れたり、色々と一人でも楽しめます。そんな絵本をもう少しご紹介したいと思いますので、もう少し「あそべる絵本」にお付き合いください。
『コロちゃんはどこ? 』(児童図書館・絵本の部屋―しかけ絵本の本棚)の表紙画像は、評論社より著作権許諾を頂き、評論社ホームページより複写掲載しています。
『ごぶごぶ ごぼごぼ』駒形克己さくの表紙画像は、福音館書店の著作権規定に則り、福音館書店ホームページより複写掲載しています。
【プロフィール】
松本由美 Matsumoto Yumi
玉川大学教育学部教育学科准教授
津田塾大学学芸学部英文学科卒 同大学院修了
J-SHINE(小学校英語)指導者 絵本専門士
専門は第二言語習得論、文体論、英語教育、児童英語
玉川大学では小学校英語指導者を目指す大学生の指導、並びに第二言語習得に関する講義を担当している。現在、研究は、小学校英語教育の立場から「小学校英語教育における絵本読み聞かせとその効果の見える化」(2018年度学内共同研究)を中心に据え、絵本学の立場からも薦められる小学校英語に用いる絵本リストの作成にも取り組んでいる。
所属学会:小学校英語教育学会 児童英語教育学会 全国英語教育学会 国際幼児教育学会 絵本学会 International Research Society for Children’s Literature、European Network of Picturebook Research 他
出張依頼講演:「絵本で広がる児童英語の世界」 「すすんでコミュニケーションを取ろうとする外国語活動」「子どものそだち、ことばのそだち」
論文:
・「初期英語教育における絵本の有効活用‐児童の自発的反応を引出す「読み聞かせ」の試み」(2015)
・「必修化を見据えた小学校3年生外国語活動の在り方:視覚情報としての文字指導」(2015)
・「小学校英語を取り巻く議論の動向」(2016)
・「特別活動教室English Room の試み」(2016)
・「小学校英語教育における教材用絵本選定基準の試案―絵本リスト作成にむけてー」(2017)
・「英語絵本の読み聞かせの身体性と聞き手の理解」 (2017)
・「主体的・対話的で深い学びの視点で実施する 小学校外国語活動における英語絵本の
選定方法の考察」(2018)など
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