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第20回 すんなり入れる特許翻訳 ― 日用品「書籍の表紙、裏表紙等」の特許訳

2020/10/07

特許翻訳入門 

第20回 日用品「書籍の表紙、裏表紙等」の特許訳

奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍。
バベル翻訳専門職大学院(USA)では 第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて
「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当 

 
 
 前回は、書籍の栞の特許出願(特開2002-264563号)の明細書を訳しました。今回はその続きであり、「表紙、裏表紙等」の「等」の訳からです。
「等」の訳は、etc., and so forth, and so on, and the like, or the likeがあります。etc.(et cetera)は、オンライン上の英英辞典である「Cambridge Dictionary」によると、”and other similar things”という意味であり
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/etc?q=etc.
 and so forth, and so on, and the like(以下の注)参照)も類似のものを付け加える際に使われるフレーズであるため、「または」を意味する場合には使うべきではありません。
 ここでは表紙、裏表紙、またはそれに類する場所(背表紙など)にデザインを表示することを表すため、or the likeが適切です。

or the likeの例
 「表紙、裏表紙等」すべての場所にデザインが表示されていることが必要としてしまうと、特許権の範囲を狭めます。表紙、裏表紙、それに類する場所の「いずれかにデザインが表示されている」という意味で訳出することにより、特許権を広いものとすることができます。
 「表紙、裏表紙等」の訳は、“a cover, a back cover or the like”が適訳です。
注)and the likeと or the like 
 and the likeは、andさらに列挙できるものを省略する場合(構成要素が決まっている場合)
   light can be split into red, orange, yellow, green, blue, and the like.
   光は赤、橙、黄、緑、青などに分割できる。

 or the likeは、orでさらに列挙できるものを省略する場合
 例、ビタミンCを含む果実であるいちご、みかん、キーウィ等
 この場合は、ビタミンCを含む果物は数多くあり、構成要素として決まっているわけではないので、キーウィの後にビタミンCを含む果物であれば何を置いてもよいためor the likeです。
 例、その板は、ネジや釘、接着剤等によって相互に固定できる
 “The plate can be fixed with screws, nails, adhesives or the like

 例、組合せ、追加、再配置などが本発明の他の実施形態では考えられることを理解すべきである。
 “… it should be understood that combinations, additions, re-arrangements, and the like are contemplated in alternative embodiments of the present invention” (US Patent 8,869,238).

and the like
 例、本システムの態様には、システム、方法、コンピュータプログラム製品などがある。
 “Aspects of the present disclosure involve systems, methods, computer program products, and the like, …”  (US Patent 9,013,538).

 例、バラの木などのための保護構造
 “Protective structure for rose trees and the like” (US Patent 3466799)

or the likeの例
 例、係合手段を介して、支柱などに締結・固定可能なカメラスタンドが開示されている。
 “A camera stand is disclosed, that can be fastened and secured onto a post or the like via an attachment means” (US Patent 9,383,629)

 では引き続き、特開2002-264563号の明細書を訳していきます。
・実施形態の訳
 実施形態とは、発明をどのように実施するかを図面を参照しながら説明する明細書の項目の一つです。明細書のなかではこの部分が最もわかりやすく記載されているため、明細書は実施形態から読むことをお勧めします。

文例
「図1は、本発明に係るマスコット化アイテムとしての書籍用の栞を示すものであり、該栞10は、書籍の頁と頁の間に挿入される略長方形状の本体部12と、該本体部12の底辺両端からそれぞれ突出する「略足形状」と成された一対の第1の凸部14と、上記本体部12の左側辺上端から突出する「略手形状」と成された第2の凸部16を有している。」
 
                    
英訳
“Fig. 1 shows a bookmark as a mascot-like item according to this invention, and the bookmark 10 has an approximately rectangular body part 12 that is inserted between pages of a book; a pair of protruding parts 14 that are formed into the “legs-like shape” in which each of the legs protrudes from each end of the base of the body part 12; and a second protruding part 16 that is formed into “a hand-like shape” that protrudes from the upper end of the left side of the body part 12”.

