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【新連載】 第1回 特許翻訳入門 ―すんなり入れる特許翻訳-普通の英語から簡単に特許の英訳ができるようになる

2019/01/22

新連載
第1回 特許翻訳入門
すんなり入れる特許翻訳

-普通の英語から簡単に特許の英訳ができるようになる


奥田百子(おくだももこ)
奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活訳し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では
第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
 

            

特許翻訳とは

 これから特許翻訳についての連載をしていきます。
 特許翻訳、つまり特許にまつわる翻訳は敬遠されがちです。なぜかというと、特許に難しいイメージがあるからです。特許という最先端の技術、AI(Artificial Intelligence)、Fintech (Financial technology)特許、ビジネスモデル特許、IoT(Internet of Things)関連特許、IT関連特許、ソフトウエア特許などのことばが思い浮かびます。確かにこれらの最先端の技術に関連する特許の文書(明細書、特許請求の範囲、要約書)を訳すのが特許翻訳です。

 特許にはこのようなソフトウエア、IT技術分野の他に、伝統的な技術分野である化学、電気、機械分野の特許があります。文系の人は「電気とか化学なんて高校時代でもう沢山」「訳すなんで無理」と思うでしょう。また理系の人は専門分野以外の技術は訳せないと思う人もいるでしょう。


 しかし実は特許文書を訳すのは決して難しいことではなく、英語に興味がある皆さんであれば、十分に訳すことができます。なぜなら特許文書のほとんどの部分は普通の日本語の文章だからです。

 その点を本連載について毎回、実例を挙げながら実証します。この連載を読み終わるころには、皆さんは特許翻訳をやっていけるという自信がつき、それどころか特許翻訳を是非やっていきたいと思うようになるでしょう。


特許翻訳はどのような書類の翻訳? 英語でなんていうの?
 以下はおおよその特許出願~特許発行のフローです。

 


 ご覧のように多くの書類が出願人と特許庁の間でやり取りされますが、これらすべての書類について翻訳が発生します。
⇒特許出願(明細書、特許請求の範囲、要約、図面)の訳語:patent application (specification, claims, abstract, drawings(figures))

 拒絶理由通知(特許庁で審査された結果、拒絶理由(新規性なし、進歩性なしなどが頻繁にされる主な拒絶理由)が発見された場合は、これを出願人に通知します。

 拒絶理由は複数回来る場合があります。(例、最初は新規性、進歩性なし、そして新たな拒絶理由が見つかった場合は、特許請求の範囲の記載不備を理由とした2回目の拒絶理由)
⇒ 「拒絶理由通知」の訳語:notice of reason for refusal
意見書(argument)、補正書(amendment)(拒絶理由に対して反論する文章、つまり拒絶理由に該当しないと反論する文章が意見書であり、たとえば引例(拒絶理由で挙げられた先行技術文献)との違いを強調するために特許請求の範囲を補正したり、記載不備の拒絶理由を解消するために特許請求の範囲を補正するのが補正書)

拒絶査定(意見書や補正書を提出しても拒絶理由が解消されなかった場合に下される拒絶すべきとの決定)
⇒「拒絶査定」の訳語: decision of rejection

特許査定(意見書や補正書により拒絶理由が解消された場合に下される特許してもよいとの決定、拒絶理由が全く通知されず、ストレートで特許査定になる場合もあります)
⇒「特許査定」の訳語:decision on granting a patent 

拒絶査定に対する不服の審判(拒絶査定が下された場合に、3か月以内に不服の審判を請求することができます。それまでは特許庁の審査部で審査されましたが、審判部という上級審で審判官により、拒絶査定が正しかったかが審理されます。拒絶査定に対して、不服審判を請求しないと、拒絶査定は確定してしまい、特許出願は最終的に拒絶になります。)
⇒「拒絶査定に対する不服の審判」の訳語:Trial for contesting a decision of rejection

拒絶審決(拒絶査定不服審判を請求して審判部で審理されたが、やはり拒絶すべきとの判断がされた場合は、拒絶すべき旨の審決が出されます。)
⇒「拒絶審決」の訳語:Trial decision that a patent application shall be rejected

特許審決(拒絶査定不服審判を請求して、審判部で審理され結果、すべての拒絶理由が解消し、特許すべきとの判断がされた場合は、特許すべき旨の審決が出されます。)
⇒「特許審決」の訳語:Trial decision that a patent shall be granted

特許料納付(特許査定や特許審決が出た場合は、特許料を納付することで特許が発行されます。特許権の存続期間は原則として出願日から20年であり、原則として第1~3年分の特許料を納付することで特許が発行されます。)
⇒「特許料納付」の訳語:Payment of patent fees

特許発行(特許法のことばでは、「特許権の設定の登録」といわれます。特許査定が下されただけでは特許は発行せず、原則として第1~3年分の特許料納付が必要です。)
「特許発行」の訳語:Patent issuance


どんなときに特許翻訳が必要になる?
 出願~特許のフローが日本と外国の間で行われる場合、特許翻訳者が登場します。


 

