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第29回 すんなり入れる特許翻訳 ― 「照明制御システム」の特許訳

2021/09/07

特許翻訳入門 

第29回  「照明制御システム」の特許訳

奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍。
バベル翻訳専門職大学院(USA)では 第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて
「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当 

 
 
 では、宿題の答え合わせから始めます。
  「上記においては、カラオケの楽曲毎に準備された照明制御データに基づいて自動的に各種の照明装置が制御される例を示したが、ユーザは個々の楽曲とは切り離して、所望の照明効果を実現することもできる」

必要英単語を再掲します。
・~毎             for each …
・準備する              prepare
・照明制御データ   lighting control data
・~に基づいて      on the basis of …, based on …
・自動的に             automatically
・各種の                 various types of …, various … 
・制御する        control
・~の例              an example in which …
・個々の            individual
・楽曲               song
・切り離して      separately from, independently of. Irrespective of 
・所望の                   preferable, desirable, desired
・照明効果               lighting effect
・実現する               realize, attain, achieve


 上記の単語を使ってよいし、独自の訳語を使ってよいという約束でした。Google®翻訳など機械翻訳を使った方もいらっしゃるでしょう。
「実現することもできる」の「できる」の助動詞に何を使うかというのがポイントです。

 「上記においては、カラオケの楽曲毎に準備された照明制御データに基づいて自動的に各種の照明装置が制御される例を示したが、ユーザは個々の楽曲とは切り離して、所望の照明効果を実現することもできる」
                                      ↡
 In the above, an example in which various lighting devices are controlled automatically on the basis of lighting control data prepared for each karaoke song is shown, but users can attain desired lighting effects irrespective of individual songs.

 では、DeepL翻訳ツールを使ってみましょう。
 "In the above, we have shown an example where various lighting devices are automatically controlled based on the lighting control data prepared for each karaoke song, but the user can also achieve the desired lighting effect separately from each individual song."

 筆者の翻訳とほぼ同一の翻訳が得られました。ではこの翻訳を取り入れるべき箇所は取り入れ、修正すべき箇所は修正していきます。

修正点1)
 「例を示した」→“we have shown an example”と訳していますが、特許翻訳では明細書の書き手をweとは訳しません。実際に明細書を書いているのは発明者、または弁理士ですが、an inventor, an attorneyと訳すこともありません。
 人間を登場させないのが明細書であり、これは和文、英文ともに共通することです。
 日本語では、「上記においては、~が制御される例を示した」のように、主語を省略して記載しています。英語では主語を省略することなく、無生物主語とするために、「例(an example)」を主語として受動態で表現します。
 An example where … is controlled is shown …

修正点2)
 「ユーザは個々の楽曲とは切り離して、所望の照明効果を実現することもできる」は、カラオケ店の照明装置のユーザは複数であるため、不定冠詞を付けずに複数形で表現します。
 “users can attain (realize) desired ….”

修正点3)
 「照明効果」の「効果(effect)」は、「照明の効果」という意味のときは可算名詞として複数形で使います。
Weblio辞書には、「可算名詞 [通例複数形で] 【演劇】 (擬音・照明などの)効果」」記載されています(https://ejje.weblio.jp/content/effect)。
 したがって、lighting effectsと訳すこととします。 

修正点4)
 「所望の照明効果」をthe desired lighting effectと訳していますが、the desiredはユーザ一般にとっても「所望の効果」であるため、不定冠詞を付さずに、複数形とします。

取り入れるべき点1
「各種の照明装置が制御される例」を
”an example where various lighting devices are controlled”
と訳しています。”where”(関係副詞)はin which(前置詞+関係代名詞)で置き換えることができます。筆者は後者を使いましたが、whereを使った方がワード数を減らすことができるため、こちらを使うこととします。

取り入れるべき点2
「個々の楽曲とは切り離して、所望の照明効果を実現する」の「切り離して」は「実現する」にかかるため、”separately from”という副詞句を使うことができます。
 筆者は、”irrespective of …”(~にはか関わらず)を使いましたが、原文に忠実に”separately from”(~とは切り離して)を使うこととします。

注意点)
「効果を実現することもできる」の「~できる」はcan, mayのいずれの助動詞を使うべきかという点に注意すべきです。
 canは主語の能力を示し、「~ができる」という意味を表し、mayは「(主語が)~してもよい」という許可を表すため、「実現できる」はcanを使います。

 それでは、上記を考慮したうえで、筆者の訳文を修正します。

修正約訳文

「上記においては、カラオケの楽曲毎に準備された照明制御データに基づいて自動的に各種の照明装置が制御される例を示したが、ユーザは個々の楽曲とは切り離して、所望の照明効果を実現することもできる」
                                ↡
 “In the above, an example
where various lighting devices are automatically controlled on the basis of lighting control data prepared for each karaoke song is shown, but users can also achieve desired lighting effects separately from each individual song”. 

