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第10回 すんなり入れる特許翻訳 ― 機械分野の明細書翻訳

2019/11/07

特許翻訳入門

第10回 すんなり入れる特許翻訳

- 機械分野の明細書翻訳


奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活訳し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では
第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
 
            


  では本日から機械分野の明細書の訳に移りましょう。「樹脂製品部品の製造方法」(特開2004-126377号)という発明です。

 今回はいきなり特許請求(クレーム)の範囲から訳します。通常、特許請求の範囲は難しく、明細書を訳してからクレームを訳すのが通常ですが、この出願のクレームはわかりやすく、比較的分量も少ないため、いきなり訳せると思います。

 そうはいってもクレームのことばは抽象的であるため、明細書を参照しながら訳していきます。


キーワード)

金型       mold(可算)

成形する     mold    成形済 molded   成形済の~ molded ~ 

樹脂製部品  resin part

取り出す     extract, take out

照射する     irradiate

バリ         burr(可算名詞) バリ取りは、deburring 

除去する    remove

製造方法    a production process, a manufacturing method  

訳出のポイント)

・~という工程と、~という工程と、~という工程とを備えた製造方法
A production process comprising: a step of …, a step of …, and a step of ..
  このクレームは、工程(step)を列挙しているため、上記のように、stepをつなげていけばよいです。

・レーザビームを照射してバリを除去する 
この動作の順序をどのように表現するかが問題です。

 ・照射⇒バリ除去という時系列で訳していくか
 ・照射することによりバリ除去する(照射はバリ取りの手段として訳す)

照射はバリ取りと並列した動作ではなく、あくまでもバリ取りが主たる動作で、照射はそのための手段です。
したがって、removing burrs by irradiating laser beamと訳します。





キーワード)

フェルール           ferrule (可算)

端面           end surface(可算)

ガイド孔             guide hole (可算)

光ファイバ挿通孔   optical fiber insertion hole (可算)

開口部周縁           opening rim, aperture rim (可算)

それぞれの    respective, each

訳出のポイント)

~が~であり、~を照射し、~を除去する
「照射する」「除去する」の主体が記載されていません。装置、それを操作する工場労働者などが主体ですが、特許請求の範囲には記載されていないため、どのように訳出するかが問題になります。そこで2つの方法があります。

訳出1)装置や労働者を主語として挿入することなく受動態で訳す。
 ~が照射され、~を除去される (… is irradiated, and … is removed)

訳出2)この製造方法は、照射し、バリを除去するという動作から構成されるとして訳す。
 The production process comprises irradiating …, and removing ….
 
ここでは訳出2)の方法をとって訳します。 




キーワード)

所定の                prescribed, predetermined, certain

作業ステージ      working stage(可算 )

配置する           dispose, arrange, place 

先端部                end, tip(可算)

装着する          attach, mount, wear
 *「装着する」には、着用すること、取り付けることの2つの意味があり、ここでは「取り付けること」の意味で使われているため、attach, mountという訳語を使います。「着用する」意味であれば、wear 

レーザヘッド      laser head(可算)

訳出のポイント)

・樹脂製部品をロボットハンドによって配置させる
⇒(リフレーズ1)ロボットハンドを使って樹脂製品を配置する 
                  disposing the resin part using (with) a robot hand  

⇒ (リフレーズ2) ロボットハンドに樹脂製品を配置させる 
                  letting a robot hand to dispose a resin hand  

・レーザビームを照射し、バリを除去する
製造方法は、①配置する、②照射する、③バリを除去するという3つの動作から構成されています。
これをcomprisingを移行句としてつないでいきます。


 


では準備ができたので訳します。


 完成訳
 The resin part production process according to Claim 1 or 2 comprising disposing the resin part extracted from the mold on a prescribed working stage using a robot hand; and then removing the burr by irradiating the laser beam to the part from a laser head mounted to an end of the robot hand.  

ここで明細書と特許請求の範囲(クレーム)を表した「サポート要件」という特許要件を説明します。
  クレームの記載は明細書により裏付けられている必要がある、という特許要件があります。
つまりクレームで特許請求する発明は、明細書に記載されている事項であり、明細書に記載されていない事項は特許請求できないという要件です。
 
 これは明細書の記載の方がクレームより広い必要があるということです。

  たとえば、請求項2は以下の点が記載されています。
・樹脂製部品がフェルールであること
・フェルールの端面に形成されたガイド孔及び光ファイバ挿通孔に対してレーザビームを照射し、バリを除去すること
 
 これは明細書の以下の記載と整合しています。
「樹脂成形されたフェルール12は図示しない超精密金型から取り出され、ロボットハンド30のマニピュレータ35で把持されて移送ステージ36上に搬送される。
 そして、移送ステージ36上の固定用凹部38内にフェルール12の後端部を装着させた後、レーザヘッド32からレーザビームLをフェルール12の端面16に照射する。
 この結果、図2に示すように、レーザビームLがガイド孔20や光ファイバ挿通孔18の開口部周縁に形成されたバリ40に入射し、これを消滅させる。」
 




訳出のポイント)

・ 図示しない超精密金型
  “a high-precision mold (not shown)のように、「図示しない」は括弧書きで入れます。

・ フェルール12は・・・移送ステージ36上に搬送される
「~上に」は、注意が必要です。ontoという動きを表す前置詞を使います。 on+toの組合せから成ります。 
 a ferule 12 is transported on a transfer stage 36
と訳すと、「フェルール12は移送ステージ36上に載ったまま搬送される」という意味になってしまいます。

 樹脂成形されたフェルール12は図示しない超精密金型から取り出され、ロボットハンド30のマニピュレータ35で把持されて移送ステージ36上に搬送される。

  完成訳
  “The resin molded ferule 12 is extracted from the ultra-precision mold (not shown) and grasped by a manipulator 35 of a robot hand 30 and transported onto a transfer stage 36.



 訳出のポイント)

 ・ 固定用凹部    concave portion for fixation (可算) 

 ・ 後端部         rear end portion (可算)

 ・ ~内に装着する mount in …, attach in …

  完成訳
  The rear end portion of the ferule 12 is mounted in a concave portion for fixation 12 on the transfer stage 36 and then laser beam L is irradiated on the end surface 16 of the ferule 12 from the laser head 32.



訳出のポイント)

・ この結果  As a result
 前の文章全体を受けて、「この結果」として続ける場合、つまりここでの文章のように、
「・・・ レーザビームLをフェルール12の端面16に照射する。この結果、図2に示すように、レーザビームLが ・・・」
という場合は、whichは、
“…the laser beam L is irradiated to the end surface 16 of the ferule 12, as a result of which the laser beam L ….”
のように、前の文章全体を先行詞とする関係代名詞です。
”as a result of 関係代名詞(which)という長い節を形成しています。

注)このように、関係代名詞が他のことばや前置詞と組み合わさった節は他にもあります。
“both of which”, “neither of which”, “one of which”, “either of which”などです。
 The method comprises an irradiating step and a deburring step, both of which
are … performed …
 The method comprises an irradiating step and a deburring step, neither of which
are … performed …
 The method comprises an irradiating step and a deburring step, either of which
is … performed …
 The method comprises an irradiating step and a deburring step, both of which
are … performed …
  
 完成訳
 As a result, the laser beam L enters and removes a burr 40 formed on the opening rim of a guide hole 20 or an optical fiber insertion hole 18 as shown in Fig. 2”.


  
 



【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載


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