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第7回 昔話絵本の世界 その6

2019/05/07


『絵本の世界・絵本と世界』


第7回 昔話絵本の世界 その6
-よい絵本の条件⑦語りやすく美しいことば



松本由美(玉川大学 教育学部教育学科 准教授)


■日本の五大昔話
 さて、前回取り上げた『ももたろう』に引き続き、日本の五大昔話の4作品を取り上げて、昔話絵本のシリーズを終えましょう。日本の昔話の代表作の選定には諸説ありますが、ここでは松居直氏が『絵本のよろこび』(NHK出版
2003p.217)で、日本の五大昔話としている、「桃太郎」「猿蟹合戦」「かちかち山」「花咲爺」「舌切雀」を紹介します。前回の『ももたろう』に引き続き、赤羽氏の絵による作品をみていきましょう。

■『かちかちやま』(日本傑作昔話) 小澤 俊夫 再話 / 赤羽 末吉 画 福音館書店 
1988

 


■『したきりすずめ』 石井桃子 再話 / 赤羽 末吉 画 福音館書店 
1982
 
 
 
この二作品は、同じ画家の絵とは思えないほど、前回の『ももたろう』とは全く印象が異なり、福音館書店の
HP「「丹緑本」のような色付け」と紹介されるように、絵巻物のような独特の色付けが目を惹きます。「丹緑本(たんろくぼん)」とは、国立国会図書館会館60周年記念『学ぶ・集う・楽しむ』によると「寛永-万治頃(1624-61)の京都の版元が、御伽草子、仮名草子等の版本の挿絵に、丹(鉛丹)、緑(岩緑青)、黄等の筆彩色を施したものを指す。時期や題材などは奈良絵本と重なる部分が多い。その名称もやはり近代になってからのものである。」(国立国会図書館会館60周年記念『学ぶ・集う・楽しむ』HPより)と説明されています。

 赤羽末吉は様々な職業に就きながら独学で日本画を学びましたが、
50歳の時に『かさじぞう』(瀬田貞二 再話 赤羽末吉 画  福音館書店1966)で絵本画家としてデビューした後も、日本画の技法とともに、絵本の絵の技法を学び続けました。つまり、絵本の絵には、その場面ごとの物語の展開や、次の場面との連続性が表されなければなりませんが、赤羽はそれを絵巻物に学んだそうです。また、伝承の物語は一連の物語をいくつかの場面に割り付けて、再構成していかなければならないのですが、赤羽はその割り付けや再構成を舞台演劇に学び、舞台芸術にも似た見開きの画面構成を創りだしました。こうした赤羽末吉だからこそ再現された物語絵の技法でしょう。良い絵本作品であるためには、一流の絵と一流のことばを兼ね備え、さらにその二つが掛け合いのように分かちがたく融合され、相乗効果を持つものでなくてはなりません。これらの作品は赤羽の画家としての真摯な姿勢と、日本の伝承物語を本来の姿に戻し後世に伝えようとしている、小澤俊夫、松谷みよ子、瀬田貞二、松居直といった人々の再話があったからこそ、現在でも名作として私たちの手元にあるのです。

■『かにむかし』木下順二 文 / 清水 崑 絵 岩波書店 
1959年(大型絵本1976
年)
 
 
 「さるかに合戦」「さるかに」などのタイトルでも知られる物語です。ここでは木下順二の文による「かにむかし」取り上げて、よい絵本の条件を考えてみます。一般的に絵本作品が作られる時、物語が先で後に絵が描かれる場合でも、その逆である場合でも、物語のことばは、物語を作る作家が、絵本を読む(あるいは読んでもらう)子どもたちに合わせて作家自身が選んだことばで語っています。しかし伝承物語では物語の内容は決まっていても(実は内容にも様々なバリエーションがあるのですが)ことばや文体が固定されているわけではなく、語り手の大人が、それぞれ語り手自身のことばで語り継いできたものですから、決まったことばや言い回しがあるわけではありません。ですから伝承物語を絵本にする時には、話の内容を聞き取った後、再話者がことばを選んで文章を再構成していかなければなりません。地域に伝わる地域のことばで語り継がれた物語でも、絵本にする時には全国の子どもたちに分かることばに変えて、しかし、語り継がれてきた地域の風土や、独自の文化を伝えることができることばで書かれなければならないのです。もちろん、伝承物語独特のゆったりとした語りの口調も残さなければなりません。これらを考慮した昔話絵本にふさわしい文体とは何でしょうか?

