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「翻訳支援ツールの必要性」 第1回 翻訳とメディア(情報の媒体)の深い関係 ― 小室誠一

2016/12/10

翻訳支援ツールの必要性 


第1回 翻訳とメディア(情報の媒体)の深い関係

小室誠一


これから4回に分けて翻訳支援ツールの必要性について考えてまいります。
今の時代、「翻訳支援ツールが必要かどうか」などという議論は意味がないので、ここでは、翻訳支援ツールに対する理解を深め、十分に活用するにはどうしたらよいかといったことに重点をおいて進めて行きます。
 
全4回のタイトルは以下になります。ただし、予告なく変更することが(大いに)あります。
(1)翻訳とメディア(情報の媒体)の深い関係 <12月10日号>
(2)機械翻訳の光と影 <12月25日号>
(3)翻訳支援ツールとは何か <1月10日号>
(4)情報リテラシーを見直そう <1月25日号>
 
それでは早速はじめましょう!

 

■翻訳とメディア(情報の媒体)の深い関係

 
翻訳業務は通訳とは違って成果物を作成する必要があります。そして、翻訳成果物はメディア(情報の媒体)の進歩とともに変化して行きます。
 
筆者が翻訳業界に足を踏み入れた1989年には、まだ原稿用紙に手書きした翻訳を納品することがありましたが、間もなくワープロ専用機の普及によりワープロ入力した訳文をプリントアウトした原稿を納品するようになりました。つまり、それまでは紙と鉛筆があれば翻訳業務を行うことができたのが、メディアの発達により、翻訳者はワープロを導入し、入力作業を行い、プリントアウトするというスキルと労力が求められるようになったのです(もちろんワープロ導入コストも)。
 
その後のパソコンとインターネットの普及は、それまでの翻訳業務に劇的な変化をもたらしました。翻訳生産方法もワープロソフトの利用だけでなく、数多くの翻訳支援ツールが開発され、翻訳生産フローに組み込まれた結果、生産性が大きく向上しました。さらに、インターネットの普及により、原稿の受け渡しが瞬時にできるようになるとともに、最近ではクラウドシステムによる円滑な共同作業が可能になったため、大量・短納期に対応した大規模なプロジェクトが活発に行われるようになりました。また、各種翻訳関連のファイルフォーマットが世界標準化され、翻訳産業のグローバル化も進んでいます。
 
このような時代において、翻訳者もテキストの翻訳だけではなく、電子ファイルの扱いや翻訳支援ツールの使用といったICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)のスキルを身に付けることが必須になっています。最近の傾向としては、技術翻訳だけでなく、ビジネス翻訳の分野にもICTによる生産の効率化が拡大しています。そうなると、「翻訳支援ツールが必要かどうか」という質問の答えは自ずと見えてきますね。
 
それでは、少し時間を遡ってメディアの変遷を見て行きましょう。

 

●ワープロ専用機の普及

 
翻訳業務が大きく変化したのは、ワープロ専用機の普及以降です。
それまでは、極端に言えば、原稿用紙と鉛筆と辞書があれば翻訳業を営むことができました。
Google画像検索より
 
1978年 初の日本語ワープロ(JW-10)が東芝より発売され(630万円)、同年、JIS漢字コードが制定されました。1981年には20社以上が参入、もしくは参入の表明をしています。1982年に富士通がMY-OASYSを85万円で、東芝が50万円の機種を販売しました。
 
日本語ワープロが発売された当初は、高額で個人が導入できるものではありませんでした。ワープロ入力会社に手書きの原稿を持ち込んで入力、プリントアウトしてもらうことが一般的で、入力は専任タイピストが行うのが通例でした。
 
1989年には、年間出荷台数は過去最大271万台に達し、累積販売台数は1,000万台を突破しました。(情報処理学会:誕生と発展の歴史-コンピュータ博物館 
http://museum.ipsj.or.jp/computer/word/history.html)。
 
この頃からワープロが一般に普及し、ワープロ入力業務も翻訳業務の一部となって行きました。初めの頃は、ワープロを使うと文体がおかしくなると言ってかたくなに使用を拒んだ翻訳者もいました。また、原稿用紙に訳文を書いてから、ワープロで「清書」する人もいましたが、やがて、時代の要求とともにワープロ仕上げが標準となります。(現在でも翻訳支援ツールの使用をかたくなに拒んでいる翻訳者と似ています。そのうち淘汰されてしまうかもしれません)。
 

出典:日本語ワードプロセッサの興亡 ― 定量指標からの考察 ―,蔵 琢也,同志社大学 技術・企業・国際協力研究センター,2004(一部加工)

 
この当時、翻訳コーディネーターの頭を悩ましたのが、ファイルの互換性です。各社のワープロのファイルは独自形式なので、翻訳者がクライアントの所持する機種と異なるワープロで作成した場合は、フロッピーを変換業者に持ち込んで指定の機種の形式に変換してから納品することがありました。やがて、テキスト形式やRTF(リッチテキストフォーマット)などの互換ファイルを2DDのフロッピーでやり取りできるようになります。
 
この時代の翻訳方式と納品形態は、訳文をワープロ入力して:

