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『総合的な翻訳による英語教育』第33回

2021/01/22

『総合的な翻訳による英語教育』第33回

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外国語の獲得とメンタリティー












  

 前稿では、文芸翻訳には翻訳者の言語的なセンスと社会文化的な知識と個性的な視点が反映されることを論じ、かつてフランス文学者、随筆家の辰野隆氏が、「外国語は日本語に落としてようやく「腑に落ちる」、翻訳してこそ、彼我の文化的背景の差も踏まえた深い理解がしっかりとできる。英語を英語のまま理解できても浅いレベルの理解に留まる」、としたことを記した。だが、「英語のメンタリティーで理解する」ということもある。本稿では「言語とメンタリティー」さらに「五感を動員する脳の学習」について考えたい。

日本語が世界を平和にする?

まず( [1]堀田都茂樹氏の引用に沿って)金谷武洋氏 の主張を扱う(強調や下線は筆者)。
金谷氏は「日本語が世界を平和にする [2]」として、著書の中では、身近な「ありがとう」、「おはよう」といったことばを探り、日本語の本質に迫る。

 日本語の「ありがとう」には
話し手聞き手も(つまり「人間」が)出てきません。それに対してThank youI thank you.となります。日本語の「ありがとう」は「有難う」、すなわち、「あることが難しい」「めったにない」という状況を表現しています。従って、英語は「(誰かが何かを)する言葉」、日本語は「(何らかの状況で)ある言葉」です。
 また、英語の「Good morning」は、英語のI wish you a good morning.で、
わたしが登場し、「この朝が良いものであるように!」と、積極的な行為を表現しています。(筆者:仮に元来がそういう表現だとしても日常会話においてI wish you aを添えることはまずない。)これに対して日本語の「お早うございます」は、二人が「まだ早い」という状況心を合わせているのです。ふたりはそう共感しているわけです。すなわち、日本語は「共感の言葉」、英語は「自己主張と対立の言葉」と言えそうです。
 著者は、「日本人と出会うことで、また、日本語と出会い、日本語の学習を通じて
学習者の世界観が、競争から共同へ、直視から共視へ、抗争から共存へ変わる日本語という言葉そのものの中に、自己主張にブレーキがかかるような仕組みが潜んでいるのではないか」と言います。一方で、英語話者はListen to me.、Let me tell you something.、You won’t believe this.など、上から目線で自己主張してくる。最後の章を「だから、日本語が世界を平和にする!」と結んでいる。

 金谷氏は日本語学習者の学習動機は、日本のことが好き。日本の自然、日本の文化、日本人の優しさが評価されている。日本語を学習すると性格が変わってしまう。
攻撃的な性格が温和な性格になる。学習者の世界観が、競争から共同、直視から共視、抗争から共存に変わっていくと述べる。

 しかし、韓国では高校生が2つの外国語を学習しなければならない。第一が英語で全員学ぶが、第二は圧倒的に日本語を学ぶ。韓国の学生は朝鮮統治時代の日本の悪行の嘘を教科書でも叩き込まれている。日本語を学ぶのは、日本のことが好きだからではなく、母語と文法がほとんど一緒で漢語由来の語彙も同じため、さほど苦労せず習得できるためだ。
 また「日本語を学ぶことでメンタリティーが変わる」というのもどうか。韓国人は喜怒哀楽を豊かにと言うか激しく表す。悲しみも憎しみも隠さず大声で叫ぶ。日本語で話してもそれが変わるとは考えられない。幼児期から育った韓国の「喜怒哀楽表出文化」が中高で日本語を学んだからと言って日本の「喜怒哀楽抑圧文化」に変わるわけではないだろう。
 さらに、日本語を使えば
攻撃的な性格が温和な性格になるというのも眉唾ものだ。攻撃的な性格か温和な性格か、これは個人の性格の問題だ。マスクどころか不織布でないと攻撃するマスク警察がいるかと思えば、機内でマスクを拒み大声で暴力まで振るう大学の非常勤講師もいる。また、立場によっては攻撃的になることもある。微笑み外交で韓国男性を魅了した北朝鮮の金正恩の妹与正(ヨジョン)も最近の韓国攻撃では激しく罵る。
 尖閣諸島について中国の王毅外相が自国に領有権があると主張した折、日本の茂木外相は反論せずに終わった。茂木外相が反論しなかったのは、共同記者会見では、まず日本側、次に中国側が意見を表明するとしていたためだ。しかし、反論すべきはすぐその場で反論しないと、中国の主張が国際社会でも既成事実化されてしまう。茂木外相は「腰抜け」と批判を受けた。反論しないのは日本語を話すからではない。
 日本は中国に対して戦争責任で繰り返し謝罪してきたが、韓国に対しては嘘を報じた朝日新聞の記事以降、慰安婦[3]問題で謝罪を繰り返し求められた。政府間での「不可逆的合意」も反故にされる。世界にありもしない嘘を広める韓国には毅然として臨むべきで、世界にも事実を発信するべきだ。韓国併合を韓国は非難するが、日本の統治で社会も教育も李朝時代の暗黒から抜けた[4]のである。同じ統治をした台湾
[5]は日本に感謝している。