 まず第一に、くり返しです。音のくり返し、単語のくり返し、文のくり返しパターンとそこに織り込まれる少しずつの変化、そして文章レベルのくり返しと少しずつの変化によって、まるで詩歌のように語る者が声に出しては語呂が良く、聞く者にとっては耳心地の良いリズムに乗せて語られる文体でなければならないでしょう。前回取り上げた『ももたろう』でももたろうの成長する様を語った
「一ぱいたべると、一ぱいだけ、二はいたべると、二はいだけ、三ばいたべると、三ばいだけ、大きくなる。」は見事なくり返しと変化のバランスです。くり返しで調子を整え、数字を順に増やすことによって、ももたろうの成長する様を見事に描き出しています。『かにむかし』では、かにが大好きなかきのたねを蒔いて、育てるところにこの手法が用いられ、かきの成長が描かれています。

 次に、語り口調です。『かにむかし』の冒頭では、かにがかきのたねを見つけてよろこぶ様が
「こらあ ええもんがあった。いっちょ うちのにわに まいてみよう」と書かれています。このような地域方言のように温かく人情味のある語り口でありながら、特定の地域に限定され過ぎないことが重要です。木下順二は、東京出身でありながら、こうした方言のような昔話にふさわしいおっとりした、その場で語りを聞いているように感じさせる文体を創りだしています。今回のよい絵本の条件は、⑦語りやすく美しいことばです。
こうした語り口が、漫画家である清水崑のユーモラスな絵と相まって、この本をさるとかにの合戦ではなく、やりとりとして描きだしているのです。

■『田島征三の「花さかじいさん」花じんま』田島 征三 再話・絵 福音館書店 
2013
 
 
 最後に、ちょっと楽しい地域方言で書かれた絵本『田島征三の「花さかじいさん」花じんま』をご紹介しましょう。土佐弁で書かれたこの絵本は、タイトルも『花じんま』ですが、このままでは全国に通じるわけではないので、副題がつけられています。絵とともにお話を楽しむ絵本であればこそ、楽しめる土佐弁の語りです。

 さて今回で昔話絵本のシリーズはおしまいです。
6回に渡ってお届けした、昔話絵本はいかがでしたでしょうか?お手に取られたら、声に出して読んで、絵とともに語りを味わっていただけたらと思います。絵本は、先にお話したように絵とことばの総合芸術ですが、そのことばは、昔話絵本に限らず、何らかの声に出して語られることを前提にしています。ぜひ、五感で絵本をお楽しみください。
(絵本表紙画像は福音館書店「著作物の利用について」および、岩波書店「書影(絵本画像)のご利用」に従い、各出版社のホームページより複写掲載しています)

【参考文献】 
・松居直『シリーズ・松居直の世界③ 翻訳絵本と海外児童文学との出会い』ミネルヴァ書房 2014
・松居直『絵本のよろこび』NHK出版
2003
・国立国会図書館会館60周年記念『学ぶ・集う・楽しむ』(最終アクセス日
201951日)

https://www.ndl.go.jp/exhibit60/copy3/2naraehon.html





【プロフィール】
松本由美 Matsumoto Yumi
玉川大学教育学部教育学科准教授
津田塾大学学芸学部英文学科卒 同大学院修了

J-SHINE(小学校英語)指導者 絵本専門士

専門は第二言語習得論、文体論、英語教育、児童英語
玉川大学では小学校英語指導者を目指す大学生の指導、並びに第二言語習得に関する講義を担当している。現在、研究は、小学校英語教育の立場から「小学校英語教育における絵本読み聞かせとその効果の見える化」(
2018年度学内共同研究)を中心に据え、絵本学の立場からも薦められる小学校英語に用いる絵本リストの作成にも取り組んでいる。

所属学会:小学校英語教育学会 児童英語教育学会 全国英語教育学会 国際幼児教育学会 絵本学会 
International Research Society for Children’s Literature、European Network of Picturebook Research 

出張依頼講演:「絵本で広がる児童英語の世界」 「すすんでコミュニケーションを取ろうとする外国語活動」「子どものそだち、ことばのそだち」


論文:
・「初期英語教育における絵本の有効活用‐児童の自発的反応を引出す「読み聞かせ」の試み」(
2015
・「必修化を見据えた小学校
年生外国語活動の在り方:視覚情報としての文字指導」(2015
・「小学校英語を取り巻く議論の動向」(
2016
・「特別活動教室
English Room の試み」(2016
・「小学校英語教育における教材用絵本選定基準の試案―絵本リスト作成にむけてー」(
2017
・「英語絵本の読み聞かせの身体性と聞き手の理解」 (
2017
・「主体的・対話的で深い学びの視点で実施する 小学校外国語活動における英語絵本の
  選定方法の考察」(
2018)など