大きくする 標準 小さくする

第七回 CAP資格の活用法③ <職務応用編:なぜ今、ビジネスでCAP能力が求められるのか ~「CAP式働き方改革」とは~>

2018/12/07

世界で活躍するビジネス・パーソンのパスポート―
アメリカCAP(Certified Administrative Professional)試験


第七回 CAP資格受験の効用③
<職務応用編:なぜ今、ビジネスでCAP能力が求められるのか
~「CAP式働き方改革」とは~>


       
               
 河田 幸(カワタユキ):横浜商科大学商学部特任講師。CAP / CAP-OMホルダー
 
 
グローバルビジネス進展の最中、「働き方改革」の導入によって、ビジネス界は流動性を増しているようにも思えますが、皆さんはどのような対策をなさっていますか。何かしたいけれど・・、とお考えの方、活用法のまとめとして今回ご紹介する「なぜ今、ビジネスでCAP能力が求められるのか」を改めて是非お読み下さい。

 それでは早速、CAP取得後に転職した話の続きから入りましょう。この仕事には意外ないきさつもあるのですが、それについては後ほど触れることにします。

 CAP資格を秘密兵器に携えた私は、アメリカのファンドに買収されたばかりのある銀行に応募しました。そこではIT基幹システム入れ替えの大規模プロジェクトが進行中で、システム開発にはインド企業からプログラマーのチームが参加しており、私はシステム開発者側とエンドユーザー、日印の開発者同士、そして、アメリカ人役員との橋渡し役として社内通訳・翻訳を担当することになりました。

 当時の主な職務は、プロジェクト関連のミーティングと役員会議での通訳、指示書、マニュアル、議事録、契約書等の翻訳で、ビジネス英語力に加え、各種銀行業務のシステム開発に関わる、IT・金融用語の知識と各部署の業務理解が必要です。

 社内翻訳・通訳の難しい点は、私の場合であれば、システム企画部の一員としての任務も兼務しているわけですから、単に言葉の受け渡しをすればよいわけではなく、内容に踏み込んで理解し、問題点は持ち帰る必要があります。その際、経緯をきちんと整理して伝えることができなければ、担当者レベルに戻って再確認となり、お互いの時間が取られます。また、システム開発の各段階(要件定義、設計、開発、各種テスト、保守)で、ユーザー側とシステム側の両視点から業務を把握することも大切で、こういったビジネスの根幹部分の理解が、通訳・翻訳の質に影響を与えることになります。

 ですから、CAPで学んだ全体を見渡せるビジネス知識の「土台」は大変役立ちましたし、こういった内容を英語で学んだことは、通訳・翻訳をする上で大きなプラス要素であったことは言うまでもありません。

 これに加え、翻訳と通訳には、発信者・受信者間に介在するワーディングや意図のギャップを埋める機転も要求されます。例えば日本人が文書で好んで使う「処理する」という言葉を、画面に向かってサクサクと、”handle” や “process” などと訳すと、必ずシステム開発側から問い合わせが来ます。「処理」とは、コンピュータに入力することなのか、ファイリングをすることなのか、あるいは承認するということなのか、書き手と読み手の理解が一致しない限り、システムの開発は進みません。通訳の時にも同じで、曖昧な単語が出たら、訳す前に当事者に意味を確認してから言語を置き換えないと、後から指摘され、二度手間になってしまいます。

 ですから日本語から英語にする時は、指示内容が明確になるよう具体的に、英語から日本語にする時は、開発者側が日常使っている専門用語をエンドユーザー向けに噛み砕いて説明を加える等、とっさに判断をしながら(ここはAIと差別化できる点ではないでしょうか。)仕事を進める必要がありますから、システム関連用語はもちろんのこと、各部署が使う専門用語やその背景を理解していることはとても役に立ちました。特に通訳では時間のロスを最小限にしなくてはなりませんので、さっと取りだせるベースがあると心強いのです。

 更に、自分の足りない知識を学び取って行く姿勢も欠かせません。各プロジェクトは固定したメンバーでミーティングを重ねて進んでいきますから、同じつまずきを繰り返すことは許されないからです。
 但しこうした場合、しっかりとした「土台」ができていれば、知識を補ったり、積み重ねることは比較的容易ですが、「土台」そのものを作っている余裕はありません。

 私はいつの間にかできていた「土台」の上にプログラム開発知識を淡々と積み重ねていましたが、後にこれらがCAPの講義で役立つことになるとは考えもつきませんでした。

 さてここからは「本業」に加え、様々な不測の業務にもCAPがサポートしてくれたケースです。

 入社翌日の早朝、CIOに呼び出された私は、大至急でインド人のプログラマーを連れて入国管理局に行くように指示されました。プロジェクトに遅れが出たため、彼の滞在を2週間延ばす手続きを取る必要があるというのです。本人から詳しく事情を聞き、要旨をまとめた英文レターも作成するように、とCIOが指差した先には、頭にターバンを巻いた大柄の男性が心配そうな顔をして座っていました。

 こんな時、「入国管理関連は人事か総務の仕事ではないですか。」とか「レターの雛型はないのですか、どんなことを書けば良いのですか。」などと言い出すようでは中途採用された意味がなく、「即戦力」を入り口で疑われるようなものです。依頼されたこと自体が状況を物語っていることを察知し、自分の判断でどんどん仕事を進めていくしかありません。 

 私は早速、CAPで得た知識の引き出しからあれこれと引っ張り出しました。
 
 「ビジネス法務でビザ関連のワーディングは学んだし、レターは “Persuasive”(説得型)のパターンを応用して、時系列に箇条書きで準備すれば問題ない。人に説明するときは要点を簡潔に、依頼をするときは相手を敬う気持ちを忘れずに、相手の話にはしっかりと耳を傾けながらメモをとり、報告書に反映させる。」
 やるべきタスクを頭の中で整理しながら、ミスター・ターバンの席へと向かい、その後何とかミッションを完遂させました。

 それではこんな仕事はどうしますか?
 
