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第7回 すんなり入れる特許翻訳-IT分野明細書訳&化学分野の特許翻訳

2019/08/07

特許翻訳入門

第7回 すんなり入れる特許翻訳

- IT分野明細書訳&化学分野の特許翻訳


奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活訳し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では
第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
 
            


I.  IT分野明細書訳
 では、前回積み残した
IT分野の明細書(特開2004-32605号)の訳からです。これでIT系明細書の訳は一旦終了します。
 
文例


 
(訳)
An email response system described in Claim 2 is based on Claim 1 and characterized by that the management server comprises means for sorting based on the number of accumulation of emails that have been already associated with persons in charge when associating certain persons in charge with emails in the email database.  
 This enables to sort emails to persons in charge in a balanced manner, which can prevent a large load from being imposed on certain persons in charge”.


文例


(訳)
An email response system described in Claim 3 is based on Claim 1, and characterized in that the management sever further comprises a database in which a distribution rate set for each person in charge is registered; and means for sorting the number of accumulation of emails associated with each person in charge so as to match the distribution rate, making reference to the database when associating a certain person in charge with each email in the mail database. 
 As a result, it is made possible to sort emails according to experience and ability of each person in charge


・「請求項
に記載した電子メール応答システム」
 
“An email response system described in Claim 3 is based on Claim 1” and characterized in that it comprises … 

・~は~を備えたことを特徴としている

is characterized by comprising
is characterized in that it comprises
comprises
欧州のクレームでは、「~を特徴とする」は、
”… is characterized in that …, is characterized by …”のように記載しますが、アメリカのクレームでは”… comprises …”で「~を備えたことを特徴とする」の意味があります。

・「各担当者ごとに設定された分配比率を登録しておくデータベース」

a database which stores a distribution rate set for each person in charge
ここで「各担当者」は”each person in charge”のように”each”を付して単数で訳します。
なぜなら、各担当者ごとに配分比率が決まっており、各担当者と各分配比率が一対一の関係で設定されているからです。
”distribution rates set for persons in charge”のように「複数対複数」で記載すると、対応関係がわからなくなります。

・「上記メールデータベース内の各電子メールに対して処理すべき特定の担当者を関連付ける際に、上記データベースを参照して各担当者に関連付けられた電子メールの累積数が上記分配比率に合致するように振り分ける手段」

「~と~を関連付ける」

associate with …”
「処理すべき特定の担当者」 

“a certain person in charge who is required to handle”
「メールデータベース内の各電子メール」

“each email in an email database” 
「データベースを参照して」

“making reference to a database”
「各担当者に関連付けられた電子メールの累積数が上記分配比率に合致するように振り分ける」

“sorting the number of accumulation of emails associated with each person in charge so as to match the distribution rates”
 予め決められているメールの分配比率に合致するように、メールを累積させることを述べています。
「~するように~する」 

 … so that 構文は中学や高校で習っていますが、”so as to …”は馴染みの薄い人もいるかも知れません。
 “… A so that B…”  Bとなるように、Aする
 “…A so as to …”   …となるように、Aする  
という違いがあります。
 
Ⅱ 化学分野の特許翻訳
 
IT分野はこれくらいにして、化学分野の特許の翻訳に入ります。化学翻訳の需要は多いです。純粋な化学だけでなく、健康志向や高齢化社会が加速するなか、医療、健康関連の技術も数多く特許出願されています。

 化学というだけで敬遠せずに、健康関連雑誌を読みながら知識を付け、専門用語を知ることで文系で化学分野の翻訳者になった人もいます。

 本誌で紹介する以下の特許はそのような健康、医療関連特許ではなく、「汚水処理方法」の特許です。一緒に訳していく過程で、決して難しいことではないことがわかるでしょう。

 以下は、ある化学分野の特許出願の要約です。
 要約とは、この特許出願は「簡単にいうとこんな発明だ」「一言で言うとこんな発明である」ことを述べた書類です。

 最初に要約を読めば大体どんな発明であるかがわかるように記載します。

文例


(訳)
Realization of a method of treating sewage capable of effectively preventing bad smelling occurring from hydrogen sulfide and methyl mercaptan generated during a process of treating the sewage.

