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第二十二回 私にとってのCAP資格 - 丸山一子

2019/07/22

世界で活躍するビジネス・パーソンのパスポート―
アメリカCAP(Certified Administrative Professional)試験


第二十二回 私にとってのCAP資格




       
               
                

                                  丸山一子(マルヤマ カズコ)



 雇用され続ける能力(
Employability)の源泉となるもの - 私がCAPを受験したのは1997年で、まだこの資格にCertified Professional Secretary (CPS)というタイトルが使われていた時代でした。駆け出しの秘書で、体系的に秘書の技術を勉強したこともなく、また英語をなんとかネイティブレベルに近づけたいと思ったのが受験のきっかけでした。TOEICを会社で受験していたものの、それだけでは試験対策用の限られた英語力しか身につかず、実践力のある本物の英語力を求めていました。そこで日本にいながら留学効果を期待できるCPSを受験することを思い立ち、バベルのCPS受験対策講座を受講したのが始まりです。それから20年余り、自分を振り返ってみますと、Employabilityの源泉となるものに3つあると感じています。

1.職業専門性
たとえ狭い領域であってもある分野に特化して高い専門性を持った人は頼りになります。問題が発生したときに解決の知恵をたくさん持っており、どんな疑問にも答えることができ、専門分野における豊かな実績があり、その分野の人脈を持ち、最新の情報の入手と自己研鑽怠らない、安心して仕事を任せることができる人です。資格は公的にその専門性を保証するものです。私の場合は国際秘書を目指していましたから、
CAPのホルダーになることは、職業専門性を高めることに直結していました。高い英語力もここに含まれるでしょう。

2. 業界で培われた知識と経験
即戦力を求められる昨今の転職活動では、その業界に詳しい、その業界でキャリアが確立しているというのはとても有利です。業界用語に精通している、業界の文化になじんでいる、人脈がある、同じ業界の他社での経験があり、業界での実績が証明されていれば、これほど強いことはありません。同じ業界であれば、日本を出て海外の同じ業界の会社に転職することも容易になるでしょう。私の場合はエンジニアリング業界という独特な業界に長く勤めておりますが、この業界で実績があることは転職にかなり有利で、海外の同じ業界に転職し日本脱出した若手社員、グローバルに業界を渡り歩いている一匹狼のようなキャリアのあるエンジニアなどが普通にいます。


3. 人間性
最近はコミュニケーション能力の向上といって、小手先の言葉の使い方や印象マネジメントばかりが注目される傾向にあります。心理学を応用して人を操るようなビジネス本もあります。しかし、人の本質というのは一緒に仕事をしていると、遅かれ早かれ見破られてしまうものです。私は、秘書という職業柄のせいか、人を褒めるのが得意です。その人の良いところを見つけて、さりげなくマメに褒めるようにしています。先日、同僚に「あなたはよく人を褒めて良いけれども、潜在的に人に愛されたいという飢餓感があって、それを満たすために人を褒めようとしている感じがちらりと見える」と言われ、ドキリとしました。私は自分のために人を褒めていたのであって、その人の良さを心から認めてその人のために褒めていたのとは違っていたのです。人は本当によく見ています。温かい労り、心を尽くした気遣い、誠実さ、感謝の心、公正さ、素直さなどは、人の心を打ちます。ビジネスといえども、会社は生身の人間の集まりですから、こういった人間性が組織の血肉となり機能すると思います。

 最後に、これら
3つの源泉に関連して、CAPの学習分野である組織行動学の世界から「組織市民行動」という用語をご紹介したいと思います。先ほど、人間性のところで、会社は生身の人間の集まりと申し上げましたが、会社で働く人は、会社が業務として指示したことでなくても、会社や周りの人のために自分の役割を超えて自発的な行動を取っているものです。そういった自発的な行動が組織の血肉となり、組織での活動を円滑にしています。そのような行動は、業績評価で評価されることもなく、給与や昇格に直接的に反映されることもないのにです。このような行動を「組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior)」と呼び、研究の対象となっています。例えば、自分は指導員ではないのに、積極的に新入社員にあれこれ教えてあげるという行動です。または、同僚がレポート提出の期日を忘れていそうなので、リマインドしてあげる行動です。

組織市民行動の因子モデルは様々ありますが、例えば
D.W. Organ(1988)は5因子を上げています。
1) 愛他主義(altruism) 会社の問題や困っている人を自発的に助けること
2) 誠実さ(conscientiousness) 出勤、社則、休憩などを十分に守ること
3) スポーツマンシップ(sportsmanship) 不満や苦情を言う事を控えること
4) 礼儀正しさ(courtesy) 仕事上の問題が他人に起こらないよう助言をしたり、情報を伝えたり、具申すること
5) 市民の美徳(civic virtue) 求められていなくても重要そうな会議や研修に任意で参加したり、文献を読んで状況を把握すること

 さて、これを見てどう思われたでしょうか。私たちはこのような見えない行動をたくさん発揮しているのではないかと思います。時には、自分はいつまでも頑張りを認められない、世渡りが下手だと嘆いたりもするかもしれません。私は、職場で何気なくとっている行動にも、このように経営学上の名前がついていて、組織を助ける重要な一分野として研究されているということを知った時、私は自分の地道な努力が報われたような気持ちがしてとても興奮しました。
CAP受験に向けて学んだことは、こうして私の知見と洞察を深めてくれたのでした。組織市民行動は、まだCAPの試験内容にはなっておりません。ですが、組織行動学の基礎は試験内容に含まれており、その勉強のプロセスの中で発見したことです。この学びをきっかけに、さらに深く産業・組織心理学を学びたい、働く人の心を知りたいと思い、経営学修士に進むきっかけとなりました。私と同じような経験をした人は多くいるようです。CAP受験の学びをきっかけに、新しい勉強に取り組んだり、事業を始めたり、新しい職種を目指したりすることを卒業生からも、よく聞きます。

 ぜひ、新しい扉を開けてみてください。





【プロフィール】
丸山一子(マルヤマ カズコ)
長年にわたる役員秘書を経験後、ビジネス実務、ビジネス英語、コミュニケーション、立ち振る舞い、マナーなど多方面にて講師活動を展開。
同時に大学など学術機関において組織心理・組織行動学を研究 。



 

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