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第177号 巻頭言

炭素系人間とケイ素系人工知能の共同作業

BUPST バベル翻訳専門職大学院 学長 湯浅美代子


 皆様いかがお過ごしでしょうか?日々の忙しさの中で、毎日のやることリストに追われていませんか?

 

 21世紀に入って、既に17年目になりました。20世紀から21世紀に移り変わるという頃は、世界中で新しい科学や宇宙の新しい文明と遭遇するのではないか?とか、そういう気分があったものです。いわば未知との遭遇ですね!未知へのあこがれ、宇宙へのあこがれの気分がありました。
 

 当時は、色々と科学系の特別番組が組まれていたように思います。中でも記憶しているのは、これからは宇宙に進出する時代だということで、宇宙の組成ということや、宇宙に出ていくとなると、今の炭素系の人間では無理ではないか?宇宙に出るにはケイ素が必要で、ケイ素系の身体になる必要がある!と思った次第です。ケイ素系の人体とはどういうものかしら?と思うと、ケイ素はガラス質、クリスタルだと思い込んでいたので、今の身体とはずいぶん変容する必要があるのだろう、と漠然と思っていたように記憶しています。


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世紀はまさにインターネット時代の始まりであり、インターネットを活用した新たなスタイル、新たなシステムが登場し、今や、スマホなしでは過ごせないような日々になっています。本誌もWEBマガジンとなりましたが、相変わらず「翻訳」というテーマで継続発行できるということは、大変うれしいことです。ところで、ケイ素が使われているものの代表の一つはコンピュータですね。21世紀に入ってとりわけテーマになったのが「AI人工知能です」これは、ケイ素型です。

 

 最近では、人間がAIに取って代わられる日が近づいている、というようなニュースがどんどん流れてきますが、初めの内こそ関心も高いのですが、その内それも慣れてしまって、今や人工知能AIの話が出ても、よほどのトピックでないと、大した反応を示さないようになってしまったのではないかと思います。人間の意識は直ぐに既成の知識に囚われていくのですね。つまり一度記憶データとして書きこまれたら、とてもなじみのあるもの、既知のものに分類され、あまり関心を払わないようになってしまうのです。
 

 これが、よく言われる「洗脳」というシステムかもしれません。一度書き込まれた情報は、初めはキャッシュメモリとして比較的新しい情報として短期記憶的に保存されるのでしょうが、それがあちこちで何度か目にする、耳にするようになると、キャッシュメモリではなくなり、長期の記憶に保存され、それについての関心が急激に衰えてしまい、当然の既成の事実のように疑問も持たず、そのまま受け入れてしまうようなシステムなのかと思います。そう考えると、洗脳ではなく「染脳」染まってしまうという方がしっくりくるようにも思います。洗脳されやすいということは、私たちの脳の基本性質なのでしょうか?
 

 翻訳作業は、基本、頭脳の活動ですから、脳の特性、性質、構造、システムをよく知って使いこなすか、知らずに使うかは、かなりの差があるように思います。もし、仮に「脳は洗脳されやすいものだ」という認識があれば、新しい言葉や分野を学ぶとき、「洗脳されやすい」側面を使うと効果的だと言えますね。しかし、逆に「洗脳されやすい」状態のままで、新規の翻訳に取り掛かると、前の翻訳情報が残っていたりして、新たな翻訳へのチャレンジと言いますか、アイデアの発露が乏しくなるような感じがします。同じようなフレーズを続けてしまったりして、文章の生き生きした感じをうまく表現できないことさえあるかもしれません。


 好きこそものの上手なれと言われますが、好きなジャンルのものばかりを読んだり、話題にしたりしていると、その特質、状態にやはり染まってしまいます。その分野の翻訳を専門にすることは、従来行われているわけですが、初めのうちはとても良い成果が得られて高い品質を保持できるようになります。しかし、長年、そればかり続けていると、やはり、変化への適応力というか柔軟性に欠ける、つまり対応が固くなってしまう。頭が固い状態になってしまうようにも思います。つまり、専門性は持つべきであるが、同時に柔軟性も必要になるということなのですね。


