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第25回 すんなり入れる特許翻訳 ― 「照明制御システム」の特許訳

2021/05/07

特許翻訳入門 

第25回  「照明制御システム」の特許訳

奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍。
バベル翻訳専門職大学院(USA)では 第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて
「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当 

 
 
  では前回の宿題の答え合わせから入ります。
「この結果、要介護者24の筋力や体重に応じて座椅子部材20のクッション効果及び押し上げ力を調節することができる。」(特開2004-113432号)

キーワード
・筋力       muscle strength(strengthは不可算名詞)  
・体重       body weight(weightは不可算名詞)
・クッション効果    cushion effect(effectは原則として不可算名詞だが、
         具体的な効果を意味するときは可算名詞、
         ここでは可算名詞として扱う)
・押し上げ力           push-up force
            (forceは'物理的な力’を意味する場合は、不可算名詞) 
・調節する               adjust
・~に応じて            according to …, depending upon …
・~できる               can, may

  特許翻訳で頻出の「~できる」はcan, mayのいずれにも訳すことができますが、mayは副詞節において「可能である」ことを表したり、「~できる(~してもよい、~することは差し支えない」など願望や許可の意味での「可能」を表します。能力的に可能であることを表す場合は、canが適訳です。この文章のように、「調節できる」のように能力的に可能であるときはcanを使います。

筆者の訳文
As a result, a cushioning effect and push-up force of the seat chair member 20 can be adjusted according to muscle strength or body weight of a care recipient 24.

 では今回から新しい明細書の訳に入ります。特許 6751605号 (令和2年9月9日特許発行)「照明制御システム」です。カラオケルームでは既存の照明設備が設置されており、曲の雰囲気に合わせて客が照明を変えることはできません。客がコンサートで歌うような気分で照明を調節することができる技術がこの発明です。

 

文例1
【発明を実施するための最良の形態】
図1に示すように、この発明に係る照明制御システム10は、複数のカラオケルーム12内に設置されたカラオケ機器14と、モニタ16と、マスター装置18と、複数の固定式照明装置20と、複数の可搬式照明装置22(22a, 22b)と、コントロールパッド24とを備えている。 


筆者の訳文
[Best mode for carrying out an invention]
 As shown in FIG. 1, a lighting control system 10 of this invention includes karaoke equipment 14, a monitor 16, a master device 18, a plurality of fixed lighting devices 20, a plurality of portable lighting devices 22 (22a, 22b), and a control pad 24 which are installed in each of a plurality of karaoke rooms 12. 

注)「複数のカラオケルーム」と原文では記載されていますが、これらの装置は各部屋に備えられているため、in each of a plurality of karaoke roomsと訳しています。ここがポイントです。

キーワード)
・照明制御システム
 このようなこのとばの訳語は、辞書を引いてもそのものズバリが載っていないことが多く、既存の単語を組み合わせて訳語をつくるしかありません。
照明(lighting)+制御(control)+system
“lighting controlling system”
“light control system”
“light controlling system”
などの訳語のバリエーションがあります。簡潔性を考慮して訳語を決める必要があります。
“A system for controlling lights”(照明を制御するシステム)
のように「~するためのシステム」という形で訳語をつくることもできます。この方が発明の内容をよく表していますが、A lighting control systemのように1つの名詞句をつくった方が簡潔性には資することとなります。

・~備えている
 comprise, include, have, consist ofなどいくつかの訳語があります。consist ofはクローズエンドといわれ、列挙した構成要素以外を含むことを排除されるため、オープンエンドであるcomprise, include, haveを使うことをお勧めします。ここではincludeを使っています。

・固定式照明装置      fixed lighting device
・可搬式照明装置           portable lighting device
(固定式照明装置、可搬式照明装置の訳語も既存のことばを組み合わせて作成しています)

文例2
図4は、照明制御データの一例を示す模式図であり、各照明装置の識別コード毎に、発光色、発光方法(点滅具合)、時間幅が定義されている。

  Fig. 4 is a schematic diagram illustrating one example of lighting control data and defines a lighting color, a lighting method (a degree of flicking), and time width for each identification code of each lighting device.

