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関連寄稿 - 石井ふみ

2015/10/10

英語から見た日本語、日本語から見た英語 ― 翻訳の視点から

石井 ふみ

 
 翻訳をする上で重要な要素として「自然な文であること」「Fluent であること」が求められます。今回は自然でFluentな文を念頭に英語の特性、日本語の特性について自分なりに検討して 英語から見た日本語、日本語から見た英語を考えてみたいと思います。
自然な文を成立させるために重要な役割を果たすのはどんな要素か?私の頭に思いつく項目を挙げて英語と日本語を比べてみることにします。
  1. 主語と目的語
日本語の場合、主語と目的語は、表現しなくても伝わる場合は省略した方が自然な文になります。一方、英語は主語と目的語を省略するとあいまいで意味が通じなくなります。
例えば、
「今日は、”嵐”のコンサートに行きますか?」
「ええ、(私は嵐のコンサートに)行く予定です。」
 
「S大学のスティーブ先生はご存じですか?」
「いいえ、(私はスティーブ先生を)知りません。」
このように日本語の場合は、括弧内の主語・目的語を省略しても意味は通じます。逆に省略した方が自然な表現になります。
 
英語にすると次のようになるでしょうか。
Are you going to Arashi’s concert today?
Yes, I am going to the concert.
 
Do you know Mr. Steve of University S?
No, I don’t know him.
英語の場合は、まず主語の省略は不可能で、目的語も省略せずに明確に表記します。
英語から日本語に翻訳する際は、主語と目的語を省略した場合、意味が通じるかどうかを検討します。意味が通じるようであれば、その方がすっきりした自然な表現になります。逆に日本語から英語に翻訳する場合は、誰が主語で何が目的語かを見極め明確に表記するようにしています。

 
  1. 語順の違い
英語は、大事なことを先に伝える言語だと言われます。動詞が先にきて、修飾語は後から付きます。それに比べ日本語は動詞が一番最後に来ます。つまり、英語のSVO型に比べ日本語はSOV型になります。 
 例えば、(S=主語 O=目的語 V=動詞 修=修飾語)
 私は 昨日 友達と 嵐のコンサートに 行った。
 S      (修)      O            V     
      
 I went to Arashi’s concert with my friend yesterday.
 S  V          O               
 私は、バベルの「翻訳英文法」で学習したように、英語を日本語に翻訳する場合は、英語の語順にならって、なるべく「頭から訳す」ようにしています。最近は、できる限り英文を音読しています。音読しながら意味がすっと入ってくるところで区切りながら、訳すようにしています。その後に修飾語をつけてみて、自然な意味になればよしとしています。特に長文になる場合は、後ろから訳しあげるよりも読みやすい自然な文になると思います。

 
  1. 受動態と能動態
 英語は、受動態が比較的多く使われるように思います。私は法律翻訳を専攻しましたが、特に法律文章の場合、受動態の文章をよく見かけます。逆に日本語は、モノを主語にした受け身の表現をわざわざ使うことはしません。能動態の方がわかりやすい表現です。ですから、英文が受動態だからといって必ずしも和訳も受動態しなければならないということはありません。
 例えば、
  1. This agreement is made and entered into by and between AAA Corporation (hereinafter referred to as the 'AAA') and Matsushita KK(hereinafter referred to as ‘Matsushita’).
 
  1. This Contract may be terminated as any time by either party sending a notice to the other party…
 
  1. AAA社と松下株式会社との間において本契約を締結した。
  2. 本契約は、一方当事者が他方当事者に通知をすることでいつでも解除できる。
 
上記のような英文を日本語に訳す場合は、英文は受動態になっていてもなるべく能動態にして自然な日本語になるようにしています。

 
  1. 敬語
 日本語は、相手との「上下関係」を無視することはできません。尊敬語、謙譲語、丁寧語がありますが、最近では美化語というのもあるそうです。「お料理」「お酒」など上品な印象を与える表現を「美化語」とするそうです。またマテリアルによって、翻訳のトーンも変わります。ユーザー向けのマニュアルやパンフレットなのか、ニュースレターなのか、論文や契約書なのか、対象が誰かによって、「ですます」又は「である」体にするのかも変わってきます。適切に敬語を取り入れることができるかどうかで、「自然な文」かどうかの印象は違ってくるのではないでしょうか?
 一方、英語には日本語のような敬語はありませんが、丁寧な表現はあるでしょう。但し、Could you please...? としようが、Can you..? としようがI want you to...としようが、大きな違いはありません。

 
  1. 表現の多様性
日本語には多様な表現があります。コンテキストにしっくりくるのは、どの表現かを見極めるのが、私は個人的に一番難題だと思っています。例えば「base of lung」。単純な単語で、意味は「肺の下の方の部分」でしょうが、これではなんだかしっくりきません。では「肺の下?」「肺の底?」はどうだろう?もしくは「肺底?」。いや、そんな言葉があるのだろうか? 私の場合は、だいたいこのようなプロセスで悩みます。
またProvideが出てきた場合も表現が多様なため悩みます。 意味は「提供する」ですが、コンテキストによっては、「提供する」では意味が通じない場合もあります。他に「搭載されている」「用意されている」「備わっている」「利用できる」などを組み合わせてみて、どれが一番しっくりと自然な表現になるか、検討するようにしています。
 以上、考えてみれば、バベルで教えていただいたことばかりですが、元々性質の違う言語を翻訳するということは工夫が必要だと改めて感じました。日本人翻訳者として、自然な日本語表現ができるよう心掛けていきたいと思います。
 

石井ふみ
2014年にバベルプレスから出版された絵本「ぼくはサンタ(原題“Little Santa”)」の共訳出版ワークショップに参加。
翻訳に興味を持ち、バベル翻訳大学院第一専攻で学び始めた。
管理栄養士の立ち上げた会社でアシスタント・トランスレーターとしてパート勤務、
現在は医学論文の英文校正なども担当させてもらっている。(神奈川県在住)