大きくする 標準 小さくする

第14回 すんなり入れる特許翻訳 ― 特許出願の中間手続の翻訳

2020/03/07

特許翻訳入門 

第14回 すんなり入れる特許翻訳
- 特許出願の中間手続の翻訳

 

奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍。
バベル翻訳専門職大学院(USA)では 第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて
「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当 

 
 
では、今回も引き続き、中間手続に関連する文章を訳していきます。

文例1
クレーム1に従属するクレーム2にも同様に拒絶理由があります。

Claim 2 dependent on Claim 1 has also similar reasons for rejection.
注)審査官が拒絶理由に記載する文章です。

クレーム2はクレーム1に従属しているので、クレーム1と同様の拒絶理由があります。
Claim 2 which is dependent on Claim 1 has the same reason for refusal as that of Claim 1.
 注)この訳には工夫が必要です。「クレーム2はクレーム1に従属しているので、クレーム2はクレーム1と同様の拒絶理由があります」をそのまま訳すと、
Claim 2 is dependent on Claim 1, so Claim 2 has the same reason for refusal as Claim 1.
のように、Claim 2を主語にする文章が続くことになります。これは間違いではありませんが、冗長な印象を与えます。それでは、2回目のClaim 2をitで置き換えたらどうでしょうか? これは代名詞が何を指しているか不明確になります。

 したがって、一文で訳すことを試みます。このとき使えるのが関係代名詞です。
Claim 2 which is dependent on Claim 1 has~
と訳すことにより、簡潔に一文で表すことができます。
さらに関係代名詞を省略して、
Claim 2 dependent on Claim 1 has ~
と訳すこともできます。

文例2
口頭審理に参加します。

We will participate in an oral hearing.

キーワード)
口頭審理 oral hearing, oral examination
注)無効審判など当事者系審判は口頭審理が原則です。また、特許出願の拒絶査定不服審判など査定系審判は書面審理が原則ですが、職権や請求により口頭審理が行われることがあります。口頭審理には参加制度があります。

文例3
この出願は既に10月30日に提出しました。

We already filed this application on October 30.
注1)代理人が依頼人(出願人)に対し、出願したことを報告する文章です。
注2)過去の一時点の行為を述べているので、alreadyが付されていても過去完了ではなく過去形を用います。

文例4
請求項2の「情報」を「ユーザ情報」に限定する補正をして下さい。

Please amend Claim 2 to limit the term “information” to “user information”.
注)「請求項2を補正して、「情報」を「ユーザ情報」に限定して下さい」ということができます。「情報」という用語を「ユーザ情報」に限定する、ということを原文は述べているので、the term(用語)を付します。to不定詞以下は結果を表しているので、「補正して限定する」という意味です。この英文を和訳する際にも「限定するために補正する」より「補正して限定する」と訳した方がよいです。

文例5
明細書の「ユーザ端末は課金処理も行う」という記載を請求項2に入れ込んでください。

Please incorporate in Claim 2, a phrase “a user terminal also performs an accounting process” in the specification.
“incorporate in Claim 2, a phrase …“
と表現したことには理由があります。通常の語順であれば、
Please incorporate a phrase … … … … in Claim 2.
ですが、a phrase 以降がとても長いため、このような語順にすると、入れ込み先(どこに入れ込むか)がわからなくなってしまいます。こういうときは、
Please incorporate in Claim 2, a phrase ……….
のように、どこに入れ込むかを表すことばを動詞の直後に置き、カンマをつけてから、入れ込み対象(a phrase…,)を置きます。カンマをつけることで、クレーム2に入れ込むというひとまとまり(incorporate in Claim 2)と、入れ込み対象(a phrase…)が分断されて、文章の意味がわかりやすくなります。
注)「入れ込む」は「導入する」「組み込む」と言い換えることができます。introduce, embedを使うこともできます。

文例6
補正することにより、クレーム2の「温度」から「40~60℃」を除いて下さい。

Please amend Claim 2 to change the term “temperature” to “temperature excluding 40 to 60 degrees”.
Please amend Claim 2 to exclude 40 to 60 degrees from the term “temperature”.
注)クレーム2を補正して、「温度」を「温度(40~60℃を除く)」に補正して下さい、と言い換えることができます。クレーム2の「温度」という文言から「40~60°」を除くための補正をするということは、クレーム2を補正することを意味するからです。
注)このような文章は、出願人の代理人に対する指示、さらに日本の代理人の現地代理人に対する指示として記載されます。

文例7
拒絶査定不服審判を請求して下さい。

Please file an appeal against the examiner’s decision of rejection.