 
キーワード)
・照明制御データ   lighting control data
・一例        one example
・示す        illustrate, show 
・模式図                         schematic diagram(diagramは可算名詞)
・照明装置      lighting equipment(equipmentは不可算名詞) 
・識別コード     identification code(codeは可算名詞) 
・~毎に                         each

・発光色                         lighting color(colorは可算名詞)
・発光方法                     lighting method(methodは可算名詞)
・点滅具合       degree of lighting(degreeは可算名詞)
・時間幅                        time width
・定義する       define

☞ これをDeepL翻訳で訳してみた結果、以下のような翻訳が得られました。
Figure 4 shows a schematic diagram of an example of lighting control data. For each identification code of each lighting device, the light emission color, light emission method (flashing condition), and time width are defined.

この訳のコメント)
 
are definedのように定義される対象を主語とした受動態になっているため、だれが定義するかの対象が明確になっていません。これは「図4が定義している」のですが、「図4は、~模式図であり、~発光色、発光方法(点滅具合)、時間幅が定義されている」という文章の構造になっているため、「発光色」等を主語として訳されてしまったものです。このような点を翻訳者が手直しする必要があります。
 light emission color(発光色), light emission method(発光方法), flashing condition(点滅具合), time width(時間幅)などの訳語はそのまま採用することができます。
 
文例3
 例えば、識別コードが「ID:01」の照明装置に関しては、最初から一定時間(例えば3秒間)、「発光色:黄色」、「発光方法:点灯」で発光することが規定されている。

筆者の訳文
  For example, with respect to the lighting equipment whose identification code is “ID:01”, Fig. 4 provides that it emits light in “the light emission color : yellow” according to “the light emission method : lighting” for the certain time period from the beginning (for example, three seconds).  

☞ これをDeepL翻訳で訳してみた結果、以下のような翻訳が得られました。
For example, for a lighting device whose identification code is "ID:01," it is specified that the device will emit light for a certain period of time (e.g., 3 seconds) from the beginning, with "light color: yellow" and "light method: on.

この訳のコメント)
① 前置詞の採択
一定時間(例えば3秒間) for a certain period of time (e.g., 3 seconds)
「発光色:黄色」               with "light color: yellow"
「発光方法:点灯」             "light method: on

 「「~色の発光色」「発光方法:点灯」で」という場合の「で」に当たる前置詞はwithを使っていることがわかります。これを採択します。
② 語順
「最初から一定時間(例えば3秒間)」、「発光色:黄色」、「発光方法:点灯」 という原文の語順の通りに訳されています。私の訳は、「期間」に当たるフレーズを文末に置いています。しかしこのように原文の語順を変えることなくDeepL翻訳の行った語順で訳すこととします。
③ 文の構造
It is specified that …という文の構造になっています。つまりthat以下のことが指定されていること表現しています。しかし実際には「図4が規定している」ため、Fig. 4 specifies that   という文章の構造を採択します。


キーワード)
・に関しては with respect to, with regard to, in relation to, concerning, regarding, in connection with
・最初から     from the beginning
・一定時間     for a certain period of time, for prescribed time, for predetermined time
・点灯    lighting
・発光する  emit
・規定する    define, provide(注:ここでは前の文章で「~を定義する」の訳語としてdefineを使っているため、「規定する」はprovideと訳すことをお勧めします。DeepL翻訳ではspecifiedが使われています。


訳注)「~が規定されている」の主語が原文には記載されていません。これは前の文章から「図4」が主語であることは明確です。そこで、これを補って訳す必要があります。
 あるいは、前の文章から段落を改めこの文章が記載されていない場合は、前の文章をピリオドを打って終わらせることなく、コンマでつなげることもできます。それにより、Fig. 4いう主語を補って訳す必要もありません。しかしこの文章は段落を改め て記載されているため、Fig. 4という主語を補って訳す必要があります。 
 ただしその場合は、「識別コードが「ID:01」の照明装置に関しては」を文末に置く必要があります。

文例4
  これに対し、識別コードが「ID:02」の照明装置に関しては、同時間帯において、「発光色:黄色」、「発光方法:フラッシュ(高速点滅)」で発光することが規定されている。


キーワード)
・これに対し   On the other hand 
・同時間帯       the same time period
・高速点滅    high-speed blinking

筆者の訳文
On the other hand, with respect to the lighting device having the identification code “ID-02”, Fig. 4 provides that it emits light with “the light color : yellow” according to “the light method : flashing (high-speed blinking) for the same time period.
  
訳注)ここでも 「~が規定されている」の主語が原文には記載されていません。これは前の文章から「図4」が主語であることは明確です。そこで、これを補って訳す必要があります。



【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載

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