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第2回 すんなり入れる特許翻訳-普通の英語から簡単に特許の英訳ができるようになる

2019/02/22

特許翻訳入門

第2回 すんなり入れる特許翻訳

-普通の英語から簡単に特許の英訳ができるようになる


奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活訳し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では
第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
 

            

 第1回連載では、
特許翻訳ではどのような書類を翻訳するのか? 
特許翻訳の需要はどのようなシーンで発生するのか?
を特許出願~特許発行の大まかなフロー、そして海外に特許出願する際の処理の流れと共にチャートを示しながらお話ししました。

 特許制度やフローについては、簡単に語りつくせるものではありません。しかし特許翻訳をするにはすべてを詳細に知る必要はなく、この連載では、翻訳に必要な知識のみ追々挙げていきます。

 第
回連載では、あるIT系技術分野の明細書を例にとり、英訳していきます。その前提として、明細書とは何でしょう? について簡単に触れておきます。

 特許翻訳の仕事は
90%以上が明細書、特許請求の範囲の翻訳です。
 明細書とは、特許出願をする発明を詳細に説明した書類であり、特許請求の範囲、要約書、図面と共に特許出願する際に提出する重要な書類です。

 特許請求の範囲は、明細書で説明した事項のうち、特許を取得したい発明を記載した書面ですが、これは非常に特殊な文体で書かれているため、読むことが躊躇される場合が多く、特許翻訳を避ける人が多いのもこの書類の難しいと考えられてしまうからです。

 しかしこれも形式さえ覚えれば決して難しいことはありません。この点は次回以降の連載に譲るとして、今回は、読みやすい明細書を英訳します。明細書は前述したように発明を詳細に説明しているため、当然のごとくわかりやすく書いてあります。明細書は通常の文体であり、特にIT系の明細書の冒頭部分は、だれが読んでもすぐにわかる文章です。

 まず以下を読んでみましょう。



 明細書の冒頭の部分です。このように、まず発明の大まかな技術分野を述べます。「電子メール応答システム」というのが技術分野です。

・ 「この発明は~に係り、特に~に関する」として「特に」以下でもう少し詳しい技術分野を説明します。
・ 「顧客からのクレームのメールを複数の担当者に分担して処理させるためのメール応答システム」というのがもう少し詳しい技術分野です。

 では英訳します。

・「この発明」        
   the present invention
・「電子メール応答システム」  
an email response system
・「この発明は~に係り」        
the present invention relates to …

・「多数の顧客から送信された問い合せやクレームの電子メール」
さて、この訳は難しいです。一緒に考えてみましょう。

「問い合わせやクレームのメール」とは英語で何というでしょうか?

emails of complaints or inquiriesでしょうか?

正確に言うと、

emails saying complaints or inquiries
ということです。

もう一つの訳があります。ここでいう対象は、「問い合わせやクレーム」です。
これがメールという手段を使って送られてきています。
したがって、

inquiries or complaints emailed from many customers 
inquiries or complaints sent from many customers by emails

としたらどうでしょうか?


“email”は「メールする」という動詞として使えること覚えておきましょう。

「クレーム」
 このことばは要注意です。特許業界では「特許請求の範囲」の「クレーム」と呼びます。
実際にアメリカや欧州は特許請求の範囲を
claimsと表現します。

 しかしこの明細書でいうクレームは「苦情」を意味してます。
claimと訳したら大間違いであり、complaintです。

 特許請求の範囲の
claimも、苦情の意味ではなく、「特許権を要求する書類」という意味で使っています。

・ 「複数の担当者が分担して応答処理する」

a plurality of persons in charge share making responses
 注)「複数の」は名詞を複数形にするだけでなく、
”a plurality of“, “multiple”, “several”のように複数を指すことばを付けましょう。明細書では単複を明確にするために、「複数の」ということばを付けることが多いです。英語では名詞を複数形にすればよいのですが、日本語では名詞には単複の区別がないため、「複数」であるときは「複数の」を付けます。英訳でこれを訳しましょう。

 「担当者」(
a person in charge, a responsible person)は特許のコレポンでもよく使う言葉ですので訳を覚えておきましょう。海外の法律事務所にメールやレターを出す場合には、
「この事件の担当者、奥田 百子弁理士が・・・」のように記載するからです。
・「~することを可能にするメール応答システム」
「~することを可能にする」は特許翻訳では頻出の表現です。

 “enable”を使い、以下の公式に当てはめます。

公式1 
   「主語
enable to ~ 」  
⇒  「主語」により「人」が~できるようになる。
 では、公式1を当てはめて、以下の文章を訳します。



では完成した訳を確認してみましょう。


 ここまで一緒に訳してみて、おわかりになったと思いますが、特許翻訳は普通の英語と全く変わらないということです。特に特許翻訳の経験や知識のない方でも楽しく訳せたと思います。このように特許翻訳は決して敷居の高いものではなく、英語のできる皆さんであれば、すらすらと訳せる文書です。

 では次回は、明細書の「従来技術」の項目を訳します。以下の文章を訳しますので、時間のある方は是非、読んでみて下さい。

2 従来の技術 
 次は「従来技術」を記載します。この発明の技術分野にはどのような既存の技術があったかを述べ、それがどのような欠点があったかも述べます。

 その欠点を克服するためにこの発明がされたことを主張するからです。

 既存の技術であれば特許する必要はありません。既存の技術には欠点があり、それを克服するから、この発明を特許売る価値がある、ということを審査官にわかってもらう必要があります。




 これも全く普通の文章であり、難しいところはありません。次回はこれを訳します。

 

【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載