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第11回 すんなり入れる特許翻訳 ― 機械分野の明細書翻訳

2019/12/07

特許翻訳入門

第1
1回 すんなり入れる特許翻訳
- 機械分野の明細書翻訳


奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活訳し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では
第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
 

            


 前回訳した特開2004-126377号の請求項の関係を図に表すと以下のようになります。

請求項1
 
金型から成形済みの樹脂製部品を取り出す
         

請求項1

 
 では、発明の詳細な説明を訳していきます。以下は、明細書の冒頭の部分であり、「発明の属する技術分野」と「従来技術」です。

 文例 

キーワード)
成形する       form, mold
直後            immediately after 
効率的に       effectively
除去する       remove
製造方法       production process, manufacturing method

訳出のポイント)
「この発明は、~に係り、特に~に関する」は、明細書冒頭の決まったフレーズであり、定型訳は以下の通りです。
“The present invention generally relates to
, and (more) particularly (specifically) to
・「樹脂製部品」「バリ」は実際には複数存在しますが、冒頭から複数形で訳すと、その後もすべて複数形を用いることになり、訳が非常に煩雑になります。たとえば、その後に「樹脂製部品は表面に溝を有する」という文章が登場する場合、”resin parts have grooves on their surfaces”のように、表面、溝などすべてを複数形で訳す必要が生じます。一つの樹脂製部品の表面上の溝が複数なのか、樹脂製部品が複数だから溝も複数形なのか不明になり、単複の関係を曖昧にしてしまいます。

 したがって、明らかに複数であることがわかっているもの(机の脚部、人間の歯、耳、眼など)以外は単数形で記載し、その一つの樹脂製部品について表面に溝が形成されているなどの説明をします。
・「成形後」とは何の成形でしょうか。日本語には表れていませんが、言うまでもなく「樹脂製品の成形」です。明細書にも「成形済みの樹脂製部品」ということばがあります。


 文例



完成訳


文例


キーワード)
従来の技術           prior art
光ファイバ間の接続部材     connecting member between optical fibers 
図~に示す                     shown in Fig. …
光コネクタ部品                   optical connector part 


                                      

訳出のポイント)
 光ファイバをつなぐ光コネクタ部品10は、図3からわかるように2つあります。しかし前述したように、ここでも1つのコネクタ部品10として記載します。日本語でも「光コネクタ部品10」を利用することが記載されており、1つの光コネクタ部品を想定しています。実際には2つのコネクタ部品を介して光ファイバーを接続する場合であっても、1つの「光コネクタ部品10」で接続すると記載しておけば十分です。もし複数の光コネクタ部品を明細書作成者が予定しているのであれば、「光コネクタ部品10、10」と記載するはずです。

文例

                                                              
完成訳


 訳出のポイント)
 ~として~が利用されている       … used as …
usedを用いた「利用されている」というフレーズは他にも数多くあり、その場面に応じて使い分けが必要です。
 ~には~が利用されている                   … used for … 
 ~をするのには~が利用されている    …  used to … 
 ~においては~が利用されている        …  used in …

 文例


この状態を図面で確認してみましょう。

キーワード)
後端部       rear end (part)    (可算)
先端部     end (可算)
露出する    expose

訳出のポイント)
・光ファイバ挿通孔18
光ファイバの端部を露出させた
              ↡ リフレーズ
 光ファイバ挿通孔18
から光ファイバの端部が露出している
 このように言いかえれば訳しやすくなります。「~に~を露出させた」とは「~から~が露出している」ということです。
・この光コネクタ部品10は、~に~を装着し、~に~を露出させた構造を備えている。
「~は~のような構造を備えている」は、特許翻訳では頻出のフレーズであり、
… is configured such that …
という文章構造をとります。
This optical connector part 10 is configured such that …
のように訳し、



                      ↡
完成訳


 文例

「同士」ということばがあっても、これを訳す必要はありません。
“connect the optical fibers through the optical connecter part 10” のように訳せば十分です。
“to each other”を付けることもできますが、”connect optical fibers”とすれば「同士」の意味を表すことができます。


  “one end of a pair of the guide pins 22 is inserted in a pair of the guide hole 20 formed on the end surface 16 of the ferule 12”.
  ここで訳が非常に難しいのは、下の図からわかるように、ガイド孔20は2つあり「一対の」ということばが日本語に入っています。しかしガイドピン22には「一対の」のことばが入っていないため、これらの名詞の単数、複数のいずれを選ぶかという問題が生じてしまいます。
  ガイドピン22は2本、ガイド孔20は2つであり、1本のガイドピン22が1つのガイド孔20に入ります。したがってガイドピン22にも「1対の」のことばを補って訳します。

 


            
  “one end of a guide pin 22 is inserted in a pair of guide holes 20” (×)
  “one end of each of guide pins 22 is inserted in a pair of guide holes 20” (×)
どちらの英文も「1本のガイドピンの一端が、一対のガイド孔に挿入される」ことを意味しており、1つのガイドピンが対になっている2つのガイド孔に挿入されるように読み取れてしまいます。
 したがって、上の図の状態を正しく表現するためには、”a pair of guide pins”のようにガイドピンも1対であると表現せざるを得ません。つまり“a pair of”のことばを入れざるを得ません。日本語では「ガイドピンの一端を一対のガイド孔に挿入させる」と書かれていますが、これはガイドピンも1対であり、1本のガイドピンが1つのガイド孔に挿入される、という意味です。






 



【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載


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