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第8回 ことば・文字であそぶ絵本 その1

2019/05/22


『絵本の世界・絵本と世界』


第8回 ことば・文字であそぶ絵本 その1
-絵本のえらび方:文字の美しさと、ことばのリズムを味わう



松本由美(玉川大学 教育学部教育学科 准教授)


■よい絵本のふやし方
 これまで、7回に渡り昔話絵本をご紹介しながら、よい絵本の条件をご紹介してきました。
皆さまの中には、よい絵本のイメージができてきたのではないでしょうか?さらに、「よい絵本」といわれているものを、手に取ることで、さらに皆さまの絵本を見る目が確かなものになっていきます。様々なよい絵本をみていきましょう。

 今回はお話の絵本を離れて、文字の絵本です。そろそろおしゃべりも板についてきた子どもたちが、これから文字を覚えようとするとき、絵本はその一つの手段になります。
しかし、知育目的だけなら、ひらがなかるたや、ワークブック、ひらがな表でもよいのであって、何も絵本である必要はありません。絵本であるからには、一つひとつの文字の形状的美しさが伝わり、文字の連続が、どこかリズミカルな歌のようになり、絵本の形状を生かした物語が語られなければなりません。それが今回ご紹介するよい絵本の条件です。

■『あっちゃんあがつくたべものあいうえお』みね よう(原案)さいとう しのぶ  (著)
  
2001 リーブル


   

次々登場する、おいしそうなたべものを楽しく歌っているうちに、あっという間に「あいうえお」を覚えてしまいそうです。ともすると無味乾燥になりがちなものは、歌で楽しく覚えるのが一番とばかりに、わらべうたを思い起こさせるようなリズミカルな文が続きます。そして、そのわらべうた調のリズムの文を彩る絵は、レトロな雰囲気の色調とデザインで描かれています。この絵本を読み聞かせる大人たちは、誰しもどこか懐かしさを覚えることでしょう。そして、「あっちゃん、いっちゃん、うっちゃん、・・・」と順番に呼ばれる食べ物たちは、それぞれの画面の中でじっとしてはいません。追いかけっこするアイスクリームや、こんがり焼けたトーストにたっぷりとジャムをのせているいちごじゃむさん。「ぼくにも塗ってよ」と言わんばかりのクラッカーさん。えびふらいさんは、衣をまとって自らお鍋にダイブ!食べ物たちの、にぎやかな声が聞こえてくるようです。

 どの見開きでも、左側のページでは「あっちゃん、あがつく、あいすくりーむ」と文が大きく描かれていて、ことば
のためのページですが、呼ばれた食べ物が、ちょっと左側にも登場して、右側のページのドラマにつなげています。右側のページでは、その食べ物たちのドラマが、ページ一杯を使って展開されています。まるで、あいうえお劇場です。そして、いつかカタカナを覚えるときのために、「あいすくりーむ」にも、「じゃむ」にも、小さくカタカナが添えられています。いつか、子どもたちがカタカナの存在に気づき、「どうして、じゃむじゃなくてジャムなの?」と子どもたちから質問攻めにされる日が楽しみです。

■『あいうえおの本』     安野光雅 作 福音館書店 
1976


 
 既に画家として活動していた安野光雅氏は、
1971年『ふしぎなえ』(で絵本作家としてデビューし、この『あいうえおの本』は1976年の出版です。この絵本には言葉はありません。見開きの左側には、「あいうえお・・・」の順でひらがなが一文字、木で組み立てられた文字のように、美しい木目とともに描かれていて、見開きの右側には、その文字で始まるものが描かれています。どちらも背景は白ですが、それぞれ登場するものたちを基調にした繊細なフレーム模様で囲まれていて、文字も、文字で始まるものも、そして二つ合わせた見開きも、絵として鑑賞することができます。福音館書店の案内によると、「読んであげるなら:4才から 自分で読むなら:小学低学年から」とありますが、表紙絵とともに全編端正なつくりになっているこの絵本を手に取り、小さな子どもには難しいのでは?とご心配される方もいらっしゃるかもしれません。でも、ご心配には及びません。小さな子どもたちでも、本物を見抜く力を持っています。むしろ大人が見過ごしがちな細部まで、気づき味わい反芻しているのだと思います。

