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第13回 すんなり入れる特許翻訳 ― 特許出願の中間手続の翻訳

2020/02/07

特許翻訳入門 

第12回 すんなり入れる特許翻訳
- 特許出願の中間手続の翻訳
 

奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍。
バベル翻訳専門職大学院(USA)では 第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて
「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当 

 
 
それでは、今回も特許中間書類で必要な文章の訳をみていきます。
これは依頼人が代理人に指示したり、日本の代理人が外国代理人に指示する文章です。
・ クレーム1をキャンセルして下さい。
Please cancel Claim 1.

・ クレーム1を削除して下さい。
Please delete Claim 1.

・ クレーム2~5の項番を一つずつ繰り上げて下さい。
Please renumber claims 2 to 5 to claims 1 to 4.
注)クレーム1をキャンセルすると、クレーム2以降が一つずつ番号が繰り上がります。そこでこのような指示を代理人に行うことがあります。クレーム2~5がクレーム1~4になります。

・ 必要であればクレームを追加して下さい。
Please add claims if necessary.
注)これは、「必要なクレームを追加して下さい」と言い換えることもできるため、
Please add necessary claims.
と訳すこともできます。

キーワード)
「必要に応じて」 if necessary, when necessary
Please establish necessary claims.
ということもできます。新たにクレームを「創設する」という場合は、establishを使うこともできます。「新たに創設する」と日本語になっていた場合でも、establishには「新たに」の意味が含まれるため、newly establishと記載することはしません。

 また「クレームを新たに創設する」といっても、クレームをゼロから作成することを意味するのではなく、必要なクレームをいくつか追加することを意味することが通常です。

・ クレーム1と2を合体して下さい。
Please combine Claims 1 and 2.

・ クレーム2をクレーム1に組み込んでください。
Please incorporate Claim 2 into Claim 1.

・ クレーム2をクレーム1に従属させて下さい。
Please make Claim 2 dependent on Claim 1.

・ クレーム2に記載されている「グリップがプラスチック製である」という記載をクレーム1に組み込んでください。
Please incorporate a phrase “a grip is plastic” in Claim 2 into Claim 1.
注)クレームや明細書中の「~という記載」を挙げることが中間処理の指示ではよく行われます。単なる単語やことばではなく、文章を挙げて「~という記載」と述べる場合は、statementでもよいのですが、a phraseという訳語を使うことができます。

「~」という明細書中の記載
a statement “….” in the specification  
a phrase “….” in the specification
注)statementは可算名詞であるため、aを付したり、複数形で使うことができます。しかし「~」という記載は特定されたものを指しているため、the statement “….”のようにtheを付して使います。
「明細書中の記載」「クレーム中の記載」の「の」に当たる部分は、前置詞inで表現します。
「明細書の段落[0001]の「~」という記載」は、
The statement “…” in paragraph [0001] of the specification
「本願の明細書の「~」という記載」は、
The statement “…” in paragraph [0001] of the present application
と記載します。

・ クレームの項番を2⇒1に訂正して下さい。
Please correct the claim number “2” to “1”.

・ 特許請求の範囲の請求項の番号は、たとえば以下のように記載されています。
【請求項】
1 (今回補正された)
2 (削除)
3 (削除)
* 注)請求項1が補正され、請求項2、3は削除された場合です。
これを英訳する以下のようになります。 
Claims 
1 (currently amended)
2 (deleted)
3 (deleted)

・ 明細書の段落[0001] の記載
statement in paragraph [0001] of the specification

・ 明細書の段落[0001]、[0005]、図1、表1参照
see paragraphs [0001], [0005] of the specification; Fig. 1; and Table 1
注) このように、日本語では読点「、」で区切られていても、英語では明細書、図、表の区切りがわかるように「;」で区切ることをお勧めします。特に段落番号が複数列挙されている場合は、図や表との区別をつけるためにも「;」が必要です。

・ 「包装容器」の詳細は、明細書の段落[0001], [0005]参照。
For details of “a container”, see paragraphs [0001], [0005] of the specification 
以下は、特許英語特有の表現ではありませんが、中間書類指示でよく使われる一般英語の表現です。

・ 下線を付した部分 
the underlined part

・ 太字で記載した部分
A part in solid letters

・ 赤字で記載した部分
A part in red letters

・ マーカーを付した部分
A marked part

・ 明細書と特許請求の範囲の記載は整合している必要があります。
The specification and the scope of claims should be consistent.