 20世紀後半は、比較的平和が続いた時代であり、専門性が大事で専門を持つことが尊重され、推奨されて、効果を発揮できた時代であったと思います。21世紀は20世紀の知識、常識がどんどん破壊され、新たなシステム新たな専門ジャンルが登場し、しかも、その専門ジャンルの永続期間がどんどん短くなり、数年経つとすっかり新バージョンに代わってしまうので、バージョンアップに、アップアップしながら対応せざるを得ない、というような感じがします。


 21世紀のケイ素系このPCのソフトウエアなのですが、ウインドウズ10になってから、すごくレベルが下がりました。それはAIの機能がはめ込まれたためにまだ処理能力が低いうえにやたらエネルギーを消費するという状態になってしまったからかと思います。元のウインドウズ8に戻そうかどうか、と考えているうちに更新が来ています。これはただ、私自身のソフトウエアに関する専門知識の欠如がなせる業なのですが、この原稿を書いているときに、ワードがフリーズし全原稿が消えたかしら!!という瞬間を何度も味わいました。


 皆さんは、そんなこともないかと思いますが、このところウインドウズ10をうまく使いこなせず、閉口気味なのです。閑話休題。専門知識を持ち、常に新しくなる情報を取り入れつつ、日々の時間間隔の変化に如何に適応していくか?とても大事なポイントに差し掛かっています。変化の流れに追われて、そのまま洗脳されていってしまうと、変化に対応しているようで、別の問題があります。


 逆にあまり変化に対応せずにいるとやはり問題が出ます。このような変化と時間の経過が激しい時は、自分の意識の置き所、自分が今どこのいるのかをしっかり把握しておく必要があります。時には流れから出てみて、冷静に周りを見るゆとりが必要ですし、ある時は流れにどんどん乗ってみるということも必要です。つまり、どちらかに偏らず、冷静さを持つということでしょうか?


 このような柔軟な姿勢が一番大事ですね。これから、常識が覆されていくことがいろいろと出てきても、そのような柔軟な意識で対応すれば、必ず道は開けると信じることです。人間は、か弱いようで意外と強靭、タフな生物でもあるようです。これからますます、炭素系人間とケイ素系AIとの共同生活は深まっていきますから、相手を十分に知り、自分が言いたいことはしっかり通すというような姿勢が大事かと思います。


 翻訳ビジネスは、ある種、炭素系システムとケイ素系システムとの共同作業にとてもあっているビジネスなのかもしれませんね。

最後までお読みいただきありがとうございます。

第176号 巻頭言

本誌は、6月から、毎月7日と22日の配信です。


BUPST バベル翻訳専門職大学院 学長 湯浅美代子


 この6月から毎月7日と22日の配信日となりました。新しいWEBTPTをよろしくお願いします。


 新しいと言っても、配信日だけ変わった、というのでは面白くないですね。勿論中身もこれから新しい連載や、時代に合ったテーマで堀下げた記事をお届けしますので、ご期待ください。


 でも、やはり、配信日が変わるというのも、変化の意味としては結構深いものがあるのです。


 WEB
マガジンですから、なるべくタイムリーなテーマでお届けすることができると考えていましたが、
最近の世界のテンポはとても速いので、結構、しっかりと意識することが必要だと思います。
 

 一週間くらい、あっという間に過ぎてしまいますし、日々の出来事も、結構大きな変化や事件が起きたりして、世の中の揺れの振幅がとても大きいと感じることが多くなりました。


 現代はまさに時間感覚の転換期だとも言えます。時間という概念は、私達人類にとっては100年足らずの短い生涯時間でしか、世界を捉えることができないということになっていますが、本当にそうなのでしょうか?でも最近では、私の周りの方々も90代の方が増えていますし、だんだん皆さんの年齢という時間表現の尺度もずいぶん変化してきたのではないかと、実感します。


 例えば、あなた自身は自分の年齢に対する感覚意識が、昔、自分と同じ年代の人々が感じたり、行動したりしていた感じとはずいぶん変わってきていると、感じたことはありませんか?私の感じでは、20年は確実に若返っているように思います。つまり、今の90代は昔の70代の感じのように思います。皆さんお若いです!!


