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第11回 特別企画 祝!“The Very Hungry Caterpillar” (『はらぺこあおむし』)50周年 絵本のえらび方:こどもが遊べる絵本

2019/07/08


『絵本の世界・絵本と世界』


第11回 特別企画 
祝!“The Very Hungry Caterpillar” (『はらぺこあおむし』)50周年
-絵本のえらび方:こどもが遊べる絵本




松本由美(玉川大学 教育学部教育学科 准教授)



■ Fiftieth Anniversary of “The Very Hungry Caterpillar”
(『はらぺこあおむし』50周年)
 
 みなさまこんにちは。お陰さまでこの連載も
11回目を迎えました。小さな節目ですが、特別企画として話題の絵本を取り上げたいと思います。取り上げる絵本は、2019年に大きな節目である、出版50周年を迎える日本でも大人気の『はらぺこあおむし』の原作 “The Very Hungry Caterpillar”(Eric Carle 1969)です。日本語版の50周年記念サイト(
https://www.theworldofericcarle.jp/harapeko50/)1) も開設されていて 日本でも様々な記念イベントが催されるようです。


“The Very Hungry Caterpillar” Eric Carle Philomel Books; Reprint 2018



 まず50の数字と金色の表紙に飾られた、50周年記念版をご紹介しましょう。ここにはEric Carle(エリック・カール、以下、カタカナ表記)から読者への手紙ページや、編集者が語るエリック・カールの生い立ちから“The Very Hungry Caterpillar” 誕生秘話などが、特別記事として掲載されています。その記事によると、「世界中で30秒に1冊売れ、今や62以上の言語で翻訳されて5000万部以上が売れている」2)(原文は英語。本稿筆者試訳)そうです。こうしたアニバーサリーイヤーでなくても、日本でも人気の高いエリック・カールの絵本は、 なぜこんなに世界中で人気なのでしょうか? 

“The Very Hungry Caterpillar”が誕生するまで

 グラフィックデザイナーであったエリック・カールは、
1967年に “Brown Bear, Brown Bear, What Do You See?” (Bill Martin Jr., Eric Carle 1967)で、絵本作家としてデビューを果たし、以来すっかり絵本の面白さに魅せられました。早速、翌年1968年には  “1,2,3 to the Zoo” を出版し、第3作目が“The Very Hungry Caterpillar”になります。最初の作品から、エリック・カールが、ティシュペーパーと呼ばれる薄紙に色を塗ったり模様を付けたりして、その紙を切って貼り付けながら作品を作る、コラージュと呼ばれる手法を用いていることは有名です。ある日、彼は、パンチで紙に穴をあけながら、あおむしが様々な食べ物を食べて、食べたとおりに穴があいていく、というストーリーを思いつき、“The Very Hungry Caterpillar”の試作とも言える、“A Week with Willi Worm” を着想したそうです。しかし、最後に美しい蝶になるという劇的な結末は“The Very Hungry Caterpillar”として完成するのを待たなければなりませんでした。

 さて
“The Very Hungry Caterpillar”の構想が出来上がったものの、次の問題は印刷技術の難しさだったそうです。つまり、月曜日から金曜日まで、毎日1つずつ食べる果物が増えていくことを視覚的に表す、大きさの違うページや、食べた後にできる穴をきれいに、正確に、そして丈夫につくることができ、さらにページを重ねたときに、その穴が月曜日のりんごから日曜日の葉っぱに至るまで、全てぴったり重なるように製本するという、緻密な印刷製本技術を持った印刷所は、その当時のアメリカでは見つからなかったというのです。結局、初版の“The Very Hungry Caterpillar”は、なんと日本の印刷所で作られたとのことです。

□絵本
“The Very Hungry Caterpillar”の魅力

 大勢のこどもたちの前で絵本を読む集団読みでは、こどもたちに人気のページは何と言っても最後の美しい蝶になるページです。小学生ともなると素直に喜びを表さず「キモーい」「そんな蝶々いないよ」などと批評家魂がさく裂します。でも、大いに盛り上がるのは、やはりこの蝶々の出現の見開きなのです。色彩は鮮やかですが、けばけばしくはありません。ティッシュペーパーと呼ばれる薄紙に彩色された色は、染料そのものの色と紙の色が合わせられ、すでに時間を経て、さらに紙の質感も影響し、落ち着いた色合いになるのでしょう。蝶々の色は驚くべき取り合わせではあるのですが、目に刺さるような色合わせではありません。

