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『総合的な翻訳による英語教育』第10回

2019/02/22

(連載)『総合的な翻訳による英語教育』第10回
 
          
 
 今回はCNNなどの多様な分野の英文を自動翻訳(G訳(Google翻訳)、L訳(「コリャ英和 一発翻訳」(LogoVista)))でどれだけ処理できるかを検証する。標準的な英文ではあるが、中堅大学の学生にも難物なものも含まれる。自動翻訳は、授業のテキストなどで学生に使われると、教師が本人の読解力が掴めなくなるのでまずい面もある。それでも学生は文脈や意味関係をしっかりと踏まえて正しい訳を自分でしっかり考えないと、翻訳結果が正しいか否かの判断ができない。自動翻訳を使いこなすには、学生自身に高い英語力と知的な思考力が求められるのである。以下、自動翻訳の処理能力を見て行く。


(1)

Investigators quickly determined [that someone 1had gone around to various stores in the Chicago area and 2had placed  bottles  [containing the poison capsules] onto the shelves / where Tylenol was being sold].
G: 捜査官はすぐに誰かがシカゴ地域の様々な店に行って、Tylenolが売られていた棚に毒カプセルを含むボトルを置いたと決心しました。
L:調査者が速く誰かが(すでに)シカゴエリアで種々の店に行って、そしてタイレノールが売られていた棚に毒カプセルを含んでいるビンを置いていたと決定しました。

 この英文は主文の動詞
determinedが埋め込み文[that someonesold] を目的語とした構造で、その主語someonehad gonehad placedを述部として、bottlesが分詞句[containingshelves]の修飾を受けている。Gは「決心しました」を「判断/結論を下した」と改めたいが、Lはそのほかに「速く」「エリア」を「速やかに」「地域」に変えれば、ほぼ正解だ。

(2)
Apple has built a loyal customer base over the decades by making  products that consumers can use [without having to think about various technical details]].
G: Appleは、消費者がさまざまな技術的な詳細について考える必要なしに使用できる製品を作ることによって、何十年にもわたって忠実な顧客基盤を築いてきました。
L:アップルは、消費者がさまざまな専門的な詳細について考えることを必要としないで使うことができるプロダクトを作ることによって、数十年にわたって忠実な顧客ベースを作りました。

 この英文は
productsが関係節 [that consumersdetails]の修飾を受け、その内部の withoutに準動詞havingdetailsが続く。G訳はほぼ正訳になっているが、L訳は「プロダクト」は「製品」に、「ベース」は「基盤」に変えないといけない。「考える必要なしに」「考えることを必要としないで」は「考えなくても」にしたい。

(3)

Some of their precious time is spent [completing applications in the hopes of getting funding]. Japan’s most renown research institution, RIKEN, celebrated its 100th anniversary in 2017.
G: 彼らの貴重な時間のいくらかは資金を得ることを期待して申請書を完成させるのに費やされます。日本で最も有名な研究機関である理研は、2017年に創立100周年を迎えました。
L:(彼・それ)らの貴重な時間のいくらかが、資金を得ることを希望して、アプリケーションを完了して過ごされます。 日本は研究機関、リケン、が2017年にその100回目の記念日祝ったたいていの名声です。

 この英文は主文動詞
spentが分詞句 [completingfunding] の修飾を受け「何に時間が費やされたか」を表している。G訳はほぼ正解。L訳は「アプリケーションを完了して過ごされます」が誤訳。「その100回目の記念日」は「創立」を入れないと何の「記念日」なのか分からない。「祝ったたいていの名声です」も全くの誤訳。mostが「たいてい」 renownが「名声」では意味が分からない。[Japan’s [[most renown] [research institution]]]の構造解析ができていないのだ。なお、Some of their precious time is spentが「彼らの貴重な時間のいくらかは…に費やされます。」「(彼・それ)らの貴重な時間のいくらかが、…して過ごされます。」と直訳されているが、「彼らは貴重な時間を(割いて)…に費やします。」「彼らは…に貴重な時間を割いています。」などの方が自然だろう。

(4)

The customers of Kobe Steel 1have grave concerns for the quality and safety of their own products / because of the criminal falsifying of quality control data and 2have had to re-examine their own products.
G: 神戸製鋼所の顧客は、品質管理データの犯罪による改ざんのため、自社製品の品質と安全性に深刻な懸念を抱いており、自社製品の再調査を余儀なくされていました。
L:神戸製鋼の顧客は犯罪に品質管理データを偽ることのために(彼・それ)ら自身の生産物の品質と安全性のために重大な関心を持っていて、そして(彼・それ)ら自身のプロダクトを再検討しなければなりませんでした。

 
この英文は、主文の主語The customers of Kobe Steel1have grave concerns…と2have had to…を述部としている。G訳は「犯罪による」よりは「犯罪的な」、「再調査」よりは「再検
が良い。L訳は「犯罪に品質管理データを偽ることのために」では意味が分からない。「(彼・それ)ら自身の生産物の品質と安全性のために」は「自社製品の品質と安全性に」、「(彼・それ)ら自身のプロダクトを再検討」は「自社製品の再検査」に改めたい。

(5)