デジタルのみ 学力低下招く

 「新年展望<7>紙の教科書 知の基本」(読売新聞2021/01/12)において、明大教授斎藤孝氏は、下記のように論じている。

 教科書は次世代を作る柱です。その教科書をめぐって、デジタル化に向けた議論が進んでいますが、教科書をデジタル化することは、教科書を軽視することです。・・・教科書に載っているのは、「これだけは身につけておくべきだ」と、厳選された知識です。反復して絶対に覚えなければいけない内容です。・・・紙の教科書の利点には、学習のしやすさがあります。紙には、人間の学習や知的活動とともに歩んできた長い歴史、実績があります。紙をめくりながら本を読むことが脳への刺激になるという研究もあります。デジタル教科書でも下線を引くことはできますが、紙を手で触り、書き込む行為が五感に訴えるものは大きいです。紙の方が記憶が定着しやすいため、学力は、紙の教科書、問題集、鉛筆とノートがあれば、キープできます。
 暗記や記憶を軽視する風潮があります。しかし、記憶が創造性を阻害するという考えは、まったく間違っています。…基礎知識に甘さがあれば、学力は計り知れないほど低下します。つまり、紙の教科書の廃止が学力低下をもたらすのは、ほぼ決定的なことです。学力低下に気づいたときには、もう遅いのです。
 ただし、情報通信技術(ICT)を活用すること自体は必要です。・・・デジタルの利点は、情報の更新が速く、大量の情報を補充できることです。たとえ教科書では1行、2行しか書かれていない事柄でも、デジタルで情報を検索すれば、知識欲を膨らませていくことができます。情報収集のツールとして、授業でどんどん活用すべきです。
 このように、紙の教科書とデジタルで得られる情報では、知識の質が異なります。紙とデジタルは別物で、代替できるものではありません。完全に身につけるべき知識は紙の教科書で学び、派生的な情報はデジタルで調べるのです。教科書の内容をデジタル化したとしても、紙の教科書を基本として併用していくことが大切です。

 昨年2020年1月25日に開催した第18回英語教育総合学会のシンポジウム「日本の英語教育をどうするか―民間試験活用の誤謬―」では、「紙の辞書と電子辞書/アプリ のどちらを使うのが語彙習得に良いのか」ということも質問が出た。成田一(大阪大学名誉教授)、大津由紀雄(慶應義塾大学名誉教授)、江利川春雄(和歌山大学教授)が皆自らの学習/教育経験を踏まえ、携帯しやすく語彙を引くのが容易で音声も聴けるという点では電子辞書/アプリが便利だが、学習段階では、用例を含め色んな情報を、ページ全体を見てじっくり調べられ、マーカーで記すなどの作業を行うことにより記憶にも定着しやすい。このため、紙の辞書が学習と記憶への定着には非常に重要であるということで講演者一同が一致した。紙の辞書はアナログな人間の頭脳の働きに相応しいメディアなのだろう。

 

[1]  バベル翻訳専門職大学院(USA) 副学長

[2]  金谷武洋「日本語が世界を平和にするこれだけの理由」(飛鳥新社発行)

[3]  慰安婦は募集をかけて集められた女性達。その女性達には兵士の数倍の高給が約束されており、女性達は(いわゆる徴用工同様)出稼ぎして日本女性と共に慰安所で働いた。吉田清治は「済州島で200人の若い朝鮮人女性を慰安婦にするため暴力を使って無理やり連れ出した『狩り出した』」と著書や集会で証言し、朝日新聞がこれを何度も報じた(1982/9~)。韓国の女性記者が島で強制連行された女性がいなかったことを調べ報告するなど、吉田による嘘の捏造が判明した後も韓国は慰安婦像を世界に設置している。

[4]  日韓併合前の李氏時代の朝鮮では、道路も橋もほとんど整備されておらず、国民の大多数を占める農民が、支配階級の両班に搾取され、塗炭の苦しみを味わっていたが、朝鮮総督府が鉄道網ほか道路、港湾など全国の社会・産業インフラを整備して産業を振興させた結果、国民生活が飛躍的に向上し人口も倍増した。最新鋭の工場を多数建設し、それが今も北朝鮮では使われている。教育を受けたことのない大多数の国民(農民)に教育を施した。欧米列強の一方的な収奪とは違い共生的な統治だった。

[5]  伝染病の巣窟だった台湾から疫病を駆逐した後藤新平 は「台湾近代化の父」と称せられる。技師八田與一は献身的な働きにより、ダムを建設し台湾南部を穀倉地帯に変えた。中学の教科書『認識台湾』には「日本語による基礎教育は台湾人が現代知識を吸収する手段となり、台湾の現代化を促進した。台湾総督府は公衆衛生、交通、産業、教育などを改善した」の記述がある。



 


成田一(なりた はじめ)
大阪大学大学院言語文化研究科名誉教授。英日対照構造論・機械翻訳・言語教育/習得論専攻。大阪大学功績賞受賞。
著書『パソコン翻訳の世界』(講談社現代新書)、『日本人に相応しい英語教育』(松柏社)、編著『こうすれば使える機械翻訳』(バベルプレス)、『英語リフレッシュ講座』(大阪大学出版会)、共著『名詞』「現代の英文法6」(研究社)、『ことばは生きている』(人文書院)、『日本語の名詞修飾表現』(くろしお出版)、『翻訳辞典2002』(アルク)、『私のおすすめパソコンソフト』(岩波書店)、『英語教育徹底リフレッシュ』(開拓社)、『21世紀英語研究の諸相―言語と文化からの視点―』(開拓者)他。英文テキスト編注解説、論文・新聞(読売、朝日、日経など)・雑誌記事(『SPA!』(責任編著)、『週刊現代』、『英語教育』、『新英語教育』、『Professional English』、『The Professional Translator』、『Cat(cross and talk)』他)多数。英語教育総合学会会長。