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第26回 すんなり入れる特許翻訳 ― 「照明制御システム」の特許訳

2021/06/07

特許翻訳入門 

第26回  「照明制御システム」の特許訳

奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍。
バベル翻訳専門職大学院(USA)では 第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて
「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当 

 
 
前回の続きの「照明制御システム」(特許6751605号)をさらに訳していきます。実施態様の文章です。

文例1
ユーザが「点灯」エリア61、「点滅」エリア63、「フラッシュ」エリア64、「フェード」エリア65の何れかに表示された任意の色彩ボタンをタッチすると、コントロールパッド24からマスター装置18に対し、割込制御信号が送信される。

キーワード)
・エリア      area(可算名詞)
・フラッシュ flash
・フェード  fade
・何れか      any
注)「~、~、~の何れか」は、any of …, …, and …と表現します。
・表示する     display, show
・任意の        optional, any
注)「任意の」の訳語はanyを使うことが多いですが、ここでは「何れかの」の訳語としてanyを使っているためoptionalを使うこととします。
・色彩ボタン               color button(buttonは可算名詞)
・~をタッチする        touch
・コントロールパネル control panel(panelは可算名詞)
・マスター装置    master device(deviceは可算名詞)
・割込制御信号              interrupted control signal(signalは可算名詞)
・送信する                     send, transmit

 キーフレーズ)
・すると~、      when …, if …  
注) whenとifの相違
whenは起こることが確実であり、(それがいつかという問題)
ifは起こるかどうか不明であり、もし起こったら(可能性の問題)
という意味で使い分けます。
 ここでは「色彩ボタンをタッチすると」という文章から、タッチされるのは確実であり、「タッチされたとき」という意味であるため、whenを使います。

文例1の訳
ユーザが「点灯」エリア61、「点滅」エリア63、「フラッシュ」エリア64、「フェード」エリア65の何れかに表示された任意の色彩ボタンをタッチすると、コントロールパッド24からマスター装置18に対し、割込制御信号が送信される。
When a user touches an optional color button displayed in any of a “lighting” area 61, a “blinking” area 63, a “flashing” area 64, and a “fading” area 65, an interrupted control signal is sent from a control pad 24 to a master device 18.   

文例2
 例えば、ユーザが「点滅」エリア63中の赤い星形の色彩選択ボタン67をタッチすると、赤く点滅させることを指令する制御信号がマスター装置18に送信される。

キーワード)
・星形の  star, star-shaped
“star”は形容詞でもあるため、「色彩選択ボタン(color selection button)」に付することができます。”star-shaped”は原文に忠実な訳ですが、”star”を名詞に付する方が簡潔性に資することとなります。
・指令する  command, instruct
キーフレーズ)
・~赤く点滅させる  
注)「赤く点滅させる」のは「照明装置」であり、このことばが省略されていますが、原文に表れていないことばを加えることはできないため、単にblinking in redと訳します。
・~ことを指令する制御信号 a control signal which commands …

文例2の訳
例えば、ユーザが「点滅」エリア63中の赤い星形の色彩選択ボタン67をタッチすると、赤く点滅させることを指令する制御信号がマスター装置18に送信される。
(訳)
For example, when a user touches a red star color selection button 67 in the “blinking” area 63, a control signal which commands blinking in red is sent to the master device 18.

文例3
 これを受けたマスター装置18は(S18)、赤く点滅させることを指令する制御信号を、各ペンライト型可搬式照明装置22aに送信する(S20)。

キーワード
・受ける      receive
・~点滅させる   make … blink in color
注)赤く点滅させるのは、この後に記載されている「各ペンライト型可搬式照明装置22a」 であるため、これを目的語とし、「各ペンライト型可搬式照明装置22aに送信する」という部分の「各ペンライト型可搬式照明装置22a」をthemで置き換えます。
・各ペンライト型可搬式照明装置  each penlight type portable lighting device
注)「各」は単数形の名詞に付するものとしてeach, 複数形の名詞に付するものとしてrespectiveの訳語があります。
 “each”, “respective”の使い分けに迷うことがあります。”respective”はたとえば、複数の生徒に向かって「それぞれの席に付きなさい(sit down in your respective chairs)のような場面で使います。複数のものの1つ1つを指すときは、each of chairs(複数の椅子の1つ1つ)であり、複数のものの1つ1つをまとめて指すときは、respective chairs(複数の各椅子)を指します。

 ここでは、「1つのマスター装置が制御信号を各ペンライト型可搬式照明装置22aに送信する」という場面であるため、複数の照明装置の1つ1つに制御信号を送ることを述べていますが、複数の照明装置をまとめて指しているため、respectiveを使うことができます。 

文例3の訳
 これを受けたマスター装置18は(S18)、赤く点滅させることを指令する制御信号を、各ペンライト型可搬式照明装置22aに送信する(S20)。
(訳)
The master device 18 which received this (S18) sends a control signal for making respective penlight-type portable lighting devices 22a blink in red to them (S20).

