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第1回 「小学校英語教育と絵本」

2019/02/07

新連載
『絵本の世界・絵本と世界』


第1回 「小学校英語教育と絵本」



       
               
           松本由美(玉川大学 教育学部教育学科 准教授)
 

■小学校英語教育と英語絵本
 読者のみなさま、はじめまして。今月から連載でお目にかかる松本由美と申します。どうぞよろしくお願いいたします。第二言語習得理論を専門としておりますが、大学では、その理論に基づく小学校英語教育の方法を教えております。

 小学校
3年生に始まる英語教育が、2020年度に公立小学校でも導入されるということは、様々なニュースメディアでも取り上げられることが多くなりましたので、お聞き及びの方が多いと思います。日本の義務教育を受ける子どもは誰でも、小学校3年生には英語を学び始めることになります。このことは、国際社会を担う子どもたちを育てるという社会の要請からだけではなく、様々な言語習得理論と実験検証にもとづいて導入されることになったもので、その指導法も構築されつつあります。その小学校英語教授法を構築する際の依拠理論の一つに、インプットーインタラクション理論(Long 1996)があります。これは、ごく簡単に申しますと、文字通りに第二言語の適正なインプットを受け、学びつつあることをアウトプットして、双方向に興味や必然性を持った話題についてやり取りをすることにより、第二言語習得が進んでいくというものです。

 さて、小学校
3年生からの英語教育に、もっとも適切なインプットとは何でしょうか?小学校3年生と言えば、ことばの発達段階としては、ようやく母語の生活言語が出来上がる年頃です。その子どもたちが、普段の生活で使うことのない外国語を学ぶ時にふさわしいインプットは、熟慮の上選ばれなければなりません。インプットされたことばは、子どもたちの中に蓄積されて、模倣を経て、子どもたちからアウトプットとされるのです。理論を紐解くまでもなく、子どもたちに与えるインプットこそが、これからの世界を担う子どもたちの英語の質を決める第一歩だということがわかります。

■良い絵本をえらぶ目
 研究と実践を進めるうちに、英語のよい絵本こそ日本の小学校英語のインプットに相応しいと考え、英語の絵本を使った授業を学会でお知らせしてきました。英語の絵本を使った授業を提案をする中で、私がその授業に相応しいインプットとなる絵本をご紹介してきましたが、英語の絵本をもっと数多く紹介してほしいというご要望をいただくことが多くなりました。絵本としての良書は数多く存在します。しかし、それらがすべて日本の子どもたちの英語教育に適しているわけではありません。また、子どもたちの年齢や状況によっても異なってくるでしょう。そこで、必要な時にいつでも良い絵本を選ぶことができる、指標のようなものがあったらと考えるようになり、ご提案したのが松本(
2017)です。しかし、これはあくまでも小学校で英語を教えるときに良い絵本を選ぶ指標です。

 ただ、いつでも、誰にでも、安心して手に取ることができる良い絵本の絶対条件ともいえるものが、あるのだろうと思います。この連載では、良い絵本の条件を軸に名作とばれる絵本を取り上げながら、絵本の中に潜む奥深い世界をご紹介していきたいと思います。やがて皆さまご自身が、良い絵本を選び、日本の子どもたちに、絵本のまわりに広がる世界を見せてやってほしいと思います。また良い絵本は、すぐに様々な言語に翻訳される昨今です。翻訳することによって、
1冊の絵本が2冊にも、3冊にもなるのですから、良い絵本を見出す皆さまの役割の大きさは測り知れません。

■良い絵本の条件 ①ロングセラー
 たとえば、身近にいる子どものために絵本を選ぶとき、特に意図することがなければ「おすすめの絵本」を先ずは手に取ってみるでしょう。そして、そのおすすめは、通常ロングセラー、長く読み継がれてきた絵本です。凡(およ)その検討として、二十歳を超えた絵本、つまり初版から
20年読み継がれてきた絵本は、安心して手に取ることができると言われています。20年とは本当に長い年月ですが、時間の流れに堪えられなければ良書とは言えないということになります。

 最初は長く読み継がれている絵本の中から、グリム童話の絵本をご紹介したいと思います。グリム童話は、『白雪姫』、『赤ずきん』、『ヘンゼルとグレーテル』など、日本の子どもなら誰しも一度はその名を聞いたことがある童話集ですが、グリム兄弟の兄ヤーコブ・グリムは言語学者としても有名です。兄弟は『ドイツ語辞典』を編纂する傍ら、ドイツに伝わる昔話を採集して『子どもと家庭のための昔話集』として出版しました。彼らが集めた童話は伝承されてきたものであり、絵本のために書かれたものではありませんが、世界中で絵本作家の手により絵本にされています。
1960年代からフェリックス・ホフマンやバーナディット・ワッツなどの絵本が日本語でも出版され、日本の児童文学界にも大きな影響を及ぼしました。そして、凡(およ)そ半世紀を経た今でも、子どもたちに読み継がれています。

 次回は、フェリックス・ホフマンの作品を中心に、グリム童話の名作と呼ばれる絵本を取り上げながら、見どころをご紹介したいと思います。

 ■おわりに
 最後に、この連載では、なるべく手に入りやすい絵本を中心にご紹介していきます。気になる絵本があったら、ぜひ、実際に手に取ってご覧になり、声を出して読んでみてください。絵本の世界は、めくる人の手のぬくもりを通して広がる世界であり、絵本のことばは、人の声を通して心に滲み入っていくものなのです。



【参考文献】
Long, Michael (1996). "The role of the linguistic environment in second language acquisition". In Ritchie, William; Bhatia, Tej. Handbook of Second Language Acquisition. San Diego: Academic Press.
 

松本由美(
2017).「小学校英語教育における教材用絵本選定基準の試案―絵本リスト作成にむけてー」『玉川大学リベラルアーツ学部研究紀要』第10号.



【プロフィール】
松本由美 Matsumoto Yumi
玉川大学教育学部教育学科准教授
津田塾大学学芸学部英文学科卒 同大学院修了

J-SHINE(小学校英語)指導者 絵本専門士

専門は第二言語習得論、文体論、英語教育、児童英語
玉川大学では小学校英語指導者を目指す大学生の指導、並びに第二言語習得に関する講義を担当している。現在、研究は、小学校英語教育の立場から「小学校英語教育における絵本読み聞かせとその効果の見える化」(
2018年度学内共同研究)を中心に据え、絵本学の立場からも薦められる小学校英語に用いる絵本リストの作成にも取り組んでいる。

所属学会:小学校英語教育学会 児童英語教育学会 全国英語教育学会 国際幼児教育学会 絵本学会 
International Research Society for Children’s Literature、European Network of Picturebook Research 

出張依頼講演:「絵本で広がる児童英語の世界」 「すすんでコミュニケーションを取ろうとする外国語活動」「子どものそだち、ことばのそだち」

論文:
・「初期英語教育における絵本の有効活用‐児童の自発的反応を引出す「読み聞かせ」の試み」(
2015
・「必修化を見据えた小学校
年生外国語活動の在り方:視覚情報としての文字指導」(2015
・「小学校英語を取り巻く議論の動向」(
2016
・「特別活動教室
English Room の試み」(2016
・「小学校英語教育における教材用絵本選定基準の試案―絵本リスト作成にむけてー」(
2017
・「英語絵本の読み聞かせの身体性と聞き手の理解」 (
2017
・「主体的・対話的で深い学びの視点で実施する 小学校外国語活動における英語絵本の選定方法
の考察」(
2018)など