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第9回 ことば・文字であそぶ絵本 その2 -絵本のえらび方:文字と芸術のコラボレーション

2019/06/07


『絵本の世界・絵本と世界』


第9回 ことば・文字であそぶ絵本 その2
-絵本のえらび方:文字と芸術のコラボレーション



松本由美(玉川大学 教育学部教育学科 准教授)


ABCの絵本と早期英語教育
 前回のあいうえおの絵本に引き続いて、今回は
ABCの本をご紹介しましょう。近頃、お子さんにとても早くから英語に触れさせる方が多くなってきたように思います。小学校
3年生から英語教育が始まることが決まってから、特にその傾向が強くなったと私自身も感じています。小学校で英語を学習した時に困らないように、そして大人になった時にも、やはり英語はできるに越したことはない。それならばできるだけ早く英語を始める方が良いと考えるのは、当然の心理かもしれません。しかし、子どもは語学学習においても非常に合理的な考え方をします。つまり、必要と興味のないものには見向きもしません。そこで、周囲の大人は様々なご褒美を提案して、子どもたちに何とか英語に目を向けさせるようにすることになるのです。

 そのご褒美が素敵な絵本というのはいかがでしょうか?美術館や博物館の教育普及活動も盛んな近頃は、子どもたちに自由な形で芸術に触れさせながら、子どもたちの豊かな想像力を引き出すことが、学校現場でも注目されています。こうした、一見、知力に無縁と思われがちな活動が、非認知能力を高め、ひいては人間力を高め、いわゆる知力を得るための活動を含めて、積極的に取り組む人材を育成できると考えられ始めています。

 さて、子どもたちは芸術的価値を理解できるのか?というご心配には及びません。よい絵本の条件⑤芸術性の高い絵(第
5回 昔話絵本の世界その: 48日号)でご紹介したように、芸術の薫り高い絵は、良い絵本の条件の一つですが、むしろ芸術性が高いものほど子どもたちを惹きつけることができるでしょう。コミュニケーションをとるための記号として生み出された文字に、どのような美しさを見出し、どのように芸術的価値を与え、描き出しているのか。また、単なる文字の羅列にならないように絵本という芸術形態を生かしているのか、見ていきましょう。

■『
ABCの本 へそまがりのアルファベット』安野光雅 作 福音館書店 1974
 
    
 

 前回ご紹介した『あいうえおの本』(安野光雅著 福音館書店1976年)の作者、安野光雅の『
ABCの本 へそまがりのアルファベット』です。既に画家として活躍していたことは前回お話しましたが、この本でも、木で作られたアルファベットの文字とその文字で始まるものだけで、文字の美しさ、その文字で広がる世界が描かれ、ことばは付けられていません。木目の美しさを生かした木工細工品のような文字は、既に文字を描いた絵であり、その文字で始まるものも、それが何なのか名前も付されていません。まさしく絵画だけで描き出す文字の世界と言えるでしょう。ページ構成も『あいうえおの本』と同じように木でつくられたアルファベットの文字が見開きの左ページに配置され、見開きの右ページには、その文字で始まるものが描かれています。そして、どちらもやはり、繊細なフレーム模様で囲まれていて、文字も、文字で始まるものも、そして二つ合わせた見開きの状態でも、思わず飾っておきたくなるような、絵画として鑑賞することができる画集のようなABC Bookです。

■『ワイルドスミスの
ABC』ブライアン・ワイルドスミス らくだ出版 2000
 ブライアン・ワイルドスミスが描く、アルファベットの文字で広がる絵の世界を描いた、画集のような絵本です。見開きの左ページにその文字で始まる単語、そして右ページにはその単語のものが一度見たら忘れられないような印象的な油彩で、ブライアン・ワイルドスミス独自の鮮やかな色彩で描かれています。
ABC Bookではあるのですが、文字は単体で取り上げられていません。単語の冒頭の文字が白く印字され、アルファベット26文字は単語の文字を見ていくと分かるという仕組みです。背景は、左ページも右ページもほぼすべて着色されており、安野光雅の描くABC Bookとは全く異なる、しかしこちらも画集のような美しい作品です。文字単体で描くのではなく、あくまで単語のなかの文字を白く強調することで、アルファベットを意識させるところに、教育的な配慮を感じます。

■おわりに
 今回ご紹介した
2冊の絵本はどちらも、文字、ことばの絵本でありながら、絵で想像させる文字、ことばの世界です。物語が添えられていませんので、読者はアルファベットの26文字が持つ世界観を、絵から紡ぎだしていくことになります。それでも、この画集のような2冊のABC Bookのページを何度となくめくっているうちに、何となく文字も印象に残るのが不思議です。次回も引き続きABC Bookにお付き合いください。

(絵本表紙画像について:『
ABCの本 へそまがりのアルファベット』は福音館書店「著作物の利用について」に従い、福音館書店ホームページより複写掲載しています)

【参考文献】 
生田美秋・石井光恵・藤本朝巳『ベーシック絵本入門』ミネルヴァ書房
2013


【参考サイト】

https://www.ehonnavi.net/ehon/17568/%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%AB%
E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%81%AEABC/



【プロフィール】
松本由美 Matsumoto Yumi
玉川大学教育学部教育学科准教授
津田塾大学学芸学部英文学科卒 同大学院修了

J-SHINE(小学校英語)指導者 絵本専門士

専門は第二言語習得論、文体論、英語教育、児童英語
玉川大学では小学校英語指導者を目指す大学生の指導、並びに第二言語習得に関する講義を担当している。現在、研究は、小学校英語教育の立場から「小学校英語教育における絵本読み聞かせとその効果の見える化」(
2018年度学内共同研究)を中心に据え、絵本学の立場からも薦められる小学校英語に用いる絵本リストの作成にも取り組んでいる。

所属学会:小学校英語教育学会 児童英語教育学会 全国英語教育学会 国際幼児教育学会 絵本学会 
International Research Society for Children’s Literature、European Network of Picturebook Research 

出張依頼講演:「絵本で広がる児童英語の世界」 「すすんでコミュニケーションを取ろうとする外国語活動」「子どものそだち、ことばのそだち」


論文:
・「初期英語教育における絵本の有効活用‐児童の自発的反応を引出す「読み聞かせ」の試み」(
2015
・「必修化を見据えた小学校
年生外国語活動の在り方:視覚情報としての文字指導」(2015
・「小学校英語を取り巻く議論の動向」(
2016
・「特別活動教室
English Room の試み」(2016
・「小学校英語教育における教材用絵本選定基準の試案―絵本リスト作成にむけてー」(
2017
・「英語絵本の読み聞かせの身体性と聞き手の理解」 (
2017
・「主体的・対話的で深い学びの視点で実施する 小学校外国語活動における英語絵本の
  選定方法の考察」(
2018)など

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