 この文例の翻訳は難しいため、DeepL翻訳(https://www.deepl.com/translator)にかけてみた結果、以下の訳文が得られました。
“The master device 18 receives this (S18) and sends a control signal commanding it to flash red to each penlight-type portable lighting device 22a (S20)”.
これを受けたマスター装置18は(S18)、赤く点滅させることを指令する制御信号を、各ペンライト型可搬式照明装置22aに送信する(S20)。

“commanding it”はitがto不定詞を指しているため、「赤く点滅すること」を指しています。つまり、commanding flashing redとすべきところをflashing redをitで置き換えています。
また、「各ペンライト型可搬式照明装置」をeach penlight-type portable lighting deviceと訳しています。つまり、複数の照明装置の一つ一つをeachと訳しています。
                    ↓この2つの翻訳を組み合わせ、つぎのような訳文をつくります。
“The master device 18 which received this (S18) sends a control signal commanding it to flash red to respective penlight-type portable lighting devices 22a (S20)”.

文例4
 この結果、各ペンライト型可搬式照明装置22aは一斉に赤く点滅し始める。そして、ユーザが「点滅」エリア中の「赤い星」から指を外すと上記の割込が解除され、各ペンライト型可搬式照明装置22aは照明制御データに従った本来の発光状態に戻される。

キーワード)
・この結果        as a result, consequently, eventually, at last
・一斉に        all
・~し始める     begin to …
・そして          And, Then,
・~から指を外す     release a finger from …, remove a finger from …
・割込               interruption 
・解除する          release
・照明制御データ    lighting control data
・~に従った        according to …
・~に戻る          return to … 
・本来の             original

文例4の訳
 この結果、各ペンライト型可搬式照明装置22aは一斉に赤く点滅し始める。そして、ユーザが「点滅」エリア中の「赤い星」から指を外すと上記の割込が解除され、各ペンライト型可搬式照明装置22aは照明制御データに従った本来の発光状態に戻される。
As a result, all the penlight-type portable lighting devices 22a begin to blink in red.  When the user removes his/her finger from the “red star” in the “blinking” area, the interruption as described above is released, and the respective penlight-type portable lighting devices 22a are returned to original lighting states in accordance with the lighting control data. 

訳注1)「照明装置が一斉に点滅し始める」は、 all the penlight-type portable lighting devices 22a begin to blinkと訳し、allを使うことにより「一斉に」の意味を表しています。
訳注2)「各ペンライト型可搬式照明装置22aは照明制御データに従った本来の発光状態に戻される」の「各ペンライト」は、respective penlightsと訳しています。複数のペンライトを指して「各々」というからです。

文例5
ユーザは、各エリア内の色彩選択ボタン67を連続的または断続的にタッチすることにより、照明の自動制御に対して独自のアレンジを施し、自己の個性を表現することができる。

キーワード)
・連続的に   continuously
・断続的に  intermittently
・自動制御  automatic control(controlは「制御」という意味のときは不可算名詞)
・個性    identity(「個性」という意味のときは不可算名詞)
・表現する  express
・アレンジ  arrangement  
注)ここで「アレンジ」とは、配合、調整という意味で使っており、この意味のときは不可算名詞ですが、具体的なアレンジを指す場合は可算名詞です。ここでは具体的な場面で「アレンジ」ということばを使っているため、可算名詞扱いです。
・施す   add
注)ここで「施す」は「付加する」という意味で使っています。

キーフレーズ)
ユーザは、~をタッチすることにより、独自のアレンジを施し、自己の個性を表現することができる。
 下線部は結果を表すto不定詞として表現します。
A user touches … to add his/her own arrangement and express his/her identity.
 

ユーザは、各エリア内の色彩選択ボタン67を連続的または断続的にタッチすることにより、照明の自動制御に対して独自のアレンジを施し、自己の個性を表現することができる。
(訳)
A user touches the color selection button 67 in each area continuously and intermittently to add his/her own arrangement to the automatic control of lighting and express his/her identity.

以下の文章の英訳を次回までの宿題とします。
  ユーザは、上記対象特定エリア66において他の照明装置、例えばリストバンド型可搬式照明装置を選択することにより、アレンジを加える対象を切り替えることができる。




【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載

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