   日本の出願人(通常は日本の会社)が日本の代理人(日本の弁護士、弁理士)を通して、外国(例、アメリカ)に出願する場合、外国代理人(例、アメリカの弁護士)を通して外国特許庁(例、アメリカの特許庁)に出願します。

 出願した後は、オフィスアクション(Office Action)(日本の拒絶理由通知に該当するもの)が発行され、意見書(argument)、補正書(amendment)を提出するなど、日本国内と同じような手続が始まります。

 この過程で、日本の出願人(会社)または日本の特許事務所が外国の特許事務所とコレポン(correspondence)するため、特許翻訳の需要が生じます。

 明細書、特許請求の範囲など出願書類の翻訳から始まり、オフィスアクション、意見書、補正書、特許査定など外国の特許庁が発行する書類を翻訳し、それに関連する外国の特許事務所とのコレポンの仕事が発生します。ここでは外国語(英語)の日本語に対する和訳の仕事があります。

 このように日本の出願が外国特許庁に特許出願するシーンを業界用語で内外(ないがい)といいます。
 これに対し外国の出願人(外国の会社)が日本特許庁に出願するシーンを外内(がいない)といいます。外国語(英語)の日本語に対する和訳の仕事があります。

 また海外代理人との折衝では、メールの翻訳、外国の特許制度プレゼン資料の翻訳の需要も生じます。
 特許になった後は、侵害問題が生じたり、無効審判裁判が請求されることもあり、侵害訴訟の裁判資料(準備書面など)や無効審判請求書、それに対する答弁書の翻訳、ライセンス契約、これらに関する代理人とのコレポンの翻訳もあります。

 このように数多くの種類の書類を翻訳する特許翻訳の仕事の需要は高く、特許翻訳者が仕事を奪い合っているのが現状です。


特許翻訳の世界にゆるかにテイクオフ
 前述したように、特許は技術が関係するため難しいという印象がありますが、様々な文書の翻訳需要があり、技術以外の翻訳も依頼されます。いかなる専門分野の方でも十分にやっていける翻訳です。

 その一方で、特許翻訳のほとんどは、明細書や特許請求の範囲の翻訳ですが、これにも様々な技術分野があり、誰でもが親しめる技術もあります。

 この連載では、明細書や特許請求の範囲の英訳を学んでいきます。和訳は日本語のネイティブである皆さんはネイティブチェックも必要なく、完成することができます。しかし外国に特許出願する際には英訳が必要です。

 日本人の翻訳者は英訳を敬遠する傾向が多いですが、私としては海外出願に対処できるように、是非英訳を専門として頂きたく、本連載では特許翻訳の英訳について書かせて頂きます。

 技術分野は誰でもが入りやすいIT分野に限定することなく、電気、機械、化学の明細書をとり挙げて英訳していきます。
 この連載が終わるころには、読者の皆さんは多くの技術分野を扱える英訳特許翻訳者となっていることでしょう。
 連載の第2回~第10回では、IT分野、電気、機械、化学の明細書を英訳しつつ、特許に必要な知識、検索に触れていきます。特許の知識ゼロの方でも、一般英語(特許以外の英語という意味)からすんなりと特許の世界に入れるように、できるだけ敷居を低く設定し、緩やかに特許翻訳の世界にテイクオフして頂きます。

 第11回~第12回では、中間書類といわれる意見書や補正書、拒絶理由通知の翻訳、代理人とのメールの文章を学んでいきます(中間書類といわれるゆえんは、出願~特許の間で発行、提出する書類だからです)。

 そしてさらにこれまで得た特許の知識、特許英語をまとめ、皆さんの知識を総仕上げします。

 次回は、IT関連の明細書を挙げながら英訳を学んでいきます。是非お楽しみに!

 

【プロフィール】
奥田百子(おくだももこ)
・外資系銀行を経て特許事務所にて勤務
・現在、奥田国際特許事務所にて、翻訳者、執筆者、弁理士として活躍し、バベル翻訳専門職大学院(USA)では第3科目「特許・技術・医薬翻訳専攻」にて「特許翻訳レベルⅠ(英日)」をプロフェッサーとして担当
・「現代日本執筆者大辞典・第5期」(日アソシエイツ)に掲載されている
・元 弁理士試験委員
<著書>
「ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語」(秀和システム)
「国際特許出願マニュアル2版」(中央経済社)
「特許翻訳テクニック2版」(中央経済社)
「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解著作権法のしくみ(2版)」(中央経済社)
「なるほど図解商標法のしくみ(3版)」(中央経済社)
「米国特許法改正のポイント」(中央経済社)
「ネイティブに笑われない英文ビジネスメール」(中央経済社)
「こんなにおもしろい弁理士の仕事(3版)」(中央経済社)
「誰でも弁理士になれる本(4版)」(中央経済社)
「なるほど図解特許法のしくみ第3版」(中央経済社)
「自宅でできる翻訳の仕事」(ペーパーバック+電子書籍、インプレスR&D)
「知的財産関係条約基本解説」(法学書院、2017年1月)
「現代日本執筆者大事典・第5期」(日外アソシエーツ)所載