On February 14, the nation's female workers are expected to give "giri choco," or obligation chocolates, to their male colleagues. Women are also expected to buy heartfelt chocolates, "honmei choco," for their crushes or loved one. 
G: 214日、同国の女性労働者は男性の同僚に「義理チョコ」、または義務チョコレートを贈ると予想されています。女性はまた彼らの押しつぶしや愛する人のために心からのチョコレート、「本名チョコ」を購入することが期待されています。
L:214日に、国の女性労働者は(彼・それ)らの男性の同僚に「giri choco」、あるいは債務チョコレート、を与えるために予想されます。 女性たちは同じく(彼・それ)らの殺到あるいは愛する人のために心からのチョコレート、「honmei choco」、を買うことを予想されます。 

 この英文は
2文ともNP is expected to Vという形式となっている。G訳ではこれが第1文では「予想されています」となっているが、第2文では「期待されています」となっている。一方、L訳では2文とも「予想されます」となっている。G訳、Lどちらも「期待され(てい)ます」が良いだろうが、MTには文脈というか意味を斟酌した翻訳は難しい。crushes「押しつぶし「殺到」となっているが、「片思いの相手/惚れた男」の意味だ。普通の文章ではめったに使われない意味なので仕方がない。G訳の「本名」はもちろん「本命」が正しい。「債務」もせめて「義務」にしたい。

(6)

As Britain awaits the birth of Meghan's first child with Prince Harry, it seems clear [that
the reality of a royal child with a black grandmother has brought to the fore prejudices
[that were more generally
veiled around the announcement of her marriage]].
G: イギリスがハリー王子とメガンの最初の子供の誕生を待っているように、黒い祖母を持つ王室の子供の現実が、より一般的には彼女の結婚の発表をめぐる前向きな偏見をもたらしたことは明らかです。
L:英国がヘンリー王子と一緒のミーガンの最初の子供の誕生を待ち受ける(とき・から・につれて・ように)、黒人の祖母と一緒の国王の子供の現実が彼女の結婚の発表の周りに前面に出ていっそう一般にベールに包まれた偏見をもたらしたことは明確に思われます。

 この英文は、
asが(「ように」ではなく)時もしくは譲歩を表す副詞節とit seems clear that…という主文から成るが、that節内のthe fore prejudicesthat関係節の修飾を受ける構造だ。基本的な間違いがいくつもある。G訳ではblackが「黒人の」ではなく「黒い」となっているほか、「隠された」の意味のveiledが訳されていない。一方、L訳ではwithが「ヘンリー王子と一緒の」となっており、「ヘンリー王子との」でないと関係が表せない。また「祖母と一緒の」もG訳のように「黒人の祖母を持つ」としたい。aroundも「の周りに」ではなく「を巡る/り」が良い。royalも「国王の」ではなく「王室の」だ。veiledは「ベールに包まれた」でもどうにか分かる。なお、the fore prejudicesは直訳では意味が分からない。敢えて言えば*the prejudices are fore.foreの述語用法はない)のような関係を名詞句で表したものだ。bring to前に付いて「(隠されていた)偏見を表ざたにする」という意味合いになる。したがって「前面に出て」はいらない。「イギリスはハリー王子とメーガン妃の最初の子供の誕生を待っているのだが、王室の子が黒人を祖母に持つという現実が、彼女の結婚の発表をめぐり概して隠されていた偏見を国民に意識させるようになっていることは明確に思われる。」のような意訳にしたい。

 以上の英文は英語の構造面からは標準的なものではあるが、邦訳が直訳で成立するものと直訳では意味が通らない箇所を含むものがある。このため、
G訳は80~95%L訳は65~90%のレベルで翻訳できているが、(6)の英文はかなり意味を深く読み込み意訳しなければ適切な日本語にならないので自動翻訳には重荷だ。この英文は中堅大学の学生でも40人中ほんの数名しか正しい翻訳ができないだろう。特にthe fore prejudicesforeの意味を理解できる学生はいないかもしれない。このため、英文の表現形式をそのまま訳すのではなく、名詞句内の前置修飾部を述語として訳す
[1] などの工夫を教えることが肝要だ。
 
[1] 翻訳方式、翻訳精度などについては、改めて解説予定。


成田一(なりた はじめ)
大阪大学大学院言語文化研究科名誉教授。英日対照構造論・機械翻訳・言語教育/習得論専攻。大阪大学功績賞受賞。
著書『パソコン翻訳の世界』(講談社現代新書)、『日本人に相応しい英語教育』(松柏社)、編著『こうすれば使える機械翻訳』(バベルプレス)、『英語リフレッシュ講座』(大阪大学出版会)、共著『名詞』「現代の英文法6」(研究社)、『ことばは生きている』(人文書院)、『日本語の名詞修飾表現』(くろしお出版)、『翻訳辞典2002』(アルク)、『私のおすすめパソコンソフト』(岩波書店)、『英語教育徹底リフレッシュ』(開拓社)、『21世紀英語研究の諸相―言語と文化からの視点―』(開拓者)他。英文テキスト編注解説、論文・新聞(読売、朝日、日経など)・雑誌記事(『SPA!』(責任編著)、『週刊現代』、『英語教育』、『新英語教育』、『Professional English』、『The Professional Translator』、『Cat(cross and talk)』他)多数。英語教育総合学会会長。