 そして、一人あるいは少人数のこどもに、この絵本を読む時に人気なのは、蝶々のページの他に、そう、穴のあるページです。小さなゆびを穴にねじ込んでくるこどももいれば、のぞき穴のようにして遊ぶこどももいますし、読み手が穴を使って遊ぶのをじっと見つめるこどももいて、反応は様々です。しかし、やっぱりこどもたちは、この穴が大好きです。こうしたこどもたちの遊び方を想定して、ボードブックと呼ばれる厚手の紙でできた絵本は勿論のこと、どの“
The Very Hungry Caterpillar”でも、穴の切り口でこどもの手を傷つけたりすることがないように、作られています。

 エリック・カール自身が「自分の絵本はおもちゃでもあり、絵本でもある」3)(原文は英語。本稿筆者試訳)と述べているそうですが、この穴や、大きさの違うページ、他の絵本でもエリック・カールの絵本は、おもちゃ絵本の要素を持っているものがあります。こどもたちには、きっと、そうしたエリック・カールの遊び心が伝わるのでしょう。しかし、エリック・カールの絵本だけではなく、こどもの手に持たれることを想定している絵本は、特に文字が読めるようになるまでは、ある意味、どの絵本もおもちゃとして存在するのではないでしょうか。ページをめくってみると別の世界が広がる、めくるという一つの動作で変わる面白さが、こどもの想像力を引き出していくのかもしれません。


おわりに:エリック・カールと日本

 日本におけるエリック・カールの人気も大したものですが、エリック・カールの親日家ぶりも有名です。
Eric Carle Museum of Picture Book Artの公式サイトの設立の経緯
https://www.carlemuseum.org/content/historyによると、「エリック・カール夫妻が2002年に設立したアメリカ合衆国初の絵本ミュージアムであるEric Carle Museum of Picture Book Artは、夫妻が1980年代に日本で訪れたいくつかの絵本美術館に触発されて、着想された」4) (原文は英語、本稿筆者による抄訳)というのです。そして、その設立の趣旨には。絵本を通じて芸術を愛する心や、読むことの楽しみを引き出すことを目的としているとも書かれています。日本で彼の絵本を愛する私たちと、日本を愛し世界中のこどもたちのために絵本を作り続ける彼とのつながりを作っているのは、絵本なのです。小さな絵本が果たす大きな役割を感じずにはいられません。
 
【参考文献・参考サイト】
1)「はらぺこあおむし
TM 50th birthday
https://www.theworldofericcarle.jp/harapeko50/
  (最終アクセス日
2019629日)
2)
‘An Ever Hungry Caterpillar’ in“The Very Hungry Caterpillar”Eric Carle Philomel Books; Reprint 2018(原文は英語、本稿筆者による試訳)
3) 同上(原文は英語、本稿筆者による試訳)
4)
Eric Carle Museum of Picture Book Art / History (原文は英語、本稿筆者による抄訳)
https://www.carlemuseum.org/content/history(最終アクセス日2019年6月29日)





【プロフィール】
松本由美 Matsumoto Yumi
玉川大学教育学部教育学科准教授
津田塾大学学芸学部英文学科卒 同大学院修了

J-SHINE(小学校英語)指導者 絵本専門士

専門は第二言語習得論、文体論、英語教育、児童英語
玉川大学では小学校英語指導者を目指す大学生の指導、並びに第二言語習得に関する講義を担当している。現在、研究は、小学校英語教育の立場から「小学校英語教育における絵本読み聞かせとその効果の見える化」(
2018年度学内共同研究)を中心に据え、絵本学の立場からも薦められる小学校英語に用いる絵本リストの作成にも取り組んでいる。

所属学会:小学校英語教育学会 児童英語教育学会 全国英語教育学会 国際幼児教育学会 絵本学会 
International Research Society for Children’s Literature、European Network of Picturebook Research 

出張依頼講演:「絵本で広がる児童英語の世界」 「すすんでコミュニケーションを取ろうとする外国語活動」「子どものそだち、ことばのそだち」


論文:
・「初期英語教育における絵本の有効活用‐児童の自発的反応を引出す「読み聞かせ」の試み」(
2015
・「必修化を見据えた小学校
年生外国語活動の在り方:視覚情報としての文字指導」(2015
・「小学校英語を取り巻く議論の動向」(
2016
・「特別活動教室
English Room の試み」(2016
・「小学校英語教育における教材用絵本選定基準の試案―絵本リスト作成にむけてー」(
2017
・「英語絵本の読み聞かせの身体性と聞き手の理解」 (
2017
・「主体的・対話的で深い学びの視点で実施する 小学校外国語活動における英語絵本の
  選定方法の考察」(
2018)など