 この作品は、文字を描いた絵本ですが、ことばは添えられていない絵本、いわゆる文字なし絵本と呼ばれる絵本です。文字なし絵本を読み聞かせるときには、大人が自分でことばを考え、子どもに聞かせなければなりませんので、少し心の準備が必要です。私自身も、子育て真っ最中であったころは、文字なし絵本を億劫に感じたのを覚えています。でも、よい絵本に触れさせたいという思いで、安野氏の文字なし絵本も読み聞かせました。でも、セリフを考えるなどということはせず、ゆったりと絵を味わいながら、語りかけてください。いつの間にか、オリジナルの物語が登場しているはずです。

■おわりに
 ご紹介した対照的な
2作品、いかがでしたでしょうか?『あっちゃんあがつく―たべものあいうえお』(さいとうしのぶ)は絵本ナビのサイトで「ちょっとためしよみする」ことができますし、『あいうえおの本』(安野光雅)は。福音館書店のサイトで中を見ることができます。図書館や書店に行く時間は無いけれど、絵本を見てみたいという方は、ぜひご活用ください。
(絵本表紙画像について:
『あっちゃんあがつくたべものあいうえお』は絵本ナビのサイト掲載表紙画像使用をリーブル社承諾のうえ、
『あいうえおの本』は福音館書店「著作物の利用について」に従い、福音館書店ホームページより複写掲載しています)


【参考文献】 
生田美秋・石井光恵・藤本朝巳『ベーシック絵本入門』ミネルヴァ書房
2013


【参考サイト】
絵本ナビ『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』

https://www.ehonnavi.net/ehon/1885/%E3%81%82%E3%81%A3%
E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%82%E3%81%8C%E3%81%A4%
E3%81%8F%E3%81%9F%E3%81%B9%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%82%
E3%81%84%E3%81%86%E3%81%88%E3%81%8A/


福音館書店 『あいうえおの本』
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=251



【プロフィール】
松本由美 Matsumoto Yumi
玉川大学教育学部教育学科准教授
津田塾大学学芸学部英文学科卒 同大学院修了

J-SHINE(小学校英語)指導者 絵本専門士

専門は第二言語習得論、文体論、英語教育、児童英語
玉川大学では小学校英語指導者を目指す大学生の指導、並びに第二言語習得に関する講義を担当している。現在、研究は、小学校英語教育の立場から「小学校英語教育における絵本読み聞かせとその効果の見える化」(
2018年度学内共同研究)を中心に据え、絵本学の立場からも薦められる小学校英語に用いる絵本リストの作成にも取り組んでいる。

所属学会:小学校英語教育学会 児童英語教育学会 全国英語教育学会 国際幼児教育学会 絵本学会 
International Research Society for Children’s Literature、European Network of Picturebook Research 

出張依頼講演:「絵本で広がる児童英語の世界」 「すすんでコミュニケーションを取ろうとする外国語活動」「子どものそだち、ことばのそだち」


論文:
・「初期英語教育における絵本の有効活用‐児童の自発的反応を引出す「読み聞かせ」の試み」(
2015
・「必修化を見据えた小学校
年生外国語活動の在り方:視覚情報としての文字指導」(2015
・「小学校英語を取り巻く議論の動向」(
2016
・「特別活動教室
English Room の試み」(2016
・「小学校英語教育における教材用絵本選定基準の試案―絵本リスト作成にむけてー」(
2017
・「英語絵本の読み聞かせの身体性と聞き手の理解」 (
2017
・「主体的・対話的で深い学びの視点で実施する 小学校外国語活動における英語絵本の
  選定方法の考察」(
2018)など