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第27回 すんなり入れる特許翻訳 ― 「照明制御システム」の特許訳

2021/07/07

特許翻訳入門 

第27回  「照明制御システム」の特許訳

奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍。
バベル翻訳専門職大学院(USA)では 第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて
「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当 

 
 
では、前回の宿題の答え合わせから始めます。

「ユーザは、上記対象特定エリア66において他の照明装置、例えばリストバンド型可搬式照明装置を選択することにより、アレンジを加える対象を切り替えることができる。」(特許6751605号)

キーワード)
・対象特定エリア  an area for designating a target
これは、「対象を特定するためのエリア」を簡略した表現です。したがって英訳はan area for designating a targetのように丁寧に訳すことができます。あるいは、a target designation areaのように一つの名詞句を形成するように訳語をつくることもできます。

・リストバンド型可搬式照明装置   a wristband-type lighting device 
可搬式照明装置   a portable lighting device
~型~は、… type …と訳すことができます。 

・例えば     for example, e.g,
このほか、such asを使うことができます。

・他の照明装置、例えばリストバンド型可搬式照明装置
other lighting devices, such as a wristband-type portable lighting device
このように、コンマ+such asは「たとえば」を意味します。上位概念を挙げて、その後に「例えば」として具体例を挙げる場合、「コンマ+such as」を使うことができます。 コンマを付していないものを和訳するときは、「リストバンド型可搬式照明装置などの他の照明装置」のようにsuch as 以下から訳します。

・選択する  select, chose

・アレンジを加える  add arrangement
「アレンジを加える」は「アレンジする」と言い換えて訳す方が簡潔性に
資することとなります。
「アレンジを加える対象」  a target to which arrangement is added
                 ↡
「アレンジする対象」      a target to be arranged
“to be arranged”は「アレンジする予定の」という意味を表すことができます。to不定詞の形容詞的用法であり、「~する予定の」という意味を表して、to be過去分詞の前に置かれる名詞を修飾するため、形容詞的用法といわれます。

・切り替える  switch

・選択することにより、アレンジを加える対象を切り替えることができる
「選択すること」を手段として、「アレンジする対象を切り替える」という文章の構造で訳すことができます。
“switching a target to be arranged by selecting …”
 
他の訳例もあります。
「選択すること」の結果として、「アレンジする対象を切り替える」という文章の構造で訳します。
“is selected, in order to switch a target to be arranged”
コンマ+in order toというフレーズを使うことにより、結果を表すことができます。コンマを付することにより、コンマより前から後に訳すことができます。
                ↡
ユーザは、上記対象特定エリア66において他の照明装置、例えばリストバンド型可搬式照明装置を選択することにより、アレンジを加える対象を切り替えることができる。
訳)
The user can switch a target to be arranged by selecting other lighting devices, for example, a wristband-type portable lighting device in an area for designating a target. 


文例1
  因みに、「カラフル」エリア62は、グループ単位で色彩を異ならせることを選択するエリアである。

キーワード)
・因みに  for your reference, for your confirmation, in this case, on another note
「因みに」は「ご参考までに」「ところで」「このとき」などと言い換えることができます。このようなつなぎのことばの訳語は数多くあります。どれを選ぶかはシーンに応じて決定します。
 ここでは「このとき」という意味で使われているため、in this caseを使います。「ご参考までに」は適切ではありません。参考程度に付け加える情報ではないからです。

・「カラフル」エリア  “colorful” area  

・グループ単位       group unit(unitは可算名詞)

・異ならせる     differentiate A from B, make A different from B, make difference between A and B(AとBを異ならせる)
 “make A different from B”は、AをBと異ならせるというSVC(第2文型)を
使用しています。
“differentiate”は他動詞であり「(目的語を)異ならせる」という意味です。
“make difference between A and B”はAとBの間で違いを明確にするという
意味です。

・エリア62は、~を選択するエリアである 
 しかし、ここで「色彩を異ならせる」の意味は、「色彩を変える」ということです。つまり歌詞のAグループは赤、Bグループは黄色、Cグループは青のように、グループ単位で色彩を変えていくことを意味しています。
したがって、「グループ単位の色彩を変える」と訳せば適切な訳となります。
“change colors in group units”