キーワード)
汚水  
sewage
汚泥  
sludge 
処理過程
a process of processing …, a process of treating
~を処理する過程はこのように表現しますが、単に処理過程というときは、

a processing process
a treatment process

生成する  
generate
発生する  
occur
臭気       
bad smelling
硫化水素  
hydrogen sulfide
メチルメルカプタン
methyl mercaptan

キーフレーズ)
~を抑制する  
prevent
 ~が~するのを抑制する  
prevent from
 「~から発生する臭気を抑制する」は、

 prevent bad smelling occurring  from …”
とすればよいです。

文例


(訳)
The present relates to a method of treating sewage, especially relates to a method of effectively preventing bad smelling from hydrogen sulfide and methyl mercaptan which are malodorous substances generated from sludge (including dewatering cakes) exhausted during a process of treating sewage at sewage treatment plants etc. 

キーワード)
下水道処理場

sewage treatment plant

排出する

exhaust

汚水

sewage

汚泥

sludge

脱水ケーキ

dewatering cake

悪臭物質

malodorous substance

注)
・「下水処理場等汚水処理」は、「下水処理場等における汚水処理」とリフレーズして訳します。「下水処理場等の」「の」につられて
ofと訳すのは間違いです。

・汚泥(脱水ケーキを含む)
(~を含む)という場合は、(
including)と訳します。(~を除く)は(excluding
)です。
ここで問題となるのは、
sewage, dewatering cakeが単数か複数かです。
sewageは不可算名詞であるためsをつけませんが、dewatering cakecakeが「固まり」という意味を持つときは可算名詞であるため、sをつけることができます。お菓子のcakeは不可算名詞であり、a piece of cakeと表現することはご存知でしょう。 
下水処理場等の汚水処理の過程で排出される脱水ケーキ全般を指しているため、複数形とします。

キーフレーズ)
この発明は~に関し、特に~に関する。

The present invention relates, and specifically relates to
明細書ではおきまりのフレーズです。

文例


(訳)
During the sludge treatment process, sulphur compounds such as hydrogen sulfide and methyl mercaptan; nitrogen compounds such as ammonia, trimethylamine, and low fatty acids etc. which are malodorous substances occur due to the corruption etc. of sludge.

キーワード)
硫黄化合物      
    sulphur compound
アンモニア          
ammonia
トリメチルアミン     
 trimethylamine
窒素化合物           
nitrogen compound
硫化水素             
hydrogen sulfide
メチルメルカプタン 
methyl mercaptan
低級脂肪酸類      
low fatty acids
腐敗                   
 corruption
「類」は
sをつけることにより表現することができます。
“or the like”をつけることもあります。「~等」という意味です。 

キーフレーズ)
・汚泥が腐敗する等して~が発生してくる
「汚泥の腐敗等により、~が発生する」とリフレーズすることができます。

“occur due to corruption of sludge etc. ”と訳します。  
「汚泥が腐敗するため、~が発生する」

becauseを使って、
“occur because sludge becomes corrupt"と訳すこともできます。

注)
「悪臭物質である」が「硫黄化合物」を指すことはわかりますが、「窒素化合物」「低級脂肪酸類」を指すでしょうか?
 これを明確にしておかないと、
”which are malodorous substances”をどこに置くかが変わってきます。
 すべてを指すのであれば、
low fatty acids etc.の後に置きます。

 硫黄化合物、窒素化合物、低級脂肪酸類は悪臭物質の代表格です。これは
Google(登録商標)による検索で調べることができます。

☆検索について触れておきます。
 化学の知識がない方は、調べながら翻訳をする必要があります。知識がないと、この場面のように、
which are malodorous substances”を置く場所を誤ってしまうことになるからです。

 “窒素化合物 * 悪臭”
 “低級脂肪酸類 * 悪臭”
という
Google®による検索を行います。
 「*」を入れたのは、ここには他の文言が入ってもよいという指定をしています。たとえば「窒素化合物からの悪臭」「窒素化合物は悪臭を放つ」「窒素化合物は悪臭を放つ」のような文章やフレーズを検索するためです。

 明細書の文言では「悪臭物質」と記載されていますが、「悪臭を放つ」ことを広く検索するため、「悪臭」と文言のみ入力しておきます。

 その結果、「窒素化合物」「低級脂肪酸類」は悪臭物質であることがわかりました。したがって、
悪臭物質である硫化水素 ・・・ 硫黄化合物、・・・ 窒素化合物低級脂肪酸類等」
 のように「悪臭物質」が

「硫化水素」
「硫黄化合物」
「窒素化合物」
「低級脂肪酸類」

にかかるように訳す必要があります。



 

 


【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載


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