文例8
拒絶すべき旨の審決を取り消す訴訟を知財高裁に提起して下さい。

Please file an appeal for rescinding an appeal decision on rejection to the Intellectual Property High Court.
注)文例7、8は、出願人の代理人に対する指示、あるいは現地代理人の日本の代理人の現地代理人に対する指示として記載されます。

 拒絶査定不服審判(文例7)は、審査官が出願の拒絶理由を通知し、出願人が意見書や補正書を提出したが、拒絶理由が覆らなかったために下される拒絶の査定であり、拒絶すべき旨の審決を取り消す訴訟(文例8)は、拒絶査定不服審判を請求して特許庁審判部で審理されたが拒絶が覆らないため、審判部が拒絶すべき旨の審決を下し、出願人がこれを不服として知財高裁に提起する取消訴訟です。

文例9
貴所がご提案した通りに補正して下さい。

Please amend claims as you proposed.

文例10
貴所の意見書案に賛成です。

We agree with your argument draft.

文例11
良いご提案をお待ちしております。

We are looking forward to receiving your useful proposal.

キーワード)
 文例11は一般的なレターでも用いられる文章ですが、特許のコレポンでも頻繁に記載されます。出願人の代理人に対する指示です。
「提案」はproposalですが、suggestion(示唆)ということもあります。
 Please provide us with your insight of handling this case.
ということもできます。insightは見識、洞察力を意味し、あなたの見識を提供して下さい、という意味でこの場面でも使える単語です。

文例12
御社の特許出願の遂行をお手伝いします。

We will help you with prosecution of your patent application.

キーワード)
prosecution    審査遂行
prosecuteには「訴追する、起訴する」のほか「遂行する」という意味があり、特許業界ではprosecutionは、特許庁と出願人との間で行われる特許出願の遂行を意味します(prosecutorは検察官を意味します)。
特許出願⇒方式審査⇒拒絶理由通知⇒意見書⇒特許査定または拒絶査定⇒拒絶査定に対する不服の審判請求などの出願人と特許庁の間のやりとりを通じての特許出願の遂行です。

文例13
御社の特許出願をサポートします。

We will support your patent applications.
御社の特許出願をお助けします。
We will assist filing of your patent application.
We will assist you in filing your patent application.

文例14
貴社と協力して特許出願を進めます。

We will cooperation with you in forwarding a patent application.
cooperation with 人 in ~
注)文例12~14は、代理人が出願人となる者(発明者、発明者のいる会社)に対して、特許出願を支援することを伝える文章です。

文例15
この出願は出願の単一性の要件違反です。

This application is against requirements for unit of an application.

文例16
引例1は、ユーザ端末が課金手段を備えていることを記載しています。

Cited Reference 1 discloses that a user terminal has an accounting means.
注)「引例1は~を記載している」という場合、discloseを使うことが多いです.「記載する」の訳語として、describe, set forthを使うこともできますが、本発明からみて引例は先行技術を「開示する」ものであるため、「記載する」とあってもdiscloseを使います。

文例17
請求項1では、スプリンクラー・ノズルがプールサイドに設けられているという構成になっています。

Claim 1 recites configuration that a sprinkler nozzle is provided on the swimming pool side.
注)このような日本語をよく見かけます。「請求項1が~のように構成されている」という文章です。言い換えると「請求項1は~という構成を記載している」ということです。したがって、claim 1 recites configuration (such) that ~ のように訳します。
In Claim 1, a sprinkler nozzle is provided on the swimming pool side.
のように訳すと誤りです。「クレーム1では、スプリンクラー・ノズルがプールサイドに設けられている」という意味になってしまうからです。つまり「クレーム1」という設備(建物など)があり、そのなかでは「スプリンクラー・ノズルがプールサイドに設けられている」という構造を述べることになるからです。
注)文例15~17は、拒絶理由通知、拒絶査定、拒絶審決など審査官が特許出願に対して判断を下す書面で述べる文章です。

 

【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載

記事一覧