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「翻訳支援ツールの必要性」 第4回 情報リテラシーを見直そう ― 小室誠一
2017/01/25
翻訳支援ツールの必要性
第4回 情報リテラシーを見直そう
小室誠一
この連載も最後になりました。
これまで、翻訳とメディアの関係について過去に遡って理解を深め、機械翻訳の栄枯盛衰を駆け足で巡り、ローカリゼーションでの翻訳生産フローとそこで活用されている翻訳支援ツールの必要性を改めて確認しました。
今回は、翻訳支援ツールは必要だという認識に立って、十分に活用するにはどうすれば良いかを、総まとめとして見ていきたいと思います。
■翻訳支援ツール活用に必要なスキル
翻訳支援ツールを活用するというのは具体的に言えば、パソコンのソフトウェアを効果的に使用するということです。パソコンを使いこなすには、基本的な「情報リテラシー」を身に付けていることが大前提です。
ところが情報リテラシー、特に翻訳者のための情報リテラシーを総合的に身に付けている人が少ないようです。というのも、きちんと学ぶ場がないのと、そもそも「翻訳者のための情報リテラシー」には具体的にどのような項目があるのかを一覧できるようなものがないのが理由の一つだと思われます。
翻訳支援ツールの操作ができるようになっても、基礎的な情報リテラシーが身に付いていないと、きめられた操作しかできず応用が利きません。
●翻訳業務に必要な情報リテラシー
情報リテラシーとは、コンピュータとインターネットを使用するための最低限の「リテラシー(読み書き)」スキルであり、翻訳者としては当然身に付けておくべきものです。
情報リテラシーは一般的に、以下の4つに分類されます。それぞれの項目を翻訳作業に照らし合わせてみても妥当な分類です。
①コミュニケーション
翻訳案件の打診、プロジェクトの打ち合わせ、翻訳関連ファイルのやり取り、Q&Aのやり取りなど、翻訳作業全体を通じてのコミュニケーション。
②情報収集
専門分野の情報、翻訳対象についての情報、用語に関する情報、訳文体に関する情報など、翻訳作業全体を通じての情報収集。
③情報整理・加工・分析
翻訳作業そのものに求められるスキル。原文を分析して、その意味するところを整理し、訳文として自然になるように加工する。
④情報提示
適切な訳文を適切な形式で提示する。目的に合わせてフォーマットやレイアウトを正しく設定できる必要がある。
この分類に従って、それぞれ具体的な機能を一覧にしたのが【図1】です。
【図1】翻訳業務に必要な情報リテラシー
もう少し具体的に見てみましょう。
【図2】は、筆者が担当している「翻訳者のためのテキスト処理入門」の受講前に実施している「PCスキルチェックアンケート」の集計結果から、基本的な操作スキルに関する27の質問を抽出したものです。回答数は110、それぞれの質問に対して、「できる」または「できない」で答えてもらいました。その結果、「できる」が72%、「できない」が27%でした。
項目別に見ると、Wordの検索機能やExcelのデータ操作、CSV、TSVファイルを開くあるいは保存、といった項目の「できない」が目立ちます。これらは、翻訳作業に欠かせない機能です。これでは、すぐにテキスト処理や翻訳支援ソフトの活用法に取り組むわけにいきません。なんとか翻訳支援ソフトの操作方法を覚えてもすぐに行き詰ってしまうでしょう。
【図2】PCスキルチェックアンケートの集計結果
●翻訳業務用ソフトウェアの活用スキル
第3回で一例を示した、翻訳作業でよく使われているソフトウェアの機能を、生産フローに基づいて分類すると、「前処理工程」、「翻訳工程」、「チェック工程」、「後処理工程」、「言語資産管理」となります。さらに、それぞれの工程の機能を分類すると以下のようになります。
前処理工程
・解析
・処理
・設定
翻訳工程
・入力/編集
・翻訳メモリ
・用語ベース
チェック工程
・実行
・設定
後処理工程
・処理
・成果物
言語資産管理
・処理
・設定
このように分類した機能一覧を整理しスキル要件を抽出して、以下のようにスキル項目をまとめました。
●前処理工程
●翻訳工程

●チェック工程

●後処理工程

●言語資産管理

■翻訳専門職ICTスキルマトリックス
さて、このようにスキルを分類してリストにしてみましたが、これだけではどのように利用していいか分かりません。
そこで、これにジャンルと必要度などを加えてスキルマトリックスを作成しました。
こうすれば、スキル項目を参照し、ジャンルと組み合わせて翻訳業務に必要なスキルセットを構築できます。そうすれば以下のような利用法が可能になります。
(1)翻訳者は、自分の専門分野に応じたICTスキルセットを構築することで、自分に不足しているスキルを補う指針とすることができる。
(2)翻訳サービス提供者は、翻訳者の採用あるいはプロジェクトメンバーの選定の際に、ジャンルに応じたICTスキルを評価するツールとすることができる。
(3)翻訳教育機関は、翻訳ジャンルに応じた体系的なICTスキルに関する教材および講座の開発に利用できる。
スキル項目に対して、翻訳分野の分類、翻訳の分類、スキルの必要性レベル、それにツール例を加えて以下のような構成にしました。
このマトリックスの中心は84の「スキル項目」で、どのような場面で必要になるかを示すのが「カテゴリ」と「スキル区分」です。「スキル項目」の内容をさらに説明したのが「スキル概要」で、具体的な操作や知識の要点が書かれています。「ツール例」はスキル項目に対応するツール(ソフトウェア)の例を挙げて、具体的な作業をイメージできるようにしました。ジャンルごとの「必要性」はあくまでも参考であり、自由に調整できます。
それでは、「翻訳専門職ICTスキルマトリックス」をお目にかけましょう。
●今回のまとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。
結局、高機能な翻訳支援ツールを使いこなすには、基本的な情報リテラシーが不可欠だということです。
この2つを合わせて、バベルでは「eトランステクノロジー」と呼んでいます。
ぜひ皆さんもeトランステクノロジーのスキルを身に付けて活用してください。
結局、高機能な翻訳支援ツールを使いこなすには、基本的な情報リテラシーが不可欠だということです。
この2つを合わせて、バベルでは「eトランステクノロジー」と呼んでいます。
ぜひ皆さんもeトランステクノロジーのスキルを身に付けて活用してください。
機会があれば、本的な情報リテラシーが身に付いていることを前提とした、翻訳支援ツールの活用法について書いてみたいと思っています。
それにしても、技術の進歩が速く、どんどん新しいツールが出現して行くので、楽しみが尽きませんね。
小室誠一(こむろせいいち)
旅行会社、翻訳会社を経て、現在はフリーランスのローカライズ翻訳者&レビューアとして多忙を極めている。
20種類以上の翻訳支援ツールを活用し、日夜生産性向上に努める。
バベル翻訳大学院で「翻訳支援ソフト徹底活用(Trados編)」などのIT科目を担当。
20種類以上の翻訳支援ツールを活用し、日夜生産性向上に努める。
バベル翻訳大学院で「翻訳支援ソフト徹底活用(Trados編)」などのIT科目を担当。
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