 意識の持ちよう、意識のありようで人間の年齢は変わる?のなら、これほど楽しいことはない!と思われるかもしれません。そして、それはかなり深い現実探査ですね。現代科学は、意識という震動するエネルギーをまだ十分につかめてはいないようです。でも、もしかすると、一部の人々はもう既にいろんなことが分かっていても、そのことを言ってしまうと、人々がびっくりしすぎてしまうから、まだ公開するときではない!ということなのかもしれません。


 例えば、あなたが翻訳者として日々忙しく翻訳の注文を受けておいでなら、それはとても素晴らしいことですね。まさに翻訳しているときは、著者と自分という二人の間を行き来しながらあれこれ悩みつつ、仕事をしているわけですが、さらに、翻訳を生業とする時には、読者という第3者のことも大きな要素ですから、いわば自分、著者、読者という3人の頭脳を行ったり来たりしているとも言えます。


 このような状態を別の見方で表現するなら、いわば著者という別次元、読者という別次元の存在とあれこれ瞬時に交流、交差しながらコミュニケートしているとも言えます。そんなことを考えていますと、これはとても意味のある大きな発見だと自分で納得しています。つまり、私達人類は、AIに負けるとか、あの敏捷なチータには、走りではとてもかなわないとか、いろいろと負けてしまうことが多すぎるわけですが、先に述べたように、他人という別次元の存在とのコミュニケーションが取れるというのは、意外とすごい事なのですから、これは、人間の固有の特徴のひとつと言えるかもしれません。


 ところで、このコミュニケーションという作業に欠かせないものは、何だと思われますか?これこそが、人間の特徴、翻訳者の真骨頂とも言えることですが、いかがでしょうか?いくつか答えを思いつかれたと思いますが、私が気づいたそれは「想像力」です。イメージ化とも言えますし、想像とは「創造」クリエーションでもあります。さらに、別の側面を探せば、「共感力」でもあり、「なりすまし」でもあります。つまり、相手と一つになれるか?ということでもあります。別の言葉を探せば、「思いやり」でもありますし、「つながり」とも言えますし、「拡張」ともなります。それはまた、芝居の「役者」を演じることでもあり、「やくしゃ=役者」とは「訳者」でもあるのですね。


 私達のコミュニケーションツールは言語だと、当然思われますが、言語化される前の意識の状態がそれに大きな影響を与えているとなったらいかがでしょうか?言語はもともと「音」つまり振動です。「文字」にこだわると「音」の要素が抜けがちですが、言語とはやはり「音」なのですね。「振動=震動=神道=神童」へと変化していきます。


 私達のもつ外界とのコミュニケーションツール、コミュニケーションシステムは「音」だけではありません。目は光という信号をイメージ映像へと変換するシステムであり、いわば翻訳機ですね。嗅覚も匂いという伝達物質の翻訳システムであり、皮膚感覚もそうです。つまり、人間は五感を通じて世界を捉えているわけです。このように考えると、翻訳するとき、単に言葉の意味やニュアンスだけでなく、音、身体感覚、皮膚感覚、目に映るような映像感覚などの五感を駆使するといいのではないかと思い当たります。


 いつもと違う見方、五感をフル活用できるようなトレーニングをすることで、今まで苦手意識を抱いていた新ジャンルへの挑戦や、自分の新しい側面が引き起こされてくるかもしれませんね。


 社会や、周りが変化するのを待つばかりでなく、自分自身がまず変わっていくことを選択されたらいかがでしょうか?すると、きっと冒険に満ちた新たな自分の側面を発見し、そのユニークな素晴らしい側面を体験していくことになるのではないかと思います。


 最近、私は忘れることが多くなりました。しかし、それと同時に新たな発見も多くなったのです。そう意味で、忘れることはいいことだ!!と素直に思います。忘れられない思い、の裏側に何が潜んでいるのでしょう。つらい思いも、苦しい思いも、嫌な思いも、きっと忘れられない記憶として残っているのでしょうね。それは皆体験した記憶ですから過去のものだと言えます。過去に囚われずに生きることができたら、きっと楽しいことになるのではないでしょうか?

 

楽しい体験は、「既成概念にとらわれない!」という、生き方の副作用なのかもしれませんね。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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