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関連寄稿 - クリーバー海老原 章子

2015/10/10

英語から見た日本語、日本語から見た英語 ― 翻訳の視点から
 
クリーバー海老原 章子

 
 数年前から私が担当していた英文和訳の仕事場は、チーム作業だ。どうも私の日本語は直訳になりがちだとチェッカーからの指摘を受ける。過去10年間学んだにもかかわらず、表現もいまひとつ不自然で、時には原文からかけ離れてしまう。プロの翻訳家として国際的に認められる日本初のバベル大学院で翻訳の翻訳文法基礎ルールを、数ヶ月前から学び始めている。
 最近、クルマ関係のニュースをブログで伝える英語の記事を和訳する仕事を頼まれた。2015年の10月9日から3日間富士スピードウェイにて6時間耐久レースが行われる。英語では、2015 FIA WEC 6 hours of Fuji. とある。英語の文法of + 名詞の主語を表す場合と、翻訳文法基礎ルールのUnit 5では学ぶのだが、日本語では富士6時間耐久レースと置き換えられる。Frequent Flyer と各航空会社でマイレージサービス・プログラムを表現するが、Unit 8で学ぶように、「高い頻度でご搭乗頂いているお客様」というよりも、「お客様は頻繁にご搭乗くださっている」と訳した方が、日本語としてはしっくりくる。
 また実際に私は、中学生の英語では代名詞が多いなと思ったことはないが逆に日本語は、あいまいだとか主語を省略していいものだと勘違いしていたようだ。英語は繰り返しを嫌うために代名詞が多く、日本語は主語がわからなくなるのを防ぐためには、何度も主語をそのまま出してもいいのだとUnit 9で説明された。最大の問題として、関係代名詞は日本語には存在しないものだUnit 10でいわれた。そのため、工夫しなくてはならず、日本語らしく表現するには接続詞を補う場合もある。それでもだめなら、全体の意味をとって1から文章を作り直す。さらに、副詞の訳し方、比較級や最上級なども日本語らしく翻訳するための基礎文法を丁寧に習っている。すると、これまで悩み続けた問題の壁がしだいに崩れはじめるのを実感できる。Her picture can be recognized by its coloring.を、彼女の絵には特徴的な色使いがあるので分かる、と原文から離れて意訳しそうになるが、いやいや、色使いを見れば彼女の絵であることがわかると訳せば、十分だと理解することもできた。これから後半の勉強に進むのだが、ほんの数ヶ月でずいぶんと楽になることができ、翻訳文法基礎ルールは固くなった私の英文和訳法を緩めてくれている。
 
 英訳はというと、日本語から訳す際に、あらゆる英語表現を試しながら作文している。夏季休暇に家族と訪れた日光東照宮では、英文の説明をじっくり読んでみたところ、shogunate という英語に出くわした。徳川幕府はTokugawa shogunateと訳されている。詳しく調べたところ幕府はmilitary government を意味するらしい。他にも三代目はgrandsonとだけ、訳されていた。これも基本ルールで学んだことなのだが、英語は状況を論理的に分析して、明確な構文にまとめあげるのに対して、日本語は状況密着の言語で前後関係によりかかり、言わなくてもわかることはできるだけ省略する。英語の長文読解を日本人が苦手とするのはこうした理由からだろうか。
 大学院に入る数ヶ月前より、私は自宅のある神奈川県でご近所さんに英会話を教え始めているのだが、関係代名詞の理解が難しく、前置詞がうまく使えないという問題を抱えている人がいる。置き換える方法で関係代名詞は、理解してもらえたが、前置詞のほうは使い続けるしか覚える方法はなさそうだ。
 ところで、最近ドラえもん映画のタイトルでも使われた「Stand by me」という表現。有名な歌詞としても、When ever you’re in trouble, won’t you stand by meとあって、和訳すると「困っているときは、僕が君の支えになっていたい」となる。物理的にそばにいるだけでなく、支えになる、といった意味もStand by meに含まれるようだ。今まだ英語表現法を履修していない私はこうした表現にも慣れるしか術がない。
 話がそれてしまうかもしれないが、最近は仕事で、小児科のアレルギーに関する論文や糖尿病患者への行動変容を促すアドバイス方法などを英語で読んでいる。専門分野ではないので多くの場合には助けが必要になるけれど、ある程度用語の意味を抑えてしまえば、ざっくりとだが、内容を把握することはできるようになってきた。何が言いたいのかというと、結論として、英語の世界にどっぷり漬かりながら好奇心を旺盛にしていれば、学べることはまだまだ多い。習うよりも慣れろともいうが、習うことのほうが慣れるよりもずっと役に立っているし、面白い。いまの私は翻訳を学ぶことで、ようやく2つの異なる言語が理解できるようになってきた。


クリーバー海老原 章子
バベル翻訳大学院2014年度秋期修了(インターナショナルパラリーガル&法律翻訳専攻)。
ワーキングスカラシップ生。
現在、アラブ首長国連邦在住。3児の母。