【ブログ】翻訳テクノロジーあれこれ by 小室誠一
機械翻訳支援ツール「GreenT」試用レポート(その1)
投稿日時:2020/04/29(水) 17:17
ニューラル機械翻訳もどんどん品質が向上しており、すでに機械翻訳を活用している方も多いかと思います。たしかに、統計ベース機械翻訳よりもずっと自然な訳文が出力され、修正もしやすくなりました。
ただし、初期のころから指摘されていた弱点はまだ改善されているとはいえません。
たとえば、ざっと見ても以下のような注意点が挙げられます。
ただし、初期のころから指摘されていた弱点はまだ改善されているとはいえません。
たとえば、ざっと見ても以下のような注意点が挙げられます。
* 訳抜け、湧き出しがある。過不足のない出力になるように制御できない。
* 低頻度語、専門用語、固有名詞などに弱い。用語の管理(訳語の統一)が難しい。
* 長い文に弱い。これは、ニューラル機械翻訳に限らず、どの方式でも同様。
* 低頻度語、専門用語、固有名詞などに弱い。用語の管理(訳語の統一)が難しい。
* 長い文に弱い。これは、ニューラル機械翻訳に限らず、どの方式でも同様。
このような問題のある機械翻訳出力文をそのまま使って翻訳するのはあまり効率的ではないと同時に思わぬ誤訳・不適切訳を生じてしまうことがあります。一見、読みやすく自然な訳文になっているために誤りを見逃してしまったり、訳語のばらつきを見逃してしまったり、なかなか一筋縄ではいきません。
こうした機械翻訳の弱点を補うためにいろいろなツールが開発されています。
今回試用したのは、翻訳者が開発した実用的な機能が満載の機械翻訳支援ツールのGreenTです。
機械翻訳を越えるGreenT
https://www.wordvbalab.com/word-addin/greent/
開発者:新田順也氏(翻訳者、プログラマー、Microsoft Word MVPをWord部門で受賞、エヌ・アイ・ティー株式会社代表取締役)
■GreenTとはどんなツールか
Wordのアドインです。インストールは、マクロテンプレート(GreenT.dotm)とショートカットキー用のプログラム(GreenT_Tools.exe)をWordのスタートアップフォルダにコピーするだけです。
インストールが済むと下図のように「アドイン」タブにボタンが表示されます。
一番左の「GreenT」ボタンをクリックすると起動します。のちほど実際に使ってみましょう。

GreenTの機能をざっと見てみましょう。
・用語集の利用
・用語集の自動作成
・プリエディット(前編集)の自動化
・ポストエディット(後編集)の自動化
・高機能なQAチェックツール
・複数の機械翻訳と連携(デフォルトはGoogle Translate)
・CATツールとの連携(Trados、Memsource、memoQなど)
・既訳文の活用(テキスト翻訳メモリ)
・翻訳ログの記録機能(原文と訳文の変更履歴機能)
・用語集の自動作成
・プリエディット(前編集)の自動化
・ポストエディット(後編集)の自動化
・高機能なQAチェックツール
・複数の機械翻訳と連携(デフォルトはGoogle Translate)
・CATツールとの連携(Trados、Memsource、memoQなど)
・既訳文の活用(テキスト翻訳メモリ)
・翻訳ログの記録機能(原文と訳文の変更履歴機能)
機械翻訳を十分に使いこなすための機能が充実していることが分かります。
体験版が用意されていて、60日間、10万文字(5万語)の翻訳を試すことができます。
興味のある方はぜひ試してみましょう。
https://www.wordvbalab.com/word-addin/greent/#download
■GreenTを使ってみる
翻訳する原文Wordファイルを開いて、「アドイン」タブの「GreenT」ボンタンをクリックすると下図のような画面が開きます。

このままでも使用できますが、原文ファイルと重なって見にくいので左右に配置してみましょう。
まず、GreenTの画面をクリックしてアクティブにしておいて、Windowsキー+右矢印キーを押します。
下図のように右側半分に配置されます。

次にWordの画面をクリックしてアクティブにしておいて、Windowsキー+左矢印キーを押します。
下図のように左右に配置されて作業しやすくなります。

翻訳するには、原文の先頭にカーソルがあるのを確認してから「次へ」をクリックします。
すると、Wordの原文センテンスが、「原文」の欄にコピーされます。
次に、「GreenT」をクリックすると機械翻訳の出力文が「訳文」の欄に表示されます。
この「訳文」欄の文は自由に編集できます。

次に、この訳文をWord原文に上書きする形で挿入するのですが、このままでは「挿入」ボタンがグレイアウトしていてクリックできません。
「QA」ボタンをクリックすると「訳文」欄の背景がグリーンになって、「挿入」ボタンがアクティブになります。
QAチェックをしないと訳文が完成したとみなさないということですね。

「挿入ボタン」をクリックすると、Wordの原文に訳文が上書きされて、GreenTの「原文」欄には次のセンテンスがコピーされます。

これが基本的なGreenTの使い方になります。
このように、ステップ・バイ・ステップで作業を進めていくのがこのツールの基本操作ですが、自動化することも可能です。
「Setting」タブを表示すると、「プレトランスレーションを実行する」、「QAチェックを自動で実行する」、「[全文翻訳]ボタンを表示する」という項目があります。

これらにチェックを入れて、「次へ」をクリックすると、「原文」欄に原文がコピーされると同時に機械翻訳され「訳文」欄に出力結果が表示され、QAチェックも終わり、「挿入」ボタンがアクティブになります。
この状態ではまだ訳文を修正することができるので、必要であれば修正して再度QAチェックを行います。

「全文翻訳」ボタンをクリックすると、開いている原文が自動的に全て翻訳され上書きされます。途中で修正することはできません。
ただし、全文翻訳が完了すると、対訳の表が作成されるので、あとでじっくり点検することができます。これは非常に実用的で、さすがによく考えられています。

■用語集機能
今回は特に基本的な使い方を試してみましたが、おそらくこのツールを使う上で最も関心があるのは「用語集」機能ではないでしょうか。
ニューラル機械翻訳は訳語を管理できないというのが大きなネックの一つとなっています。
そこで、簡単な例で「用語集」機能を試してみました。
例文:
The lake was calm and beautiful with some swans swimming on its placid surface.
用語集を使わない出力結果:
湖は穏やかで美しく、白鳥が穏やかな水面を泳いでいました。

用語集に以下のように登録しました。

「用語集」にチェックを入れて再度翻訳してみます。

用語集を使った出力結果:
湖は穏やかで美しく、波ひとつない水面を白鳥が泳いでいました。
正しく反映されました。
大量の用語が登録された用語集でもうまく動くかどうかは未確認ですが、基本的には問題なく動きました。
GreenTはこのように、誰でもごく簡単に使うことができます。
そして、さらに便利な機能が盛りだくさんなので、自分の翻訳スタイルに合わせて機械翻訳を活用できるようになります。
次回は、さらに注目すべき機能についてレポートする予定です。
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プロフィール
小室誠一
1990年から機械翻訳のユーザーとして活用法の研究を行う。
バベル翻訳大学院で、「翻訳者のためのテキスト処理」「翻訳支援ツール徹底活用」など、ITスキルに関する講座を担当。
1990年から機械翻訳のユーザーとして活用法の研究を行う。
バベル翻訳大学院で、「翻訳者のためのテキスト処理」「翻訳支援ツール徹底活用」など、ITスキルに関する講座を担当。
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