 カレーしか食べないプログラマーたちの必需品である”大食缶”(給食当番になると運びましたよね?)の手配、一体それは何語なの?と聞き返したくなるような名称のスパイスの入手先調査、電化製品の使い方や電車の乗り換え説明の翻訳(今ならスマホで即解決です)、外食の度に行う「豚肉不使用」のチェック・・。

 一見、本来の仕事とは関係なさそうですが、こういった機会から次第に会話や信頼関係が生まれ、ミーティングでもお互いをサポートし合う雰囲気が出てきました。そして個人的には、最初は戸惑っていたインド人の独特な英語のイントネーションや、”Yes” と言いながら首を横に振る習慣にも慣れたことで、通訳もスムーズに進むようになっていきました。この種の仕事は、CAPで学んだ「異文化コミュニケーション論」を通じ、相手を知り、違いを受け入れ、お互いを認め合うという考え方が根底にできていたからこそ、疑問を持たずに対応できたのだと思います。そうでなければ「何でこんな雑用を私がやるの?」となりますよね。

 このようにCAPを学習すると、”Professional” としての意識や働き方がじわじわと自分の中に浸透していくと同時に、 ”First Aid Kit”(救急箱)を持っているような安心感ができます。そして、自分の本来こなすべき仕事に対しても、不測の事態に発生する仕事でも、「時間管理」の箇所で学ぶ、緊急性・重要性を考えながら、常に優先度を意識し、時には権限移譲に頼る判断も含めることで、適切に対処できるようになっていくと思います。

 それでは冒頭で触れました、この仕事を引き受けるに至った経緯をお話しします。

 実は応募当初、アメリカ人役員3人と各部署との連携をサポートする総務部所属の職務と聞いていました。ところがCEO(最高経営責任者)との最終面接で、事態は急展開することになります。
そろそろ面接が終わりに近づいた頃、「ねえ、これから時間ある? 君はITに強そうだし(たいしたことはありません)、通訳や翻訳もできそうだから(自己流です)、これから一緒に会議に出て通訳してくれない?」と突然言われました。

 「英語ができれば、翻訳や通訳もできる。」どこにでもこういう単純な発想を持つ人はいるものです。
 そしてこれらの仕事には、全く異なる高度なスキルが必要であることを知らないというおまけ付き。

 でも私は目の前に差し出された「金の斧」を両手でつかみ取るタイプですから、括弧の中の言葉は全て飲み込み、「はい、やります。」と即答し、そのままCEOの後について多国籍軍団が揃った広い会議室に入って行きました。「コイツは誰だ?」とでも言いたげな冷たい視線を振り払いながら、指示された日本人男性の隣に腰かけると、すぐに英文の書類が机の上を平行移動してきました。それは前職で何度となく目にした、ソフトウエア会社とのオンサイト契約書で、要点に素早く目を通しながら、通訳をして帰って来ました。

 その時私の隣に座っていた人はCIO(最高情報責任者)で、数日後、情報システム部に所属が変更された上で、私は通訳・翻訳者として採用が決まりました。

 こうして私の転職活動は全く予想外の展開の後、あっけなく幕を閉じました。

 CEOの思いつきで作られたこの仕事は、私にたくさんの学びと気づきをもたらせてくれました。

 あの時、期せずして訪れたチャンスに乗れたのは、それまでの職務経験に「CAP」という新しい秘密兵器が備わったことで、何とかなりそうだと思ったからです。いくら私でも神経の図太さだけで手を挙げたわけではありません。

 ここでまとめです。

― 様々な経験や知識を最大限に活用して、期待値を超える成果物を作り出す。
― 状況を迅速に判断し、工夫しながら仕事をこなす。
― 人とのつながりを大切にしながら、シナジー効果を生み出せるチーム作りに貢献する。
― 不測の事態には、優先度を判断しながら適切に対応する。

 このように、➀IT、②Management (Accountingを含む)、③Office Administrationの3つの分野に亘るビジネス力と英語力に加え、積極性、柔軟性、創造性等、様々なハードスキルとソフトスキルを土台に埋め込んだ「CAP能力式働き方」は、あなたのビジネスライフに改革を起こし、これからのAI時代に生き残るための心強い味方になることを、自らの経験を通じて確信しています。

 さて次回からは「CAPミニ・レッスン」と題し、各講師が担当分野のポイントを解説してまいります。第一回目はDomain 1の”Organizational Communication”で、私が担当致します。どうぞご期待下さい。


【プロフィール】
河田 幸(カワタ ユキ)

東京都出身。大学時代にESS(英語部)で国際政治経済問題を討論するうち、ビジネス界に興味を持つ。イギリス系銀行、コンピュータ・ベンダー企業、アメリカ系銀行に勤務。CAP受験対策講座ではITとマネジメント分野を担当。
横浜商科大学商学部特任講師。CAP / CAP-OMホルダー、英検1級、通訳案内士、翻訳実務士(英日文芸)、ビジネスマネージャー資格。


 

記事一覧