 では次の文例です。
 「すなわち、ユーザがコントロールパッド24のディスプレイ46に表示されたメニューから「テーマモード」を選択すると、図6に示すように、「桜」や「雨モード」、「花火」等のテーマ選択ボタン75が複数配置されたテーマモード画面76がディスプレイ46に表示される」

キーワード)
・すなわち         namely, in other words 
・コントパッド    control pad
・表示する         display, show, exhibit
・メニュー         menu
・テーマモード     theme mode
・選択する         select, chose
・桜                      cherry blossom
・雨モード         rain mode
・選択ボタン     selection button
・花火                fireworks(複数形で使うことが多い)
・テーマ選択ボタン  theme selection button(可算名詞)
・選択ボタンが複数配置される  a plurality of selection buttons are arranged
「複数の選択ボタンが配置される」と言い換えて訳します。
「複数の」を強調したい場合に、「選択ボタンを複数」と表現しますが、
英語では、“a plurality of selection buttons are arranged”と表現します。
・配置する  arrange, dispose, locate
・等           such as
・「桜」や「雨モード」 、「花火」等のテーマ選択ボタン
   これは、「「桜」や「雨モード」、「花火」等のテーマを選択するボタン」と訳します。
 「「桜」や「雨モード」、「花火」等」は「テーマ選択ボタン」の具体例ではなく、「テーマ」の具体例です。したがって、
 “buttons for selecting themes such as “cherry blossom”, “rain mode”, and “fireworks”.

・ボタン75が複数配置されたテーマモード画面
 この訳がポイントになります。
    ボタン75が配置されているのは、テーマモード画面上です。したがって、
 「上にボタン75が配置されているテーマモード画面」と訳します。
 下線部は、on which(前置詞+関係代名詞)を使います。where(関係副詞)を使うことも可能ですが、in which, under whichなど様々な可能性が考えられるため、「画面の上に配置されている」ことを明確にするために、on whichを使います。
 訳文は、
 “a theme mode screen on which a plurality of buttons 75 are arranged”
となります。

・ユーザが~「テーマモード」を選択すると 
 「選択した場合」と言い換えることができます。when,ifのいずれを使用するかという問題があります。
 “when”は、生じることが確実であり、それが生じたとき
 “if”は、生じることは不確実であり、それが「生じる場合」を意味しています。ここでは、ユーザがテーマモードを選択するのは確実であるため、whenを使います。
・ディスプレイ46に表示されたメニュー
 “a menu displayed on a display 46”
・テーマモード画面76がディスプレイ46に表示される
  A theme mode screen 76 is displayed on the display 46
・図6に示すように
  As shown in Fig. 6 
As illustrated in Fig. 6  
 
では、いきなりDeepL翻訳ツールで訳し、それを修正していく形を取ります。
「すなわち、ユーザがコントロールパッド24のディスプレイ46に表示されたメニューから「テーマモード」を選択すると、図6に示すように、「桜」や「雨モード」、「花火」等のテーマ選択ボタン75が複数配置されたテーマモード画面76がディスプレイ46に表示される」

“In other words, when the user selects "Theme Mode" from the menu displayed on the display 46 of the control pad 24, a theme mode screen 76 with multiple theme selection buttons 75 such as "Cherry Blossom", "Rain Mode", "Fireworks", etc. is displayed on the display 46 as shown in Figure 6”.

・別の訳を採用する点)
「テーマ選択ボタン75が複数配置されたテーマモード画面76」を
“a theme mode screen 76 with multiple theme selection buttons 75”
と訳しています。つまり、「テーマ選択ボタン75を備えたテーマモード画面76」と訳していますが、「配列された
」の日本語を訳出するために、
“a theme mode screen on which buttons 75 are arranged”
と訳すこととします。
・修正すべき点
「「桜」や「雨モード」、「花火」等」の「等」を”etc.”と訳されていますが、”such as”でこれが表せるため、簡潔性のために”etc.”を削除します。


             ↓
完成訳
In other words, when the user selects "Theme Mode" from the menu displayed on the display 46 of the control pad 24, the theme mode screen 76 on which a plurality of buttons for selecting themes such as "Cherry Blossom", "Rain Mode", "Fireworks" are arranged is displayed on the display 46 as shown in Figure 6.
(初出でない文言にはtheを付するように修正しています)。




【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)

「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ
)所

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