・プリントアウトを郵送・プリントアウトをFAX
・独自形式ファイルをフロッピーで郵送
・互換形式ファイルをフロッピーで郵送

というのが通例でした。(もちろん「持参」も頻繁にありましたが)。
 
2000年12月に松下電器(現パナソニック)が専用ワードプロセッサから撤退し、他のメーカもそれに続きました。最後まで頑張ったシャープも2001年に生産を停止しました。
 
ワープロの機能は、パソコンとプリンタなどの周辺機器と同等であり、パソコンの普及により代替えされて絶滅したといえます。
 

日本語ワードプロセッサ専用機は、1980年頃から約20年強の間に急速に勃興し絶滅した製品である。
(蔵琢也:日本語ワードプロセッサの興亡 - 定量指標からの考察 ―,2004 同志社大学 技術・企業・国際競争力研究センター)
 

●パソコンの普及


日本では1978年には、パーソナル用途向けのより安価なコンピュータが発売されていましたが、翻訳の世界では、ワープロ専用機が主流であり、個人の翻訳者にはすぐには受け入れられませんでした。
1981年には「IBM PC」が登場して世界的にベストセラーとなりました。
この当時、表計算ソフトはLotus 1-2-3、ワープロソフトはWordPerfect(日本では一太郎)が普及しています。
 
1987年4月 NIFTY-Serve のサービスが開始(ニフティ株式会社 沿革
http://www.nifty.co.jp/company/history/)されると、翻訳者も次第にパソコンを導入するようになってきます。
「電子メール」や「フォーラム」といったサービスは、翻訳業務の効率化をもたらしました。翻訳の納品も電子メールを使って瞬時に行うことができるようになったのです。
また、「翻訳フォーラム」のようなバーチャルコミュニティは優れた情報交換の場を提供しました。
 
この当時は、パソコンを電話回線経由で通信業者のアクセスポイントにつなぎ、電子メールを送受信したり、フォーラムの掲示板に書き込んだりしましたが、スキル不足でこれらのサービスをうまく利用できない翻訳者が多かったのも事実です。
 
NIFTY-Serve では、この頃すでにATLAS機械翻訳サービスを提供しています。まだ機械翻訳の品質も粗悪だったため、機械翻訳出力文を人間が修正する「後編集サービス」を株式会社バベルが提供し好評を得ました。
 
パソコンが本格的に普及するのは、ご存じのように1995年Windows 95が発売されてからです。同時期にインターネットが普及し、翻訳の世界は大きく変化していきます。
 
ようやくワープロ専用機に慣れてきた翻訳者にとって、今度はパソコンに取り組まなくてはならず、翻訳とメディアの深い関係に否応なしに巻き込まれていくのでした。

 

●インターネット


インターネットの起源としては、1957年に旧ソ連が最初の人工衛星スプートニクを打ち上げたのに呼応し、アメリカ合衆国は軍事利用が可能な科学技術で先行するために、アメリカ国防総省内に高等研究計画局(ARPA: Advanced Research Projects Agency)を設立したのが発端だと言われています。
 
1994年にはNetscape Navigatorが登場し、日本政府のウェブサーバ「www.kantei.go.jp」や個人向けISP(インターネットサービスプロバイダ:インターネット接続業者のこと)のベッコアメやリムネットが登場しました。
WWWや電子メールが本格的に家庭で使われるようになったのは、1995年にWindows 95が発売されてからです。というのも、それ以前はある程度の専門知識がないとインターネット接続が難しく、誰でも手軽に利用するわけにはいかなかったからです。
またJavaの登場、Real Audioの登場によるストリーム配信の始まりやInternet Explorerが公開されたのもこの年です。

 
 
現在、インターネットは翻訳業務にとってなくてはならない重要なインフラとなっています。翻訳関連ファイルの授受だけでなく、コミュニケーション手段としても必須であり、翻訳生産においては、リサーチ手段として不可欠となっています。
 
翻訳生産でのインターネット利用の主なものとして最初に挙げられるのが、GoogleをはじめとするWeb検索です。インターネットがなかった時代には考えられないほど調べ物が楽になりました。ただし、そのせいで十分に調査することが求められるようになったのも事実です。

 

●今回のまとめ

 
翻訳を取り巻くメディアの急速な進歩を、日本語ワープロ専用機が普及し出した1989年に遡って見てきました。
 
手書きがワープロからPCに進化し、通信技術もFAXからパソコン通信を経てインターネットへ。インターネット接続も、電話回線から光通信のブロードバンドへ、それに伴う常時接続、そしてクラウドという夢のような世界へ発展してきました。
 
手書き時代の翻訳者から見れば、PCやインターネットを駆使する現代の翻訳者は神様のように思えるかも知れません。翻訳はまさに情報処理そのものです。これからもメディアとの深い関係を断ち切ることはできそうにもありません。
 
次回は、「翻訳生産性の向上」に焦点をあてて、「機械翻訳の光と影」をお送りします。
お楽しみに!

 

小室誠一(こむろせいいち)
旅行会社、翻訳会社を経て、現在はフリーランスのローカライズ翻訳者&レビューアとして多忙を極めている。20種類以上の翻訳支援ツールを活用し、日夜生産性向上に努める。
バベル翻訳大学院で「翻訳支援ソフト徹底活用(Trados編)」などのIT科目を担当。

 

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