キーワード)
・ 略足形状   legs-like shape
・ 略手形状   hand-like shape
 「足のような形状」「手のような形状」という意味であり、これを英語では、 “… like shape”と表現すればよいです。
 略三角形は approximately triangular shape、略四角形は approximately rectangular shapeのように表現します。このように形容詞にはapproximatelyを付することができますが、legs, handのような名詞は … like shapeと表現することができます。
・ 底辺両端     both side of the base 
・ 左側辺上端            upper end of the left side
「辺」をsideと訳すため、左側辺はleft sideとなります。左側面もleft sideと訳すので区別が難しいですが、図面を参照しながら説明しているので、読み手に理解してもらえると思います。これに対し、底辺はbaseと訳されます。
訳に一工夫)
・本体部12の底辺両端からそれぞれ突出する「略足形状」と成された一対の第1の凸部14以下の赤く囲んだ部分を指しています。この訳には一工夫必要です。底辺の両端から足のような形状が2本出ており、これをまとめて1対の凸部と名づけています。 

 「略足形状」は2本の足のような形状を指しているので、the legs-like shapeです。
 「底辺各端部から足が1本ずつ出ている」ことを
 “each of the legs protrudes from each end of the base”
と表現しています。「2本の足がそれぞれ底辺の各端部から出ている」と言い換えて訳しています。「両端」を「各端部」に言い換えていることに注意しましょう。
 “legs that protrude from ends of the base respectively”
のように表現すると、1つの端部から2本の足がそれぞれ出ているという誤解を与えます。
・本体部12の左側辺上端から突出する「略手形状」と成された第2の凸部16
 図を見るとわかるように、手は1本なので
 “a second protruding part 16 that is formed into “the hand-like shape” that protrudes from the upper end of the left side of the body part 12”
と訳すことができます。

文例
「また、本体部12と第1の凸部14との境界部、本体部12と第2の凸部16との境界部には折り目18が形成されていて、該折り目18を介して上記第1の凸部14及び第2の凸部16は、折り曲げ可能となっている。上記栞10の構成素材としては、紙や可撓性樹脂等の適宜な素材によって構成することができる」

キーワード)
境界部       border (可算名詞), boundary (可算名詞)
折り目       folding line (可算名詞)
折り曲げる  fold
構成素材   component material, constituting material(可算名詞)
可撓性樹脂  flexible resin(不可算名詞) 
適宜な         appropriate, suitable

英訳
“Additionally, a folding line 18 is formed on a border of the body part 12 and the protruding part 14, and a border between the body part 12 and the second protruding part 16, and the protruding part 14 and the protruding part 16 can be forded through the folding line.  The bookmark 10 consists of appropriate materials such as paper or flexible resin”.  
               

訳に一工夫)
・「本体部12と第1の凸部14との境界部、本体部12と第2の凸部16との境界部には折り目18が形成されている」
 このように、折り目18は12と14の間、12と16の間に形成されており、これを2本と捉えるか、1本と捉えるかという問題があります。日本語の明細書では2本であるかのように記載されていますが、英語では1本として訳しても構いません。
 “a folding line 18 is formed between 12 and 14, and 12 and 16”.
 2本の折り目と捉えて訳す場合は、「各々」のことばを使うことができます。
  “a folding line 18 is formed between 12 and 14, and 12 and 16, respectively”.
   つまり、「折り目が12と14の間、12と16の間に各々形成されている」という表現をとります。以下のように表現することもできます。
 “each of folding lines 18 is formed between 16 and 12, and 14 and 12, respectively”. 
 “respective folding line 18 is formed between 16 and 12, and 14 and 12”.

・「上記栞10の構成素材としては、紙や可撓性樹脂等の適宜な素材によって構成することができる」
 リフレーズしてから訳す必要があります。
上記栞10の構成素材としては、紙や可撓性樹脂等の適宜な素材によって構成することができる
                  ↡
  上記栞10は、紙や可撓性樹脂等の適宜な素材によって構成することができる
  The bookmark 10 may consist of appropriate materials such as paper or flexible resin. 
                あるいは
  上記栞10の構成素材には、紙や可撓性樹脂等の適宜な素材がある
  Constituting materials of the bookmark 10 include appropriate materials such as paper or flexible resin. 
    「~には~がある」という表現は特許翻訳で頻出です。具体例を挙げる場合の表現です。
  “… (may) include …”と表現します。

 次回は、実施例の次の文章から訳します。図面を示しておきますので、読んでおいてください。
「図2は、上記栞10を用いて、書籍20をマスコット化する方法を示す説明図であり、上記書籍20には、「目」と「口」を表現したデザイン22が、その表紙24に印刷等の手段により表示されている。また、上記栞10の横幅寸法Xは、上記書籍20の横幅寸法Yと略同寸法と成されている」(図2は上に示した図)。 





【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載

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