・エリア62は、~を選択するエリア  The area 62 is an area for selecting …
注)「~を選択するためのエリア」と言い換えて訳しています。 
・色彩を異ならせることを選択する
これは「色彩を変化させることを選択する」と言い換えて訳します。
“select to change colors”と訳します。

 
(特許6751605号)図5
J-PlatPat(特許庁、INPIT)よりダウンロード
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

文例1
  因みに、「カラフル」エリア62は、グループ単位で色彩を異ならせることを選択するエリアである。
In this case, the “colorful” area 62 is an area for selecting to change colors in group units.

注)ここで「色彩を変化させる」のはこの装置のユーザですが、原文に「ユーザ」のことばが現れていない以上、これを挿入して訳すことはできません。もしユーザが原文に現れている場合は、
In this case, the “colorful” area 62 is an area for a user selecting to change colors in group units.
と訳しますが、下線部が省略されていると考えることができます。

ではこの訳しにくい文章をDeepL®翻訳で訳してみましょう。
“In case you are wondering, the "Colorful" area 62 is an area where you can choose to have different colors for each group”.
このような翻訳が得られました。
この翻訳の修正)「因みに」は” In case you are wondering”と訳されています。これをIn this caseに置き換えます。
「グループ単位で色彩を異ならせることを選択する」を”you can choose to have different colors for each group”と訳して、原文にないyouを登場させています。確かに「選択する」の主語が必要であり、これをyouと想定してDeepL®翻訳では訳してます。
 しかし、明細書では人が登場せず、人の登場しない原文にyouを付け加えて英訳することは避けるべきです。もちろん特許以外の文書でこのように主語が現れていない文章にyouを加えることは頻繁に行われます。したがってこの点でDeepL®翻訳のこの訳は評価できます。特許文書では主語のない文章は受動態にしたり、無生物主語を用いて英訳することができます。
 DeepL®翻訳で得られた訳を採用すべきところはすればよいです。
例えば、
an area where ・・・という表現です。
 “where”は“an area”を先行詞とする関係副詞であり、an area in which と言い換えることができます。

・「グループ単位で色彩を異ならせることを選択する」が” choose to have different colors for each group”と訳されています。
 「to不定詞」は、chooseを修飾しており、to不定詞の副詞的用法です。ここではyouを主語として登場させているため、「色彩を異ならせる」こともyouがdifferent colors を有する(have)という文体で訳されています。

・「グループ単位で」はfor each groupと訳されており、あえて「単位」ということばを訳していません。”each”を使うことにより、単位の意味を表せるからです。
 このDeepL®翻訳をもとに、先ほどの筆者の翻訳を改良します。

文例1
  因みに、「カラフル」エリア62は、グループ単位で色彩を異ならせることを選択するエリアである。
 In this case, “the colorful” area 62 is an area where changing colors for each group is selected.
“an area for selecting”を”an area where … is selected”に変更しています。

注)「グループ単位で色彩を異ならせる」を”changing colors for each group”と訳し直しました。

文例2
  例えば、ユーザが点灯ボタン68をタッチすると、「Group1:赤/Group2:オレンジ/Group3:黄/Group4:黄緑…」のように、点灯状態を維持したまま各グループの色彩が切り替えられる。

では、この文例2を次回までの宿題とします。

今回はキーワードを示しておきます。
・ユーザが~にタッチすると     as soon as the user touches …,
                                                    when the user touches …
・点灯ボタン           a lighting button
・タッチする           touch
・点灯状態               a lighting state
・維持する               maintain
・各グループの色彩 a color for each group
・切り替える            switch
・維持したまま   while maintaining  
注)日本語では「点灯状態を維持したまま」となっており、「維持する」の主語は誰でしょうか? これがこの翻訳の鍵となります。
・「Group1:赤/Group2:オレンジ/Group3:黄/Group4:黄緑…」のように
 「~のように」をどう訳すかがポイントになります。like, asなどを用いて訳します。




【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載

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