大きくする 標準 小さくする

第34回 すんなり入れる特許翻訳 ― 「照明制御システム」の特許訳

2022/05/07

特許翻訳入門 

第34回  「照明制御システム」の特許訳

奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍。
バベル翻訳専門職大学院(USA)では 第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて
「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当 

 
 
 では今回も特許6,751,605号を訳していきます。

文例1

               分解して訳します
                   ↡

 下の図を見て、「各ブロック83には、色彩と照明方法が表現されている」ことが見てみてとれるでしょう。

 

     特許6751605号 図8(J-PlatPat(特許庁、INPIT)よりダウンロード

 各ブロックには色彩が付されており、「点灯」「点滅」など照明方法が記載されています。これが「色彩と照明方法が表示されている」という意味です。

 ではこれをどう英訳すればよいでしょうか?
2通りの方法があります。

 訳例1:「各ブロックの上には、色彩と点灯方法が表示されている」
 “A color and a lighting method is expressed on each block”.

 訳例2:「各ブロックは、色彩と点灯方法を表現している」
 “Each block expresses a color and a lighting method”.

 注)訳例1は受動態を使いますが、その動作の主体はこのブロックの製作者です。しかしこれは文章には表れていないため、動作の主体は省略しています。
 訳例2は実際にはブロック上に表現されているものの、「ブロックが表現している」のように無生物主語を使っています。

注)「各ブロック」はeach blockと訳しています。他の訳例としてrespective blocksと訳すこともできます。eachは単数形の名詞に付し、respectiveは複数形の名詞に付することができます。respective blocksと訳したときは、colors, lighting methodsのように「色彩」「点灯方法」も複数形にする必要があります。
 ただしこの訳はあまりお勧めできません。数の関係が不明確になるからです。以下を見てください。
 訳例1 “Colors and lighting methods are expressed on respective blocks”.
 訳例2  ”Respective blocks express colors and a lighting methods”.

 これらの訳は「ブロック」と「色彩、点灯方法」が一対一で対応していることが明確になっていません。「複数のブロックに対して、複数の色彩と点灯方法が表現されている」ことが表現されているだけです。そこで、ここではeach blockと訳すことをお勧めします。

   
   
 



   訳)A user can edit intuitively.

 直訳するとこの通りになりますが、あまり良い訳ではありません。editの目的語がないからです。editは他動詞であり、自動詞ではありません。したがって目的語が必要です。
 “edit a book”
本を編集する)
 “edit a newspaper article”
新聞記事を編集する)
   ↑
 このように目的語を付します。「ユーザは編集作業を行う」には2つの訳例があります。
 i)「ユーザは~の編集作業をする」と訳す
 ii)「編集作業を行う」のように、「編集作業」を目的語にしてしまい、「行う」という動詞を使うという方法があります。

 i)の訳例
 「何を編集するか」を明細書から見つける必要があります。明細書を「編集」の言葉で検索すると、「ユーザによる照明制御データの編集」という言葉があります。つまり「照明制御データを編集する」が正解です。したがってこれを補って訳すのが一つの訳例です。
 “A user can edit lighting control data”.

 ii)の訳例
 「ユーザは編集作業を行う」
 “A user conducts editing work”.
 “A user conducts editing a task”.
 「作業」の訳語としてこのworkとtaskが考えられます。workは(仕事、作業、労働の意味のときは)不可算名詞、タスクは可算名詞であるため、workは無冠詞、taskは複数形で使っています。
 ではこの訳をDeepL®翻訳ではどう訳しているでしょうか?
 “User performs an editing task”.
 “User performs editing work”. 
    ↑
 このように動詞performを使っており、これに合わせることとします。またtask, workの可算、不可算もきちんと考慮され、複数形、無冠詞としている点も評価できます。
 “task”が複数形になっていることから、複数の作業と捉えられていることがわかります。ちなみに編集作業とは、以下の図からわかるように、楽譜を区切って照明の種類を指定する作業です。明細書には「80」は編集画面として指定されています。

 もう1点の問題は、「ユーザ」を単複いずれで使うかということです。
 「ユーザが編集作業を直感的に行う」という場合は、複数のユーザを指していると考えられますが、一人一人のユーザの編集作業を意味しているため、ここでは単数形で使うこととします。

 “A user performs editing work”.
 “A user performs an editing a task”.
 注)なお、workは「作業」の意味のときは不可算名詞であるため、sを付けません。ただし、workは常に不可算名詞というわけではなく、「作品、著作、土木工事」などを意味するときは可算名詞で複数形とすることができます(Weblio英和辞典・和英辞典(https://ejje.weblio.jp/content/work))。



 下線部をどのようにつなげるか?という問題もあります。これにはいくつもの訳例があります。

 訳例1)
 各ブロック83には、~が表現されている。従って(そこで等)、ユーザは直感的に編集作業を行うことができる
 
 Each block 83 expresses ・・・. Therefore (accordingly), a user can perform an editing task intuitively.

 注)このように、1つの文章を2つに区切り、「したがって、それゆえに、そこで」等、順接を表す接続詞でつなぐことができます。As a result(その結果)というフレーズでつないでもよいです。

 訳例2)
 各ブロック83には、~が表現されており、これにより、ユーザは直感的に編集作業を行うことが可能となる

 Each block 83 expresses, which allows a user to perform an editing task intuitively.

 注)前の文章全体を先行詞とする関係代名詞を使います。「ユーザは~をすることができ」は、主語が目的語に対して「~することを許可する、可能にする、~させる」ことを表すフレーズを使います。
・・・allows 目的語 to ・・・ 
(目的語が~することを許可(可能にする)する
・・・enable 目的語 to ・・・
(目的語が~することを可能にする
・・・leads 目的語 to ・・・
(目的語が~するように導く

 ここでは、ユーザ(目的語)が「直感的に編集作業ができるようになる」ので、allow, enableの構文を使います。このときの主語は言うまでもなく、前の文章全体です。

            ☟
以上を総合して以下の和文を英訳すると、

 各ブロック83には、色彩と照明方法(点灯、点滅等)が表現されているため、ユーザは直感的に編集作業を行うことができる。

 Each block 83 expresses a color and a lighting method such as lighting, blinking, which allows a user to perform an editing task intuitively.

 
 「照明方法(点灯、点滅等)」のように日本語では括弧内に具体例が記載されていても、英訳では括弧を外して具体例を列挙します(ただし、括弧を付して具体例を挙げる英訳もあります)。
“lighting methods such as lighting, blinking”
“such as”が具体例を挙げるフレーズであるため、”… such as … etc.”のようにetc.を付さないようにしましょう。
 あるいはor the like (and the like)も付する必要はありません。

 文例2

          この文章は以下の3文に分けて訳します。
①ユーザは、各ブロック83の終端部にマウスカーソル84を置く。
②ユーザは左右にドラッグする。
③これにより、その横幅(=時間幅)を加減できる

   
             A user places a mouse cursor 84 on the terminal end part of each block 83.
 
 「終端部」とは以下の図の赤枠の部分を指しています。ここにカーソルを置くことを意味しています。「終端部」は「ケーブル終端部」のような場面でよく使われます。このときは”termination connecting part”のように訳されることがあります。しかし、ここではケーブルではなくブロックです。単なる「端部」の意味ですが、endと訳すと、もう一方の端部も指し、どちらの端部か区別できないため、”terminal end part”と訳すこととします。
 これは訳語の創造です。 


 



【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)

「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ
)所
「特許翻訳は誰でもできる」(発明推進協会、2022年4月)

記事一覧