・ 明細書と特許請求の範囲は完璧に記載されている必要があります。
The specification and the scope of claims should hold water.
注)hold waterは、「水を漏らさない」つまり「完璧である」という意味があります。

・ 明細書は特許請求の範囲によりサポートされている(裏付けられている、根拠付けられている)必要があります。
The scope of claims should be supported by the specification

・ 明細書は当業者が容易に発明を実施できるように記載する必要があります。
The specification shall be stated so as to makes it easier for a person skilled in the art to carry out the invention easily.
The specification shall enable a person skilled in the art to carry out the invention easily.

・ 明細書には発明が明確に記載されている必要があります。
The specification shall state the invention definitely.

・ 特許請求の範囲は簡潔かつ明確に発明が記載されている必要があります。
The scope of claims shall state the invention concisely and definitely.

・ 当業者であっても、引用文献1~3を組み合わせても、本発明を想到することはできなかったでしょう。
Even a person skilled in the art could not conceive the present invention based on combination of Cited Document 1 to Cited Document 3.

・ 当業者であっても、引用文献1~3を組み合わせても、本発明を想到することはできなかったでしょう。
Even a person skilled in the art could reach the present invention if combining Cited Document 1 to Cited Document 3.
注)「~に到達する」は reach to, arrive at, lead toということもできます。

キーワード)
当業者  a person skilled in the art, a person ordinarily skilled in the art
 (その業界の専門家の意味です)
「想到できなかったであろう」「到達できなかったであろう」を英訳するには時制は何を使ったらよいでしょうか?
 仮定法過去完了(could have+過去分詞)ではダメでしょうか?
 仮定法過去完了は、「~であったかもしれない(しかし実際はそうではなかった)」という意味が入るため、拒絶理由で「進歩性なし」と審査官が述べる場合に、「当業者が容易に本発明に到達できたであろう、しかし実際には到達できなかった」という意味になっては困るため、仮定法過去完了は使うことができません。
If I had been studying harder, I could have been a famous scholar.
 もっと一生懸命勉強していたら、有名な学者になっていたであろう(しかし実際はなれなかった)
 ここでは仮定法(could)、または現在形(can)を使います。
If I studied harder, I could become a famous scholar.
 もっと一生懸命勉強したら、有名な学者になるだろう。
If I study harder, I can become a famous scholar. 

・ 審査官と面接して下さい。
We would like you to interview an examiner.
We would like you to hold an interview with an examiner.

・ 審査官と面接して、どのようにクレームを補正すれば特許されるかを尋ねて下さい。
We would like you to interview an examiner to ask him how to amend claims to have a patent granted.
注)特許が許可されるためには、どのようにクレームを補正すべきかを審査官にインタビューして下さい、という意味です。

We would like you to interview an examiner to ask him how to amend claims to have a decision to grant a patent rendered.
注)特許査定が下されるためには、どのようにクレームを補正すべきかを審査官と面接して尋ねて下さい、と訳しています。
「have + 目的語 + 過去分詞」の構文は、「目的語を~(過去分詞)してもらう」という意味を形成します。ここでもhave a decision rendered (決定を下してもらう)という意味になります。renderは「(判決、決定を)下す」という意味があるため、特許英語でもよく使われます。
“render a decision to grant a patent” 特許査定を下すという意味を形成します。

・ 特許査定に至るための補正されたクレームについて審査官に問い合わせてください。 
We would like you to inquire an examiner about amended claims to lead to a decision to grant a patent.

・ 審査官と面接して、引例との違いを説明して下さい。
We would like you to hold an interview with an examiner to explain him differences from cited references.
注)「審査官と面接して、審査官に違いを説明する」という時系列をto不定詞を使って記載しています。
「differences」は正確にはdifferences between the present invention and cited referencesですが、ここでは「本願発明」ということばが日本語には表れていないので、differences from cited referencesで構いません。


プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載



 

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