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第22回 すんなり入れる特許翻訳 ― 「浴槽内介護用座椅子」の特許訳

2021/01/07

特許翻訳入門 

第22回  「浴槽内介護用座椅子」の特許訳

奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍。
バベル翻訳専門職大学院(USA)では 第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて
「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当 

 
 
  前回の続きの介護用座椅子(特開2004-113432号)の特許出願明細書の訳です。

まず宿題の答えをお知らせします。請求項3の英訳が宿題でした。



従属項のクレームであり、whereinを使って訳します。
キーワード)
・座椅子部材      seat chair member
・回転軸          rotation axis(複数形はaxes)
・取り付ける      attach
・端部            edge(可算名詞)
・左右に          at right and left
・設ける          provide
・軸受            bearing
・着脱自在に      removably
・装着する        mount
・内面            inner surface(可算名詞)
・裏面           back surface(可算名詞)
・接する          contact
・レール部        rail part(可算名詞)
・それぞれ~する  …. respectively

では、今日はこの発明の実施態様を訳してみましょう。


注) ここでは、「それぞれ」が「対応する」にかかっています。

上記座椅子部材には回転軸が取り付けられており、
当該回転軸の端部が、左右に配置された側壁部材に設けられた軸受に着脱自在に装着されており、
各側壁部材の内面には、それぞれ上記座板の裏面と接するレール部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の浴槽内介護用座椅子。
                  ↡

 The nursing chair in a bathtub according to Claim 1 or 2 wherein,
 a rotation shaft is attached to the seat chair member.
 edges of the rotation shaft are removably attached to a bearing provided on the side
wall members that are arranged at the right and left sides, and
 the inner surface of each of the side wall members forms a rail part contacting
the backsurface of each of the seat plates.  
  

注1) 「接する」 touchとcontactはwithが不要です。
 touchとcontactは「~に触れる」という意味があるため、touch with, contact withのようにwithを付けることが必要と思われがちです。しかし
“touch (contact) the back surface”裏面に接触する
のようにwithなしで使えます。touchとcontactが他動詞であるため、目的語をすぐ後に置くことができます。しかし、touchとcontactは自動詞でもあり、自動詞として使うときは前置詞が必要です。
 The rail part touches on the back surface.
 レール部材は裏面まで及んでいる。
touchが自動詞として使われており、レール部材が延びて裏面にタッチするというニュアンスで使っています。

注2) wherein節をつくる
 この請求項は従属項であり、「~を備えている」という構成要件を規定しているわけではなく、「~が~に取り付けられている」という状態を規定しているため、wherein節をつくってそのなかでこのような状態を通常の文章で表現することができます。wherein節のなかではSVO, SVC, SVなど通常の英文を記載することができます。

-実施の形態の英訳-
 実施形態とは、
図面を参照しながら発明の使用方法を説明する項目であり、特許書面のなかで最も読みやすい部分です。図面を見ながら英訳を確認していきます。
                 
                      
              


キーワード)
 FRP        fiber reinforced plastic (可算)
 アクリル素材     acrylic material (可算)
*材料、素材を意味するmaterial(材料)は集合的には不可算名詞ですが、具体的な材料や素材を述べる場合は可算名詞です。
 内部に      inside
                  (ここでは、「内部に~が形成されている」のように副詞として使われている)
 空洞     hollow (可算)
 ~に富む           rich in ~
 湯を張る        fill hot water


 まずこの文章をじっとながめて下さい。「~ため」は、浮力に富んでいる理由を述べている部分ですが、これはどこから始まるでしょうか?
 「座椅子部材がFRPやアクリル部材から成る」という部分もこの理由を述べている部分に入るでしょうか?
F RPやアクリルは軽量であることが知られており(これを知らなければ、インターネットで検索する)、この部分も理由に入ると考えられます。
したがって、



訳出のポイント)
座椅子部材20は、FRPやアクリル素材等よりなり、内部に空洞が形成されている
The chair seat member 20 is made of an FRP … and forms a cavity inside
座椅子は内部に空洞が形成されている
               ↡
A cavity is formed in the seat chair (直訳すると受動態)
 しかし、「形成されている」を「形成する」と訳せば、The chair seat memberをそのまま主語とすることにできます。「形成されている」のように受動態で訳すと、「空洞」を主語にする必要があります。能動態で訳せば、ワード数を減らすこともできるし、主語を統一させることができる場合があります。
・湯が張られた浴槽
 このフレーズも日本語では受け身で書かれていますが(「形成されている」)、能動態で英訳することをお勧めします。このように、簡潔性や主語の関係で英語ではあえて能動態で訳す場合があります。
                
            A bathtub in which hot water is filled
                    ↡
A bathtub filling hot waterのように訳すとワード数を減らすことができます。
あるいは、
A bathtub filled with hot water
のように関係代名詞を使わない形で翻訳します。


 キーワード)
 固定軸    fixing axis (shaft)  (可算)
 背もたれ   back rest (可算)
 裏側           back side (可算)
 張出部       extending part, projecting part, protruding part (可算)
 所定角度      predetermined angle, certain angle  (可算)
 傾斜する      incline, recline

 訳出のポイント)
 所定角度以上に傾斜する ☛ 所定角度以上
の角度に傾斜する
 incline at angles more than a predetermined angle
 所定角度以上の角度を複数形としてangles more than a predetermined angle
 と訳します。
  ただし、側壁部材18,18の内面間に装着された固定軸38が背もたれ26の裏側に形成された張出部40に当接し、ストッパとして機能するた.め、座椅子部材20が所定角度以上に傾斜することはない。
  

 では、この文章は次回までの宿題です。






【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載

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