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寄稿文 ― クリーバー海老原 章子
2016/05/25
寄稿文
「プレインジャパニーズの勧め」を読んで
クリーバー海老原 章子
「Plain English」という言葉は、最近よく耳にします。バベルで受講されている方はそれこそよく目にする言葉ではないでしょうか?現代は、プレイン・ランゲージが求められる時代になっています。その背景には、多国籍化が進み、外国人雇用者も増え、彼らにも理解できる日本語の必要性が問われるようになってきたからです。時代の変化に伴い、そんな背景があることを、なるほどなるほどと思いながら、興味を持って先を読み進めました。
日本語は、婉曲的な表現が多いと言われます。つまり、自分が望むことをほのめかし、相手にそれを読み取らせる傾向があります。「言わなくても意図を察しろよ」というところでしょうか。
ところが現代は、物事が迅速に進み、自分の意見を簡潔、直接的に伝えることが重要になってきています。たとえば、「お水がないね」と言ったら、相手はこの表現の意図をくんで「ではお水をお持ちしましょうか」と提案することが婉曲的な表現でした。発言者の言いたいことは「お水がほしい」です。現代では、この「お水がほしい」の意志をストレートに伝えることが求められるのです。
私の父は、88歳になりますが、彼との会話はまさに本音の推測ゲームです。父の本当に言いたいことを察し、何を提案すればよいのか、常に頭を働かせているような感じです。はっきり言ってくれればいいのに、と思うことがよくあります。その点、外国人と英語で話す場合は、Yes, Noがはっきりしているので、わかりやすく、Noと言われても、失礼だなぁなどとは思いません。逆に率直に話せるので、特に社内では効率もよいのではと思います。
丁寧さや丁重な表現は、社外に対するコミュニケーションに限られます。率直な意思表示をしないこと のほうが相手に対してむしろ配慮に欠けます。あいまいさを避けたうえで丁重に表現することが現代のマナーであると言われます。わかりやすいビジネス文書を書くという点で、ポイントを教えていただきましたので、なるほどと思ったことを以下にまとめます。
- 相手の立場で書く
具体的には、相手を主語にして書くこと。
- 事実を指摘する
率直さと丁寧さを両立させる。
たとえば「返済日までにお支払いいただく旨の約定があり ますが、まだお支払いがありません」など、未払いだという事実を指摘する。
- 丁寧だが短い表現
コツは文末表現を短くする。たとえば、「することとさせていただきます。」→「致します。」 「とすることにしたわけでございます。」→「とし ます。」
- 短く、的、性、化は避ける
たとえば、可及的速やかに⇒なるべく早く。 効率化を統合的に促進する⇒効率を上げる。
- 親切に、ストレートに
具体的に率直に書く こと。たとえば「欠陥品に関しましては、ご 迷惑のかからぬよう適切な措置を講じます」の代わりに、「欠陥品は、補修、お取替、または返 品に応じます」
- リーダビリティとアンダースタンダビリティ
書き手は事実と意見をはっきり分け、事実につ いては「○○だ」「○○である」と断定的に述べ、 意見にわたる部分については、「と思う」「と考え る」と能動文で書くようにすること。
- 修飾語を刈り込む
修飾語は、本当に必要なもの だけ残して、できるだけ少なくすること。 たとえば、「真の意図をたずねる」→真意をたずねる 「結局のところ不採用とする」→不採用とする。
- 一つの文書にたくさんのことを盛り込まない
一つの文書の中に盛り込む事項は一つにする。複数の事柄について書かなければならない場 合は文書をわけて書く。一文書一案件。
- 正しい日本語を使う(特に助詞)
「は」は文の 主格を示すのに使い、「が」は文中の節の動作の 主体を示すために使う。「に」と「へ」には発話者の主体が到達したか、 それとも単なる方向を話すのかの違いがある。「から」と「より」の違い。
- 否定形より肯定形を使う
たとえば 「JIS規格に合わない部品を使わないでください。」 よりも 「JIS規格に合った部品を使ってください。」にする方が明快になる。
- 受動態よりも能動態
たとえば「送付された仕様書にて指示された通りに仕上げ てください。」 よりも 「送付した仕様書で指示した通り仕上げてくださ い。」の方が明快になる。
- どう書けばいいのか
「まず結論、そしてその理由」という 文章のスタイルに慣れること。
- どのようにしてトレーニングするか
プレイン・ イングリッシュを学ぶことによって、簡潔で論 理的なプレイン・ジャパニーズの力をつけていく こともできる。
- 当事者の意志の正確な反映
- 具体的に書くこと
(1)数字を使う、(2) 生起した事実を伝える、(3)観察したそのま まを伝える、(4)人が語ったことをそのまま 引用する、(5)事例をそのまま説明する、など。
「プレイン・ジャパニーズ」のすすめを読んで、言われれば当たり前のことばかりですが、ついつい忘れがちです。こうしてポイントごとに整理していただくことで、どうしてそれが必要なのかがよくわかりましたし、翻訳作業に大いに役立つ情報でした。また修了作品に取り組んでいたときに、教授に添削をいただきましたが、そのときのことを思い出しました。
回りくどい、長いというコメントが多かったのですが、まさにプレイン・ジャパニーズを問われていたのだと思います。修了作品に取り掛かる皆様にも大変有益な情報だと思いますので、是非お読みください。
クリーバー海老原 章子
2014年秋期インターナショナル・パラリーガル/法律翻訳科修了。現在は、フルタイムで翻訳会社に勤務(リモート勤務)。アラブ首長国連邦在住。3児の母。
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